2008年7月31日(木)「しんぶん赤旗」

社会リポート

事故の真相知りたい

犬吠埼沖漁船転覆 深まる謎

潜水艦衝突説も


 千葉県犬吠埼沖三百五十キロで六月二十三日、福島県いわき市のまき網漁船「第58寿和(すわ)丸」(一三五トン)が転覆・沈没し、三人が救助されたものの四人が死亡、十三人が行方不明となった海難事故。「十七人もの仲間をのみこんだ事故の真相が知りたい」。漁協関係者の悲痛な訴えとは裏腹に、原因をめぐって潜水艦衝突説まで浮上するなど謎は深まるばかりです。(山本眞直)


 寿和丸の所属するいわき市の小名浜漁港。客待ちのタクシー運転手が言葉少なに言いました。「例年ならカツオ漁にわくはずなのに、十七人も犠牲者の出る大惨事のショックは大きい。それでなくとも燃油高で大変なのに」

 午前六時すぎ、漁港で水揚げしたばかりのカツオの箱づめをする作業員の表情に明るさはありませんでした。

 岸壁に接岸、船倉に約百トンの氷を積み込み出漁を待つ寿和丸の僚船、カツオ運搬船「第22寿和丸」の乗組員が力を込めました。

 「おれたちは満載したカツオを水揚げするために小名浜港にもどっていたので転覆の様子はわからない。真相を知りたい」

三角波に疑問

 救助された三人の、福島海上保安部への証言によれば、昼食休憩中に右舷船首方向から強い波の衝撃を受け、船体が右舷側に傾斜したままになりました。

 「船橋後部の甲板下の船員室のベッドで休んでいたが転覆の危険を感じ、『逃げろ』と声をあげて下着姿で甲板に飛び出し、そのまま海に投げ出された」(甲板員)

 強い波――。事故当時の海域は南の風十メートル、波高二メートルで太平洋では特別な悪天候でありません。海洋関係者からあがったのは、複数方向からの波がぶつかって突発的におきる巨大な「三角波」説。

 しかし事故調査にあたっている福島海上保安部広報担当の坂井学管理課長は「三角波に結びつくものは確認されていない。大きな波があったのは確かだろうが」と疑問視します。

 そこで急浮上したのが「潜水艦衝突」説。週刊『アエラ』(二十一日号)が「潜水艦当て逃げの可能性」と指摘、「東京」(二十三日付夕刊)が「潜水艦衝突の可能性 乗組員『船底に衝撃』」と書きました。「毎日」(同朝刊)は潜水艦との指摘は避けながらも「乗組員『船底に衝撃』 横浜海難審理事所 潜水調査を検討」と報じました。

 いずれも共通して指摘しているのが、高波ならば波の方向に傾くが寿和丸は波を受けた右舷側に傾いた、転覆しても船内に空気が残り数時間浮くが寿和丸は数十秒で転覆、約十五分で沈没した―などです。

調査なら歓迎

 第58寿和丸の沈没現場は海底五千メートルと見られています。水深六千五百メートルまで調査可能といわれる独立行政法人「海洋研究開発機構」の潜水調査艇「しんかい」の派遣要請を検討していると一部で報じられました。横浜海難審判理事所の関係者は「そんな事実はない」と否定しましたが、こうもいいます。「船主や海上保安庁、あるいは政府が調査するということになれば歓迎する。調査資料の提供をうければ真相に迫れる」

 小名浜漁港が見渡せる漁協事務所。漁協幹部は「仲間と事故の真相を深海の闇に葬ることはできない。調査艇を派遣するなり、できることはしてほしい」と訴えました。


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