2008年10月9日(木)「しんぶん赤旗」

ノーベル化学賞に下村氏

クラゲ物質応用 医療に貢献

　スウェーデン王立科学アカデミーは八日、二〇〇八年のノーベル化学賞を米・ボストン大学医学校名誉教授で米・ウッズホール海洋生物学研究所の下村脩（おさむ）博士（８０）ら三氏に授与すると発表しました。ほかの二人は米・コロンビア大学のマーチン・チャルフィー教授と米・カリフォルニア大学サンディエゴ校のロジャー・チェン教授。

　受賞理由は、クラゲから緑色の蛍光を発するたんぱく質ＧＦＰを発見し、その応用法を開発したこと。現在では、このたんぱく質の遺伝子を利用して、脳の神経細胞の発達過程やがん細胞が広がる過程など、これまで見ることができなかったプロセスを追跡できるようになりました。

　下村さんは一九二八年に京都府で生まれ、五一年に長崎医科大付属薬学専門部（現長崎大学薬学部）を卒業し、六〇年に名古屋大学で理学博士号を取得。八三年に米・ウッズホール海洋生物学研究所上席研究員となりました。

　米国留学中の六一年夏、米ワシントン州フライデーハーバーで、縁が緑色に光るオワンクラゲを約一万匹も採集してＧＦＰを取り出すことに成功。六二年、ＧＦＰに紫外線を当てると、明るい緑色に輝くことを発表しました。

　日本人のノーベル化学賞受賞は、〇二年の田中耕一・島津製作所質量分析研究所長（４９）以来で五人目。授賞式は十二月十日、ストックホルムで行われ、賞金一千万スウェーデンクローナ（約一億四千万円）は三氏に三分の一ずつ贈られます。

　緑色蛍光たんぱく質　オワンクラゲがもつ、分子量２万7000の蛍光たんぱく質。オワンクラゲの体内では、別のたんぱく質と複合体を形成し、緑色の蛍光を発しますが、単独でも紫外線を当てると発光します。オワンクラゲは、傘の直径が約２０センチメートル程度で、ほかのクラゲや小魚などを食べます。

病気の解明などに貢献

　生物の体の中には何万種類もの異なったたんぱく質があり、それぞれが相互作用することで、生物の体がコントロールされています。このしくみがうまく働かないと、病気になったりします。

　病気がなぜ起こるかを解明するには、それぞれのたんぱく質が生きた細胞の中でどんな役割を果たしているかを明らかにする必要があります。下村さんが一九六二年に発見した緑色蛍光たんぱく質（ＧＦＰ）は、従来難しかった、この課題を解決するために役立てられています。

　調べたいたんぱく質の遺伝子ＧＦＰの遺伝子を融合させて細胞内に入れ、紫外線を当てると、ＧＦＰが蛍光を発します。これを目印にして、たんぱく質の位置や構造、動きなどを知ることができます。

　これまでに、アルツハイマー病により神経細胞がどのように壊れていくのか、発達中の胚（はい）の膵臓（すいぞう）でどのようにしてインスリンをうみだす細胞がつくられるのかを知るのに利用されています。

　最近では、ＧＦＰよりも明るく、反応時間も短く、さまざまな色の蛍光を発するたんぱく質が開発されています。これを利用して、マウスの脳の異なった神経細胞にさまざまな色の標識をつけることに成功した実験も行われています。（間宮利夫）