2008年5月27日(火)「しんぶん赤旗」

後期高齢者医療制度の厚労省調査

負担増隠す2つの手法


 今回の厚労省の調査は、四月に行われた山口県の衆院補欠選挙での与党敗北後、福田康夫首相が舛添要一厚労相に制度の問題点の再検討を指示したことをうけて実施されたものです。本来、このような調査は制度発足前に実施しておくべきであり、遅きに失したものです。重大なのは、その調査方法の中に、負担増の実態を覆い隠す二つの手法が仕組まれていることです。

「実態調査」に値しない調査方法

 そもそも、「実態調査」というのであれば、無作為抽出の方法によって均等に一定数のデータを集め、これを集計すべきです。ところが、今回の「調査」は、四種類の世帯構成(単身世帯、七十五歳以上の夫婦世帯、夫のみ七十五歳以上の夫婦世帯、七十五歳以上一人と子ども夫婦の同居世帯)、三種類の年金年収(七十九万円、二百一万円、四百万円)の組み合わせによる十二通りのモデルについて、各市町村の保険料率をあてはめて試算するだけにすぎません。

 これならば各市町村の保険料率をパソコンに入力するだけで計算可能で、わざわざ調査するまでもありません。より重大なことは、モデルの設定方法によって負担増が低く計算されてしまうということです。

(1)資産を持たない高齢者も「資産割」を前提に計算

 今回の「調査」では、国保料に「資産割」を採用している市町村では、「資産割額」を一世帯当たり年間一万八千九百七十三円として計算することとされています。

 実際には、土地や家屋などの資産を保有しない世帯も多く、「資産割」を採用している市町村でも、「資産割」を納めている世帯は六割程度にすぎません。それなのに、厚労省の「調査」は、すべての「後期高齢者」が「資産割」を納めていたという非現実的な仮定をもとにしているのです。

 後期高齢者医療制度の保険料には「所得割」と「均等割」しかなく、「資産割」がありません。資産を持たない人が実際には一万円の負担増だったとしても、実際には払ってもいない国保の「資産割」が一万八千九百七十三円も負担減になったとして計算されるために、合計では「負担減」ということになってしまいます。

(2)負担増となる率の高い世帯構成を除外

 今回の「調査」の四類型の世帯構成だけでは、全部あわせても後期高齢者全体の三分の二程度しかカバーできません。このほかに、(1)後期高齢者一人と子ども一人の二人世帯(2)後期高齢者夫婦と子ども夫婦の四人世帯が、それぞれ一割前後をしめており、(3)後期高齢者夫婦と子ども一人の三人世帯も6%程度をしめています。

 問題は、今回の「調査」の四類型に比べて、(2)や(3)の世帯の方が、はるかに負担増となる率が高いことです。これは、同居する子どもが世帯主の場合に子どもの年収が算入されるため、「均等割」の軽減措置が受けられなくなるなどの理由によるものです。厚労省の「調査」は、負担増になる世帯構成を除外して集計することで、負担増の実態を隠すことになっています。

実際には多くの人が負担増に

 厚労省が示した条件通りにパソコンに入力して計算すると、負担増になるのは「後期高齢者の三割程度」という結果が出てきました。

 しかし、「全員が資産を持っている」という非現実的な仮定をやめて、資産を持つ人と持たない人に分けて計算すると、負担増になる割合が四割近くに増えます。

 世帯構成を四類型ではなく、より現実に近い設定にして計算すれば、さらに負担増になる割合が一割前後上昇します。

 このように、現実にはこれまで国保加入だった後期高齢者の多くが負担増になると計算できます。

 さらに、これまで健康保険の扶養家族だった二百万人は全員が負担増になるということを考えあわせれば、後期高齢者の相当の部分が負担増になると思われます。(日本共産党政策委員会 垣内亮)



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