2008年8月25日(月)「しんぶん赤旗」

ゆうPRESS

不登校・引きこもりの青年がライブ

表現する 救われた


 不登校や引きこもり、心の病などで困難を抱えた青年たちで作るグループ「K‐BOX」が毎月ライブを開催し注目を集めています。8月のある日曜日、活動拠点の新潟市を訪ねました。(平井真帆)


 「遅れちゃってごめんなさぁい」。大きなカバンを持って駆け込んできたのは、この日のライブでとりを務める純名さん。急いでピアノの前に座り、リハーサルを始めました。

中間地帯

 本番では明るい笑顔を振りまいて歌い踊る純名さんですが、うつ、摂食障害などの「病」を抱えています。

 「K‐BOXは心の病を抱える人の居場所と社会の中間にあたるステップ」。主催者のKaccoさんはこう説明します。

 Kaccoさん自身も摂食障害、パニック障害、そううつ病を発症し、5年間の「引きこもり」生活を送りました。イラストを描くことで立ち直れた経験から、「表現することで苦しみから救われるのは、自分だけではないはず」と、2003年に立ち上げました。

 最初は3人からスタート。「初めのころは、ライブ当日、『具合悪くて出れません』ってキャンセルする人もいてね」。活動を支えるスタッフの佐藤睦子さんは当時を振り返ります。

 しんどくても、なんとか体調を整えて練習を積み、人前で発表する―。「何かひとつのことをやり遂げたってことが自信になるのでしょうね」と佐藤さんはいいます。

 最近では、岐阜や富山から引っ越してK‐BOXで活動する若者も。

光る原石

 1年半前から毎月行っている定期ライブには、常連客や熱心なファンも増えてきました。「今日で4回目」という市内の20代の女性は、うつで病院に通っています。「自分は人に伝えるのがへた。でも、ここの人たちは歌とか絵で自分を表現しているのがすごい」と話します。

 ライブでは曲の合間に自分の病気のことや不登校の経験を、笑いを交えて話すのも人気です。「ため込まないで、吐き出すことが大事。人に話せるためには自分で受け入れることができないと」とKaccoさん。

 「K‐BOX」の名前には、入った人が輝ける「宝石箱」の意味を込めました。「引きこもり経験を持つ人は、集中力や感受性が強くクリエイティブな人が多い。私から見れば、磨けば光るダイヤモンドの原石です」


 メンバーの純名さんとWattanさんに話を聞きました。

経験者が言ってくれると安心

Wattanさん

 Wattanさんは、引きこもりと不登校を経験。「学校に行っていない」という罪悪感や、「このままではいけない」という焦燥感をいつも感じていました。働き始めましたが、22歳のとき、うつで退職しました。

 K‐BOXのメンバーに出会い、こういう人たちがいるんだ、と驚きました。「自分と同じような人たちが活躍しているのが希望だった。自分も大丈夫になるのかなって」と、K‐BOX入りを決意しました。

 現在は、作詞・作曲した歌をライブで発表。アルバイトも始めました。「いいんだよ、なんとかなるよって、経験者が言ってくれるのが一番、安心できるんですよね」

「死にたい」より「助けて」って

純名さん

 純名さんは、転校を機に「無視される」などのいじめがひどくなり、中学1年の秋から学校に行けなくなりました。家庭でもうまくいかず、生きるのが苦しくて自殺未遂、リストカットを繰り返したといいます。

 「いま考えると、『死にたい』っていうより『助けてほしい』って感じ。死にたいほど苦しいのを分かってほしかった」

 K−BOXのライブに出演し始めて1年がたちました。ひとつのことをこれだけ長く続けられたのは初めて。「自分の中で『よし』って自信になった。自分を認め、見守ってくれる人に出会えて幸せ」と感じています。


お悩みHunter

引きこもる私 将来が不安で

  中学2年の途中から学校に行けなくなり、卒業後もひきこもり状態です。父も母もとてもやさしくて、私を責めたりしません。でも、父や母が年を取って働けなくなったらどうしようかと心配になるときがあります。インターネットで、自宅でできる仕事や私でも取れる資格がないか探したりしています。でも、不安は消えません。(21歳、男性)

“受け身”から能動へ転じる時

  中学2年生の途中から不登校に。そのまま今日に至るまで7年間もひきこもっておられるのに、私は何だか温かいものを感じました。

 それは、一つにはご両親があなたを責めたりしないで、ずっと優しく支え続けてこられたからでしょう。

 また、あなた自身、これまでの生活を自暴自棄に陥らず、ご両親とともに過ごされてきたせいかもしれません。

 不安なあなたの気持ちもよく理解できます。しかし、これだけ状況をしっかり把握し、今後に向けて調査されている姿勢は立派です。まず、そういう自分自身に自信を持つことです。自分をほめてやってください。

 その上でのことですが、「やれること」「取れる資格」を探すという視点を少し変えてみてはいかがでしょうか。

 つまり、「やれる」「取れる」という“受け身”の姿勢ではなく、「やりたい仕事」「取りたい資格」「悔いのない人生」とは何か、じっくり見つめるのです。

 あなたは「そんなぜいたくな」と謙遜(けんそん)されるかもしれません。しかし、今のあなたなら、“受け身”から“能動”に転じた方が将来を見つけやすいように思います。

 少し時間がかかったり、専門学校などで勉強したりと苦労もあるかもしれませんが、あなたはまだ21歳。若いのです。可能性の塊です。

 きっと現実につながる確かな希望への道が見えてくるはずです。応援していますよ。


教育評論家 尾木 直樹さん

 法政大学キャリアデザイン学部教授。中高22年間の教員経験を生かし、調査研究、全国での講演活動等に取り組む。著書多数。


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