2008年9月11日(木)「しんぶん赤旗」

9・11テロから7年 いまアフガンは

戦争が招いた暴力の悪循環

米軍の空爆 死者3倍 06〜07年


 ニューヨークなど米国での9・11同時多発テロから七年。犠牲者の傷がなお癒えないなか、米ブッシュ政権による報復戦争が続くアフガニスタンは最悪の状況に陥っています。テロに戦争で対応するやり方は、憎しみを広げ暴力の悪循環になるだけだということが明白になっています。


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 国際人権団体ヒューマン・ライツ・ウオッチが八日に発表した最新の報告によると、民間人の死者は二〇〇六年の九百二十九人から〇七年の千六百三十三人に倍増。なかでも米軍などの空爆による民間人の死者が〇六年の百十六人から〇七年の三百二十一人に三倍になりました。

 今年に入っても七月までに百十九人が空爆だけで死亡しています。

 米軍が八月二十二日、アフガン西部へラート州で行った「タリバン掃討」作戦では、民間人九十人余りが空爆で死亡しました。一度の空爆による犠牲者数としては〇一年十月の戦争開始以来最大です。国連は現地調査を基に、九十人の死亡を確認。そのうち、子どもが六十人、女性が十五人だったことを明らかにしました。

混乱が拡大 パキスタンも

 アフガンと国境を接するパキスタンにも米国は「対テロ戦争」に無理やり協力させてきました。その結果、国内の反米勢力が勢いづきテロは逆に拡大、ムシャラフ政権を崩壊に導きました。パキスタンだけで国内避難民は四十万人に達すると伝えられます。

 最近も米軍はタリバン掃討の名でパキスタンへの越境空爆を強化。今月三日には初めて地上部隊が越境攻撃し民間人二十人を殺害しました。パキスタン政府は米国に公式に抗議し、議会は糾弾決議をあげました。

タリバン復活 全土の8割に

 米軍などの軍事作戦が強まるなか、武装勢力タリバンが復活しています。米国防総省は六月末の議会への報告で、タリバンが「再編され、回復力のある武装勢力と結託している」と述べていました。タリバンの活動地域は全土の七―八割になっているとみられます。

 タリバン復活を実証した形となったのが、八月十八日、首都カブール五十キロでタリバンの待ち伏せ攻撃を受けて仏軍兵士十人が死亡した事件です。米誌『タイム』はこの事件を武装勢力の攻撃の「新しい段階」と指摘しました。

 アフガンで人道援助のために活動する非政府組織(NGO)の被害は今年一―三月だけで二十九件発生。昨年の総数三十件に近い状況です。こうした治安悪化の中で、八月末、日本の「ペシャワール会」の伊藤和也さんが誘拐され、遺体で発見されました。

 九十人が死亡した事件直後、カルザイ大統領は直ちに米軍に抗議しました。七月初めにも米主導の多国籍軍の空爆で女性や子ども二十二人が死亡した事件を受け、同大統領は「多くの無実の人が爆撃で殺されている」と非難。米軍などの軍事行動がアフガン国民の反発を招くと警告していました。アフガン政府高官は、多数の住民犠牲が「タリバンに宣伝材料を与える」と警告しています。

 アフガン政府はさらに、空爆を「最も強い言葉で糾弾」とした上で、多国籍軍のアフガン駐留期限に関する交渉を求めることを決定しました。

 ヒューマン・ライツ・ウオッチの報告も空爆はアフガン国民の多国籍軍への支持離れを招いていると指摘しています。

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「間違い」 世論増す

米国

 「米国は、アフガンの民心をつかむたたかいに急速に負けつつある」。米紙ニューヨーク・タイムズ六日付は社説で、米軍が対タリバン・アルカイダとして続ける戦争で「アフガン民間人が致命的な対価を支払っている」と指摘し、憂慮を示しました。

 かつてはイラクでの戦闘激化で、米国民の目からは「忘れられた戦争」となっていたアフガニスタンが、ここにきて再び焦点になってきました。タリバン勢力の復活と軍事作戦の激化で、米兵の戦死者数も、六月には過去最高の二十六人になる情勢となっているからです。これまでの米兵死者はすでに五百八十人を超えています。

 イラク侵略は「間違い」と六割がこたえる米世論も、アフガン報復戦争を「正当化」する見方が根強くあります。開戦は「間違いではなかった」が依然として六割(USAトゥデー・ギャラップ社、八月末)に上ります。ただ開戦当初の89%と比べると「正当化」論は減少。当初は9%しかいなかった「間違い」だと主張する人は34%で、過去最高となっています。

 ブッシュ大統領は九日、国防大学で演説し、アフガンに海兵隊と陸軍の部隊約四千五百人を増派すると発表しました。共和、民主両党の次期大統領候補から「増派」を促す声が上がっていました。

 民主党のオバマ候補はブッシュ大統領の増派計画を「不十分だ」と批判しました。同氏は「対テロの主戦場はイラクではなく、アフガニスタンだ」と主張し、一万人の増派を打ち出しています。

 ただ、同候補の外交顧問は「軍事二割、外交や民間支援が八割」と述べ、ブッシュ政権の軍事一本やりとは一線を画す姿勢を示しています。

 ブッシュ大統領も九日の演説で、アフガンで米国際開発局(USAID)の職員を増員するなど「文民部門の努力を強化する」と表明しました。

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「撤退」過半数に

英仏独

 アフガンでの戦闘が泥沼化するとともに、派兵国では軍事優先の作戦の見直しや自国部隊の撤退を求める声が強まっています。

 米国に次ぐ八千五百人の部隊をアフガンに派遣している英国。「朝鮮戦争以来の激しい戦闘」―アフガン侵攻以来の英兵死者が百人を突破した六月初め、BBC放送電子版がタリバンと英兵の戦闘をこう表現しました。

 「紛争解決で必要なのは、政治的目標を暴力で達成すべきだと考えている人々を、政治目標は政治によって実現できるとの考えに導くことだ」―ブラウン英国防相は今年三月、英全国紙のインタビューで、タリバンとの対話の可能性を示唆しました。米軍が指揮する軍事作戦の方針とは大きくことなる見解です。

 英国の国民は、米国とともに参戦したイラク戦争には圧倒的に反対する一方で、タリバン政権の打倒や、英兵のアフガン駐留には寛容な態度をとってきました。しかし、その姿勢にも変化が表れています。

 死亡兵士が百人に達した直後のサンデー・タイムズ紙掲載の世論調査では、54%が撤退を支持し、駐留支持はわずか34%でした。

 イラク戦争にはともに反対したフランスとドイツは、アフガンにはNATOが指揮をとる国際治安支援部隊(ISAF)に有力な部隊を派遣しています。しかし国民世論は両国でともに「撤退」が過半数を占めており、政府は戦闘地域への自国部隊の展開を拒否してきました。

 仏平和運動のアリエル・ドニ共同議長はこう指摘します。

 「誤爆などで被害を受けるアフガン国民にとって、NATO軍はますます占領軍とみなされています。国民が求める緊急援助や基本的人権の確立などを優先的に行うため、NATO軍の撤退は不可欠です」


 アフガン駐留の外国軍 対テロ戦争「不朽の自由作戦」のため米軍が独自に約一万九千人が駐留。北大西洋条約機構(NATO)軍の指揮下にある国際治安支援部隊(ISAF)が五万二千七百人。うち米軍は二万三千五百五十人、英軍八千五百三十人。米軍とISAFの指揮系統は一体化が進んでいます。


軍事でなく政治解決を

日本共産党

 9・11同時多発テロ直後、日本共産党の不破哲三議長(当時)と志位和夫委員長は各国政府首脳に書簡を送り、米国への大規模テロ攻撃を糾弾するとともに、「テロ根絶のためには、軍事力による報復ではなく、法と理性による解決」が必要だと訴えました。

 国連を中心とした告発と制裁の手段を尽くさないまま一部の国によって軍事攻撃が強行されれば、無関係の人びとの犠牲が拡大し、道理ある解決に危険をはらむと警告しました。米英がアフガニスタンへの軍事攻撃を開始した直後には二度目の書簡を送り、「戦争拡大の道から、国連を中心にした制裁と裁きの道への切り替え」を呼びかけました。

 アフガンの内外で政治解決への機運が生まれた昨年十月、志位委員長は「こういう動きをバックアップし、政治プロセスによる解決を支援する方向に切り替える必要がある」と訴えました。国会では、自衛隊が給油した米艦船の艦載機がアフガンを爆撃していることなど戦争支援の実態を突きつけて、給油活動をやめるよう要求してきました。

 最近の世論調査では、戦争協力の給油活動延長に反対が多数になっています。しかし「給油活動は重要だ」「日本の貢献継続を希望している」(米シーファー駐日大使)と米は要求。自公政府はアフガン情勢のまともな検討もしないまま新テロ特措法の延長を図ろうとしています。

 民主党も、与党の新テロ特措法には反対するものの、アフガン本土への自衛隊派兵や武器使用条件の緩和、海外派兵の恒久法整備など、新テロ特措法以上に危険な中身をもつ「対案」を提出しています。


 この特集はワシントン=鎌塚由美、ロンドン=岡崎衆史、パリ=山田芳進、外信部の伴安弘が担当しました。


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