2008年6月20日(金)「しんぶん赤旗」

高尾山訴訟

「自然壊すな」訴え棄却

東京高裁 原告「不当判決だ」


 「高尾山の貴重な自然と史跡が破壊される」と、東京都八王子市の住民ら約八百人が高尾山北側の圏央道(首都圏中央連絡自動車道)の八王子城跡トンネルなどの事業認定取り消しと、土地収用裁決の取り消しを求めた「高尾山天狗裁判」(行政訴訟)の控訴審判決が十九日、東京高裁(民事十四部)でありました。西田美昭裁判長は、トンネルに沿って地下水が流出し、地下水位や河川水にも影響を与えると指摘しましたが、「深刻な影響をおよぼすとまでいうことはできない」と、国側の主張を追認し、住民側の控訴を棄却しました。

 判決は、大気汚染や騒音などの被害について、環境基準以内とする一審判決を追認。騒音被害について、「影響は好ましいものではないことは明らか」としたものの「過大なものとまではいうことができない」としました。

 原告側が提出した大気汚染解析結果について、判断を左右するものでないとしりぞけ、浮遊粒子状物質による大気汚染予測を国が行わなかったことも「やむをえない」と容認しました。

 地下水位の変化が「ある程度予測できる」として、影響を認めましたが、八王子城跡トンネル工事と滝の水枯れの因果関係は一審同様否定しました。

 圏央道の公益・公共性について、「都心部の交通混雑を緩和」するなどと断定し、国側の主張どおり、事業認定と土地収用裁決を認めました。土地所有者以外の原告、自然保護団体の訴えについても、一審同様、原告適格を認めませんでした。

 高尾山天狗裁判原告団(吉山寛団長)と弁護団(鈴木堯博団長)は同日、「不当判決」と抗議する声明を発表しました。


解説

自然保護の流れに逆行

 高尾山(東京都八王子市)は、イギリス全土の植物種に匹敵する千三百種が生息し昨年、フランスの観光ガイド「ミシュラン」が「三つ星」と評価したほど、自然豊かな山で、多くの人が癒やしを求めて訪れています。

 控訴審では、同区間の国史跡八王子城跡で生息していた絶滅危ぐ種のオオタカが営巣放棄し、史跡の「御主殿の滝」や周辺民家の井戸が枯れたのをはじめ、トンネル工事が引き起こした環境破壊や、騒音など被害の事実を認めるのか、巨額の財源をつぎ込み採算の見通しも立たない事業に歯止めをかけるのかが、鋭く問われました。

 判決は、八王子城跡の地下水位の低下や周辺民家の井戸枯れについて、トンネル工事の影響を否定。「御主殿の滝」の水枯れについても、事実は認めながら、「トンネル工事が八王子城跡一帯の地下水や表流水などに深刻な影響を及ぼすとまではいえない」と、まともな根拠もなく断定しました。騒音被害も対策を取ればよいと被害を軽視しました。

 一方で、判決は圏央道の「公共性」について、原告が批判した巨額の財政負担や、すでに開通した区間の赤字収支があるとしても「ただちに公共性がないとはいえない」と、国の主張をうのみにしました。

 トンネル工事で深刻な自然破壊が起きていることは、判決でも一部認めざるをえなかったように、明白な事実です。

 昨年には、ついに高尾山本体のトンネル工事が始まりましたが、すでに沢の水枯れが起きています。判決はこうした環境破壊を是認して環境保全、自然保護の世界の流れに逆行し、公共事業の無駄遣いを免罪するものです。

 (東京都・川井 亮)



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