2008年10月3日(金)「しんぶん赤旗」

事件リポート

低料金・狭い空間・密室…

“深夜難民”目当ての営業

個室ビデオ店火災


 死者十五人・重軽傷十人を出す大惨事となった一日未明に発生した大阪・浪速区難波の雑居ビル火災。犠牲者の多くが、個室ビデオ店を簡易宿泊所代わりにしていたとみられます。安い料金、狭い空間に並ぶ密室―。大都市に潜むゆがみと危険性が浮き彫りになりました。(阿曽隆)


 火災現場は南海電鉄難波駅に近い繁華街。飲食店や雑居ビルが建ち並びます。西日本有数の歓楽街「ミナミ」。深夜でも若者やサラリーマンの姿が絶えません。

都会で店舗急増

 東京や大阪など大都市では近年、個室ビデオ店やインターネットカフェなどの個室型店舗が急増。終電を逃した人がホテル代わりにしている実態があります。その背景には「ワーキングプア」をうむ働かされ方の問題も見えてきます。

 週四回、ミナミの居酒屋でアルバイトしながら専門学校に通う堺市の男性(20)は、月に五―六回、インターネットカフェを宿泊目的で利用するといいます。「少し寝て学校にそのまま行きます」

 別の個室ビデオ店の従業員は、「スーツ姿のサラリーマンなど泊まり目的の人が増えている。週三回以上泊まる常連客はけっこういる」と話します。

 ドラッグストア従業員、本木剛さん(27)=仮名=。店の閉店は深夜十二時ですが、後かたづけや残務をこなすと終電に間に合いません。個室ビデオ店やネットカフェで仮眠をとり、翌日再び職場に出勤することが何度もありました。

 ナイトパックで最低九百八十円からの料金設定。カプセルホテルより低料金です。しかしそれも、「お金に余裕のある時しか利用しない」といい、ほとんどは閉店後の店のなかで朝まで過ごすといいます。残業代はでません。月の手取りは約十五万円です。

 「体はやはりしんどいです。いつまで続けられるのかという不安もあります。条件のいいところがあったら移りたいけど…。正社員で働けるだけましなのかなと思います」

 個室ビデオ店側はこうした長時間労働を強いられている層や住居がない「ワーキングプア」をターゲットに「低料金で快適に眠れる」をアピール。「ライバルはホテル」をうたい文句にする店もあるほどです。無料シャワーや枕、毛布の貸し出しがあり、シャツや下着の販売も。値段も格安の深夜パック料金が設定され、今回の個室ビデオ店も千五百円で午後十一時から翌朝午前十時まで過ごすことができました。

 今回の犠牲者の多くは個室のカギがかかった状態のままで死亡していました。就寝中だったとみられます。

法のすきまつく

 ミナミにある同規模の個室ビデオ店を取材すると、個室はテレビとリクライニングシートが設置された窓のない二畳ほどの密閉された空間。壁が天井まであり、内側からカギがかけられ完全な個室になるのが特徴。たとえ火災が起きても気づきにくい。通路は迷路のように入り組み、幅は人が一人通るのがやっとで、逃げ道となる出入り口は一カ所しかありませんでした。

 個室ビデオ店は、業態がホテルにも飲食店にもあたりません。法のすきまをついた都会の死角ともいえる存在でした。

 多人数が雑居ビルの狭い密室で寝泊まりしていながら、実態も十分把握されていない―。事件は、雑居ビル、個室型店舗の安全体制とともに「働きかた」についても問題を投げかけています。



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