2008年12月22日(月)「しんぶん赤旗」

列島だより

景観、環境を守り

住民が まち をつくる


 住民運動のまちづくりに果たす役割と連携の動きが大きくなっています。「景観と住環境を考える全国ネットワーク」(11月15日)と「景観市民運動全国ネット」(12月13日)の集会で報告された2つの事例を紹介します。(志村徹麿)


緑生かして地区計画

福岡市南区 多賀地区

 樹齢二百年のシイの木の前を、子どもたちが元気いっぱい走り回っています。向こうの桜の木の下では、おとなたちが談笑しています。十一月二十二日、福岡市南区の多賀北緑地公園でのこと。町内清掃の後、バーベキューでおなかもいっぱいになっていました。

 ソメイヨシノは、ちょうど十一年前のこの日、緑地を守った記念に植えました。いまではおとなの背丈をはるかにこえています。

 ここは丘陵の中腹・分水嶺の高台にあり、まちの人々の大切な憩いの空間です。保全された隣地の屋敷林と連なり、野鳥の楽園になっています。「マンション率日本一」の大都市・福岡の中心地をみわたすこともできます。

マンションが

 住民運動が守り、育ててきた場所だけに、人々の愛着はひとしおです。

 一九九三年の夏、この場所に地上五階・地下一階のマンション建設計画がもちあがりました。多賀地区はかつて「文化村」とよばれ、住民ひとりひとりが何世代もかけ、宅地に木を植え育ててきた、緑の多い住宅地です。なかでも「絶景」の高台で樹木百七十六本をほとんど伐採し、緑をつぶしてコンクリートのかたまりにするなんてとんでもない―と、町内あげてのマンション建設反対運動が始まりました。

 「多賀・高宮の緑と環境を守る会」ができ、さまざまな意見の住民の運動と団結に推進役を果たしてきました。ビラ、署名、立て看板、建設業者の社会的責任を問う交渉、市長と関係部局への要請・陳情、市議会全会派への協力要請と議会請願などを続けるなか、ついに一九九四年十二月、市議会は補正予算でマンション建設予定地の買収を決めました。

高さ10メートル以下

 「緑は守られた」が、終わりではありません。この地域では、その後も五つのマンション建設計画がもちあがりました。そのたびに、住民運動が計画をやめさせ、地区計画の制定へと進んできました。地区計画は、行政が一定区画の地権者の合意を踏まえて、そこに建物高さ制限などを定めるものです。

 この間の困難も伴う豊かな経験について、『十メートル以上のマンション建築ゼロ―六企業相手の十三年間運動の記録』にまとめた著者の藤野達善さんは書いています。

 「運動は住民を結び合わせました」

 十三年間の住民運動で培ったのは、自分たちのまちの環境は自分たちで守り、育てることができるという共通の確信です。二〇〇六年十月には、まず一ヘクタールの区域で地権者全員の合意を得て、地区計画が施行されました。高さ十メートル、三階建て以下、建物の形態・色彩は周辺環境に調和させ、垣・さくは緑豊かな街並みに配慮するというものです。

 来年にかけて、五ヘクタールに広げる手続きが進み、さらに二ヘクタールの区域での協議もはじまっています。


里山に道路 う回を提案

千葉・松戸市 「関さんの森」

 木漏れ日がさす昼下がり、「関さんの森」(敷地二・一ヘクタール、千葉県松戸市幸谷一三一)の母屋で、「自然、歴史、文化遺産を残しながら、共存していく道路を」と関美智子さんが語ります。記者会見で、「関さんの森道路案」を説明した十二月十五日のこと。縁側では何匹もの猫が、日向ぼっこをしていました。

 敷地の東半分は屋敷林で、一九九五年に自然保護団体に寄贈してあります。南側の「子どもの広場」も開放しています。この日は、お年寄りがゲートボールを楽しんでいました。

 西側には、江戸時代に名主だった関家の門・蔵や屋敷と庭、そこにある「熊野権現」のほこら、道をはさんで広がる梅林とケンポナシなど希少な古木たち、そして農園。

 歴史を刻む自然と生活、生産の場が一体となり、「松戸の原風景」ともいわれる貴重な里山になっています。

子らのため

 この里山をかたまりで残したい―それが関さんたちの希望です。農薬ではなく、自然の力ではぐくまれたこの地の動植物の生態系は、子どもたちにとって得がたい体験学習の場になっています。

 そこは、まちの人々の憩いの場であり、人と人、人と地域の結びつきの場です。共感する人々が九六年から「関さんの森を育む会」で支えてきました。ことし七月には、「関さんの森エコミュージアム」を開設し、五百人以上の記念シンポも成功しました。

 ところが松戸市はその直後、敷地の「こども広場」から西側をまっすぐ貫通する道路計画(十八メートル幅)の強制収用手続きにはいりました。

 関さんたちは、道路に反対しているのではありません。話し合いで里山を生かす道づくりに、と願っているのです。専門家の協力を得てつくった「道路案」は、敷地内のもっと西側の梅林の端にう回させ(十一メートル幅)、里山へのダメージをできるだけ抑えるというものです。関さんは、道路用地を無償で提供する意向です。

話し合いで

 この道路案の実現に賛同して、三万人の署名が寄せられました。

 川井敏久市長は、道路案を検討し関さん側と話し合う意向を表明しています。関さんたちが「土地収用手続きはやめて」と訴えていることについては、「今後の話し合いの経過を見ながら判断したい」と地元紙で語っています。

 関さんは、「市民の意見が反映し、共同して楽しく道づくり」ができて「あとから誇らしく思えるといいな」といいます。「関さんの森」に愛着を持つ市民に共通の願いです。


 景観と住環境を考える全国ネットワーク
 連絡先=03(5228)0499、ファクス03(5228)0392

 景観市民運動全国ネット
 連絡先=03(3585)1035、ファクス03(3585)1038

 多賀・高宮の緑と環境を守る会
 連絡先=092(511)5644藤野達善会長(ファクスも)

 関さんの森を育む会
 連絡先=090(9365)9608武笠紀子代表、同エコミュージアム 連絡先=090(9156)4960木下紀喜代表、いずれもメールはseki_forest@yahoo.co.jp



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