2008年5月29日(木)「しんぶん赤旗」

シリーズ 廃止しかない 後期高齢者医療制度

「診療差別」拡大するしかけ


 政府・与党は、後期高齢者医療制度でお年寄りが受診できる内容について、「制限されません」と宣伝しています。しかし、実際は七十五歳以上だけに限った診療の仕組みを導入しています。しかも、制度が続くほど年齢による「差別医療」が拡大するのです。シリーズ「廃止しかない理由」の三回目で、この重大問題をみました。(随時掲載)


最初「ゆるく」

図

 国民がどの医療をどんな費用で受診できるかを定めているのが「診療報酬」です。医療機関に支払われます。

 四月に改定された診療報酬では、七十五歳以上だけを対象にした年齢差別の仕組みが盛り込まれました。

 例えば、外来診療に導入された「後期高齢者診療料」。高血圧や糖尿病などの慢性疾患を抱える高齢者が「主な病気を一つ」決めて、一人の「担当医」を選ぶというものです。同診療料は、どんなに検査や画像診断をしても「担当医」に支払われるお金は月六千円(患者負担一割の場合は六百円)の定額制(包括制)にしました。丁寧な検査や診断をするほど診療所側は「赤字」になるため、高齢者に必要な治療ができなくなるおそれがあります。

 このため全国で三十を超える都道府県の医師会が、「質の高い医療が提供できない」「一人の高齢者の病気が一つと決められるのか」と同診療料のボイコットを表明。厚労省調査でも同診療料を採用した診療所は全国でわずか14%にとどまっています。

 これだけ批判を浴びている診療料なので、政府は当初考えていた本格的な導入は断念しました。厚労省幹部も「ゆるいしくみ」といいます。

 将来的には「定額制」の範囲を投薬や、手術にも拡大し、高齢者がかかる「担当医」も一人に制限することを検討しています。医療費抑制のために「高齢者が複数の病院にかかる」ことを制限するのが狙いです。制度を存続させると高齢者が自由に医者にかかれない社会になってしまいます。

長生き妨げる

 七十五歳以上は、入院でも終末期医療でも、他の世代の診療報酬と線引きされました。

 ▽「退院調整加算」=「退院困難な要因」のある高齢者に的を絞り、「退院支援計画」をつくった病院への報酬を手厚くする

 ▽「終末期相談支援料」=医師が回復の見込みがないと判断した患者について本人・家族と延命措置をとらないことなどを文書で確認すると病院に報酬が入る

 診療報酬という経済的な誘導によって、高齢者を病院から締め出し、長生きまで妨げるものです。制度が続けば、こんな過酷な仕組みが定着してしまいます。

健診から除外

表

 四月スタートした特定健診・特定保健指導(いわゆる「メタボ健診」)では実施義務のある対象を四十歳以上から七十四歳までに限定。七十五歳以上を「義務」の対象から除外しました。七十五歳以上は生活習慣の改善は困難だから、「残存能力」で生きていけばいいという立場です。

 世論の批判を浴びて、当面はすべての都道府県で七十五歳以上の健診も行われることになりましたが、厚労省は「費用がかさむ」ので、高血圧の薬などを飲んでいる人たちは事前に除外するよう指示しています。

 また全国各地で人間ドックの助成対象から七十五歳以上をはずす自治体も続出しています。(表)

 不幸にして亡くなった高齢者に出される葬祭料が、七十五歳になったとたんに「減額」してしまうケースもあります。

 せっかく長生きをしたお年寄りに、さまざまな冷たい仕打ちをする制度の、どこが「長寿医療制度」なのでしょうか。廃止こそが急務です。(宮沢毅)

 (これまで二十一日、二十四日付に掲載)


保養施設の割引なくなる

 七十五歳になったとたんに保養施設の千円の割引が使えない―。名古屋市の福祉施設「休養温泉ホーム松ケ島」(三重県桑名市)でこんな事態が起きて、利用者にショックを与えています。

 同施設は、六十歳以上の人は一泊二食付きで六千円。国民健康保険加入者は、さらに千円の割引がされていました。それが四月から国保を抜けさせられ、後期高齢者医療制度に移った人は、割引の対象外になってしまったのです。老人クラブでいっしょに保養にきたのに、七十五歳以上だけは高い料金が取られるため、「国の制度変更で国保を抜けさせられたのに、おかしい」という怒りの声が上がっています。

 日本共産党名古屋市議団は、七十五歳以上もこれまでと同様の料金にするように改善を求めています。



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