2008年11月20日(木)「しんぶん赤旗」

経済時評

国際的な金融改革への過渡期


 世界的な金融危機に対処するための緊急金融サミット、G20会議(二十カ国・地域首脳会議)が十四、十五日に開かれました。

 昨年夏に「米国発の金融危機」が勃発(ぼっぱつ)していらい、主要国は、破たんした金融機関への救済や信用収縮する資本市場への資金提供に追われてきました。新興国を含めて、金融のあり方を議論する国際会議が開かれたことは、きわめて歴史的意義のあることです。

 今回のG20会議の、邦訳で一万字近い宣言を子細に読むと、投機的な金融活動への規制強化の方向は明確に打ち出されていますが、実効性のある具体策は、来年四月までに開く次回会議まで先送りされています。世界は、国際的な金融改革の扉を開いたが、まだ乗り越えなければならない困難な課題があるという感じがします。

 国際的な金融改革の方向を検討するさいには少なくとも次の四つの視点が必要だと思われます。

(1)破たんした金融機関の救済や信用収縮の犠牲を、各国の勤労国民や新興国に一方的に押し付けないこと。

(2)米国主導の「新自由主義」金融政策の路線を、きっぱり転換すること。とりわけ米国自体が、その立場に立つこと。

(3)「基軸通貨ドル」体制の見直しへむけて、国際的経常収支不均衡の是正をすすめること。

(4)大国主導のIMFなどの金融制度・国際機構の改革を、新興国の意向を重視して促進すること。

「規制強化」に消極的な米国の姿勢が孤立

 こうした視点から、金融サミットへいたる欧米日の対応を振り返って見ましょう。

 今回の会議の開催にもっとも積極的だったのは、EU(欧州連合)でした。EUは、事前に加盟国の首脳会議を開き、意見を調整したうえで、すべての金融分野の規制や監督を強化することなどの五原則をまとめ、新興国と連携して、抜本的金融改革を米国に強く求める立場を明確にしていました。

 これにたいし、ブッシュ大統領は十三日にニューヨークで演説し、金融危機の原因は「途上国から先進国への資本流入が金融機関のずさんな融資を拡大」したことにある、などと強調し、「米国の規制緩和が原因」という見方を強く否定しました。そして、資本主義の繁栄は「自由な市場」にこそあり、「過度な規制強化」に反対する立場を示しました。

 日本の麻生首相は、会議で「危機の克服」と題する提案を発表しました。そのなかでは、「金融危機の発生」は、「新たな金融商品の出現やグローバル化に、各国政府による監督・規制が追い付いていけなかった」からだとしながら、こう強調していました。(注1)

 「自由な市場原理に基づく競争、資本フローが、今後とも成長の基礎であり続けることは言うまでもない」。

 「米国の経済力が低下し、世界最大の債務国となった現在、果たしてドル基軸通貨体制は今後とも安定的に持続するのか、という声がある。しかし、我々としては、現在の国際経済・金融システムが依拠している、ドル基軸体制を支える努力を払うべき(である)」。

 これはアメリカの主張にすりよる姿勢―旧態然たる対米追随路線です。

 G20会議の結果は金融規制にたいする米国の消極姿勢は完全に孤立する形となり、規制強化の方向が打ち出されました。

オバマ新政権の「変革」路線がどうなるか

 今回のG20会議の経過から言えるのは、深刻な金融危機を契機として、世界は二十一世紀の新たな国際金融秩序の形成をめざす過渡的な時期に入ったということです。あえて“過渡的”というのは、従来の「新自由主義」的金融・経済政策からの転換をはかるべき米国自体が、まさに政権移行の過渡期にあるからです。

 今回の国際会議にあたって注目されたことは、ブッシュ路線を批判して当選したオバマ次期大統領がどのように関与してくるかということでした。オバマ氏は直接には登場せず、代理を送るだけにとどまりました。

 日本共産党の志位和夫委員長は、オバマ氏の当選にあたっての談話で、「『変革』の路線がオバマ新政権の政策と行動にどう具体化されるかに、注目する」と指摘しています。来年一月二十日に就任するオバマ新大統領の「変革」路線がはたしてどのようなものになるのか、まだ明らかではありません。

 今年のノーベル経済学賞を受けたクルーグマン・プリンストン大教授は、「様々な指標を見れば、我々が世界的な大不況に突入しつつあるのは明らかだ」(注2)と述べています。

 世界的な金融危機の震源地である米国の大不況が深まれば深まるほど、米国の「変革」は加速し、本格化していかざるをえないでしょう。次回のG20会議までに、米国がどう変わっていくか、それが当面の最大の焦点です。(友寄英隆)


注1)首相官邸ホームページより。なお、麻生首相は、十一月十四日付の「ウォール・ストリート・ジャーナル」(電子版)に、この提案文書の趣旨を個人論文の形で寄稿している。その論文では、「自由な市場原理を基礎にするべきこと」を、より強調する英文になっている。

注2)「朝日」十一月十七日付。



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