2008年6月17日(火)「しんぶん赤旗」

経済時評

原油暴騰と米先物委の責任


 原油価格が一バレル=一四〇ドル近くに高騰しています。昨年前半の五〇〜六〇ドル台から、年明けには一〇〇ドルを突破し、さらにわずか半年足らずで四十ドルも上昇しました。

 五月末の政府の『エネルギー白書』でも認めているように、最近の原油暴騰の主要な原因が投機マネーによるものであることは、もはやだれも否定できません。今月七日の五カ国(日米中印韓)エネルギー相会合も、共同声明のなかで「現在の原油価格水準は異常だ」との共通認識を示しました。

 原油、原材料、食糧などの価格暴騰は、異常な商品投機にたいする国際的な規制が必要になっていることを示しています。

 しかし、自由な取引で成り立つ市場経済のもとで、商品投機をどのように規制するか。

CFTCの極秘調査と市場監視

 アメリカにCFTC(全米商品先物取引委員会)という独立行政機関があります。

 日本でもよく知られているSEC(証券取引委員会)にくらべると、CFTCはほとんどなじみがない組織です。SECが証券取引を監視するのにたいし、CFTCは、商品先物取引で価格操作や虚偽情報の発信など不正行為がないかを監視し、違反者の訴追などをおこなっています。

 そのCFTCが五月二十九日、原油取引で相場操縦による価格つり上げの疑いがあるため、昨年の十二月から極秘で調査してきたという異例の声明を発表しました。(注1)

 この声明によると、今回の調査は、経験豊富なスタッフを総動員し、エネルギー会社やトレーダーを対象に、全米規模で、市場での資金の流れや、原油の売買契約、輸送、備蓄などを対象にしているといいます。そして、いまあえて極秘調査の実施を公表したのは、「現在の前例のない異常な市況、相場操縦から市場を守るためである」と述べています。

 CFTCは、続いて六月三日には、農産物の先物取引でも同様の調査をすると発表しました。さらに同月十日には、商品先物の相場動向を調査する目的で、CFTC、SEC、FRB(米連邦準備制度理事会)などによる合同調査委員会を設置すると発表しました。

 CFTCは、米議会証言では、これまで一貫して商品高騰と投機との関係を否定し、「牙を持たないトラ」などと揶揄(やゆ)されてきました。そもそもCFTCの収入は、先物取引の手数料からなっており、投資ファンドの参入で市場規模が膨らむことは歓迎すべき立場です。

 そのCFTCが、なぜ急に投機抑制のために積極的に動きはじめたのか。

旧来の投機とは根本的に異なる「インデックス投機」を野放しにした

 実は、五月末のCFTCの声明には、重要な伏線がありました。

 それより十日前の五月二十日、米上院の公聴会で、元ヘッジファンド経営者のマイケル・W・マスターズ氏が証言し、巨額な投機マネーの横行こそが現在の異常な商品高騰を招いたことは明白であると述べ、さらに、「CFTCがこの投機の増大を誘発した」と、CFTCの責任を厳しく批判したのです。同氏は、投機を誘発したCFTCの役割を、たいへん具体的に証言しました。

 「CFTCは、一部の投機家が商品先物市場に実質的に無制限にアクセスできるよう規制緩和をおこなってきた」(注2)

 マスターズ氏は、ウォールストリートの銀行家や国際的投資ファンドによる投機的先物取引は、商品価格の変動をリスクヘッジ(危険を保険)するための先物取引(旧来の投機)とは、根本的に目的が異なる「インデックス(指数)投機」(注3)の手法を使っている、と述べました。そして、この「インデックス投機」こそ原油や食料を買い占めて価格を暴騰させている元凶である、と証言しました。

 マスターズ氏のCFTC批判は、CFTCが「インデックス投機」を規制緩和で野放しにし、むしろその活動を積極的に奨励したうえ、統計的にも旧来の投機と「インデックス投機」の区別を隠ぺいして両者の見分けがつかないようにしてきたという点です。まさにCFTCの責任重大というわけです。

 マスターズ氏は、高騰した商品価格を引き下げるには、直ちに「インデックス投機」を統計的にも区分できるよう再分類し、厳しく規制すべきであると提言しています。

投機的資本のディスクロージャーが必要

 異常な商品投機をおさえるには、投機的先物取引の規制とともに、投資ファンドへのディスクロージャー(経営情報の開示)の義務付けなどによって、投機的資本を金融の面からも規制することが必要です。

 たとえば世界最大手の英国系ヘッジファンドである「マン・グループ」のピーター・クラーク最高経営責任者(CEO)は、日本の投資資金が大量に商品先物市場に流れ込んでいると、次のように述べています。

 「マネー流入の主役はいまや日本の個人投資家だ。個人からの預かり資産四百三十億ドルのうち日本だけで二四%を占める。国別では米国や欧州各国を上回り最大だ」(「日経」〇八年六月四日付)

 これが真実だとすれば、「マン・グループ」を通してだけでも、日本の個人投資家の一兆円を超える資金が商品投機などに回っていることになります。しかし、その“個人投資家”の実態はまったくわかりません。投資ファンドのディスクロージャーによって資金の流れを明らかにし、市場の透明性を高めることは、無責任な投機活動を抑えるためにぜひとも必要です。(友寄英隆)


(注1)CFTC(U.S. Commodity Futures Trading Commission)に関する情報は、次のサイト参照。

http://www.cftc.gov/index.htm

(注2)マイケル・W・マスターズ氏の議会証言の全文は、次のサイト参照。

http://hsgac.senate.gov/public/_files/052008Masters.pdf

(注3)インデックス(指数)投機(Index Speculation)とは、各種の代表的な商品指数にしたがって主要な商品先物に投資配分する投機。


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