2008年8月25日(月)「しんぶん赤旗」

列島だより

環境に優しいまちへ

農業振興一体で 住民と


 山形県長井市と福岡県大木町から、農業振興と一体で進められている「環境のまちづくり」を報告します。住民の力に依拠した両市町のまちづくりは、一般的なごみの焼却システムとは違い、地球環境に優しい循環型の処理システムをしています。


「くるっ肥」は年間6千トン

福岡・大木町

地図

 福岡県大木町は県南部、筑後平野の中央部に位置する広さ十八・四三平方キロ、人口一万四千五百人、農業が基幹産業の小さな町です。

可燃処分ゼロへ

 大木町議会はことし三月、「『ごみ』の再資源化を進め、二〇一六年度までに『ごみ』の焼却・埋立て処分をしない町を目指し」て「大木町もったいない宣言」(ゼロ・ウエスト宣言)を全会一致で可決しました。無駄の多い暮らし方を見直し、これ以上子どもたちに「つけ」を残さない町をつくろうという決意あふれた宣言です。

 わたしは党議員のいなかった大木町に隣の旧城島町から移住し昨年の町議選で当選、町の環境審議会委員に任命されました。審議会は先の宣言などを石川潤一町長に答申しました。福祉や子育てなどの住民運動が盛んな町ですが、ごみ・環境の分野でも住民の声を生かしたまちづくりが大きく進み始めたことを実感します。

 大木町は、わたしが議員になる前、二つの問題を抱えていました。町が海洋投棄していた、し尿・浄化槽汚泥の処理施設の問題(二〇〇七年二月から海洋投棄は全面的禁止)と合併問題です。合併は住民の反対や「行政と住民の協働によるまちづくりこそが求められる」という石川隆文町長(当時)の慎重姿勢が支持され、自立の町を選択しました。

 隆文町長時代の二〇〇〇年に大木町は「循環のまちづくりビジョン」を策定し、「現在ごみになっているものを地域資源として生かす」など四つの目標を掲げ、住民と協働したまちづくりに踏み出しました。職員には国内外の環境システムを勉強させました。

 こうした精神が現町長に継承されでき上がったのが、〇五年に全国に先駆けて発表した生物資源を利用したバイオマスタウン構想です。同構想の中心事業で循環のまちづくりを担う中核施設、おおき循環センター「くるるん」が〇六年十一月から本稼働しました。同施設は町内から発生するすべての生ごみや浄化槽汚泥、し尿をメタン発酵させ、バイオガスを回収して発電などのエネルギーとして利用し、さらに発酵後の消化液を有機液体肥料「くるっ肥」として活用するための施設です。メタン発酵や前処理などの建設費用は約五億二千万円。メタン発酵施設建設以前のごみ処理費用に比べ年間二千万円程度軽減されました。

自立の町だから

 ごみを地域資源として循環利用するためには、住民との協働が欠かせません。大木町では、町内のすべての家庭から出るカンやビンなどの「燃えないごみ」を十八品目にきちんと分別する資源化事業にかかわっています。生産した有機肥料は農家が使い、その農産物を学校給食や町内の家庭に返していきます。

 生ごみの分別と「くるるん」の稼働で、燃やすごみは〇五年度と比べて〇七年度44%以上削減されました。「くるっ肥」は年間六千トンが生産され、町内の農家や家庭に無料で提供され、収穫した米は「環(わ)のめぐみ」という名称で、特別栽培米として学校給食の利用や住民への優先販売を行っています。

 住民協働をベースにしたまちづくりの土台を築くことができたのは、大木町が合併せずに小さい町であったからできたのだと思います。(井上護・大木町議)

台所と農結ぶ「虹」プラン

山形・長井市

地図

 山形県長井市は県南部に位置し、広さ二百十五平方キロ、人口三万一千人です。長井市の環境のまちづくりは、農業振興と一体で市民と行政が協力して取り組んでいます。

 長井市では一九五五年以降、農産物の大量生産を支えるための化学肥料や農薬の投入過多による農地が疲弊する問題が顕在化してきました。また、九一年の調査で地場の農作物自給率が8%を切り、地場物が食べたくても食べられない、台所と食の健康についての不安がまちの話題となりました。

事業は市民主体

 八八年、市民や企業の代表など九十七人の参加で、「まちづくりデザイン会議」が設立されました。その農業分科会で、長井市の農業を「自然と対話する農業」とし、有機肥料の地域自給(生ごみのリサイクル)システムが提案され、九一年「台所と農業をつなぐ・ながい計画」(レインボープラン)を立ち上げ、生ごみを堆肥(たいひ)化し、その堆肥を農地に還元し、作られた農産物を市民に再び還元するという、地域循環システムをスタートさせました。事業は行政主導ではなく、市民主体のワークショップで進められたのです。

 レインボープランにもとづき、九六年にコンポストセンター(堆肥センター、年間二千四百トン処理)が完成します。総工費は三億九千万円。市直営で職員はNPO法人職員四人、シルバー人材センター派遣の二人です。

 九千七百平方メートルの敷地に、プラント棟、管理棟、籾殻(もみがら)貯蔵棟、土壌脱臭棟、堆肥貯留棟があり、畜ふんは乳牛ふんを用い、市内の畜産農家から搬入を受けています。籾殻は毎年十月、市内の農家から二百トン、生ごみは、市内全体の約九千六百世帯のうち、中心市街地の約五千世帯の家庭からでる生ごみを収集しています。

 各家庭では燃やせないごみ、生ごみ、有害ごみ、空きカン、空きビンなど十種類ほどに分別し、カレンダーに指定された曜日ごとに収集所に出す仕組みですが、生ごみは、各家庭で台所の流し台などの三角コーナーで一晩、水気を切ってから水きりぺールに移し、週二回の収集日に収集所のバケツコンテナにあけて、コンポストセンターに運ばれます。

地場ものを多く

 堆肥の生産量は年間四百トンから四百五十トンぐらいですが、「市民のうっかりミスによるスプーンやフォークの異物混入は年間約百キロにも満たない」(長井市農林課)微量です。視察に訪れた人から「市民の台所からつくられた堆肥なのだ、という良識すら感じられた」との感想も寄せられています。

 コンポストセンター稼働以前は、生ごみも燃えるごみとして焼却処分されていました。稼働後は生活系可燃ごみが30%以上減少しており、ダイオキシン発生の抑制など、環境への負荷の軽減となっています。

 「まちづくりデザイン会議」に端を発してできたレインボープランは、町の中での有機物の循環システムです。市は地産地消推進協議会も立ち上げ、地場ものをより多く地場の消費にと給食の利用や市民市場「虹の駅」を開設しています。

 市民と力を合わせて、健康な農地、農産物を長井の地域ブランドにして虹色の田舎町をつくる決意です。(藤原民夫・長井市議)


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