2008年5月9日(金)「しんぶん赤旗」

高齢者差別の医療制度は廃止しかない

――撤廃の一点での国民的共同をよびかけます

2008年5月8日 日本共産党


 日本共産党が八日、発表した「高齢者差別の医療制度は廃止しかない―撤廃の一点での国民的共同をよびかけます」の全文は次のとおりです。


 「こんな保険料をとられたら、とても生きていけない」「長生きは罪なのですか」――福田・自公政権が4月実施を強行した後期高齢者医療制度に、日本列島を揺るがす怒りがわき起こっています。

 75歳という年齢を重ねただけで、今まで入っていた国保や健保から追い出され、保険料は「年金天引き」され、払えない高齢者からは保険証を取り上げる、健康診断から、外来、入院、「終末期」まで、あらゆる段階で、安上がりの差別医療を押しつけられる、こんなひどい制度はありません。しかも、時がたてばたつほど、国民負担も、高齢者への差別医療も、どんどんひどくなっていく仕組みです。

 国民の大きな批判の前に、政府・与党は、「説明不足だった」などと言いわけしたり、「見直し」などと言い出しています。しかし、政府が説明すればするほど、国民の不安や怒りはひろがるばかりです。現代版「うば捨て山」とも言われる血も涙もないこの制度の害悪を、制度の一部「見直し」で解決できるものではありません。憲法25条の生存権、憲法14条の「法の下の平等」を踏みにじる希代の高齢者差別法は、撤廃するしか解決の道はありません。

 日本共産党は、後期高齢者医療制度の撤廃の一点で、政治的立場の違いを超え、老いも若きも力をあわせて、国民的共同をひろげ、すみやかにこの制度を廃止に追い込むことをよびかけます。そのうえで、国民が安心できる医療制度をどうつくるかについて、財源の問題も含めて、国民的な討論によって合意をつくっていくことをよびかけるものです。

第一の理由――医療費削減のための高齢者差別法は許されません

 「廃止しかない」――その第一の理由は、医療費削減を目的にして、75歳以上の高齢者を差別することは、どんな理由があっても許されないからです。

 「どうして75歳以上だけ、国保や健保から追いだし、別枠の制度に囲い込む必要があるのか」――日本共産党の追及に、政府は、(1)「複数の病気にかかり、治療が長期化する」(2)「認知症の人が多い」(3)「いずれ避けることのできない死を迎える」という「後期高齢者の心身の特性」をあげ、それに「ふさわしい医療」にすると説明しました。要するに“やがて死ぬのだから、お金をかけるのはもったいない”というのです。

 政府のねらいは、高齢者を別枠の医療保険に囲い込み、高い負担を押しつけ、診療報酬(医療の値段)も別建てにすることで、安上がりな差別医療を押しつけることです。実際、厚労省の試算では、2015年度には、医療費全体の削減額3兆円のうち2兆円を、2025年度では、8兆円削減のうち5兆円を、75歳以上の医療費削減で「捻出(ねんしゅつ)」するとしています。高齢者の医療費を「いの一番」で削減するために後期高齢者医療制度はつくられたのです。

 後期高齢者医療制度などという制度をつくった国は世界のどこにもありません。命と健康にかかわる医療に、年齢での差別と高齢者への新たな負担増を持ち込み、長年社会に貢献してきた高齢者に苦しみを強いる、これほど“人の道”に反した政治があるでしょうか。

 この間、自公政権は、老年者控除の廃止など増税を押しつけ、介護保険も改悪し、年金も減らしてきました。そのうえに高齢者差別の医療制度です。「高齢者をどこまでいじめるのか」「戦火をくぐりぬけ、戦後の大変な時代に苦労してきた人たちにひどい仕打ちをする、いつから日本は、こんな冷たい社会になったのか」――こんな政治に不安と怒りの声がわき起こるのは当然です。

 どんな理由があれ、医療という人間の命にかかわる問題で、高齢者を差別する制度は、一刻もつづけさせるわけにはゆきません。

第二の理由――制度は存続すればするほど、国民を苦しめます

 第二の理由は、この制度は、存続すればするだけ、ますます過酷な痛みを、高齢者と国民に押しつけるということです。

 保険料は「天井知らず」に値上げされる……4月15日、「天引き」された保険料額を見て、憤りが高齢者のあいだにひろがりました。しかしこれで終わりではありません。この保険料は、これから連続的に値上げされていくのです。

 後期高齢者医療保険料は、2年ごとに見直され、75歳以上の人口が増えれば自動的に値上がりする制度になっています。長寿の人が増えるだけで、保険料が値上げになるのです。そのうえに医療技術の進歩などで一人当たりの医療給付費が増えれば、もっと値上がりする仕掛けになっています。

 東京都は、平均保険料が2年後には2万円、4年後には3万円の値上がりになると試算しています。現在7万2000円とされている全国平均保険料は、75歳以上の一人当たり医療給付費や人口が政府の予測通り増えつづければ、「団塊の世代」が「後期高齢者」となる2025年度には16万円などと、2倍以上に高騰します。

 保険料を「年金天引き」にしたのも、どんどん値上げしても、「取りはぐれない」ようにするためです。「年金を減らしながら、保険料だけは有無を言わさず取り立てる」――こんな強引な「取り立て」に高齢者の怒りと不信がひろがるのは当然です。

 差別医療が導入され拡大される……75歳を超えたというだけで、病気の予防から、外来、入院、「終末期」まで、あらゆる場面で、ひどい差別医療が始まります。

 2月から3月にかけて新しい「診療報酬」などが決まり、差別の具体的な仕組みが明らかになりました。「健康づくりはいらない」とばかりに、健康診断を行政の義務からはずしてしまいました。外来では、必要な検査や治療をうけにくくする「定額制(包括払い)」が、糖尿病や高血圧などで診療所に通っている人に導入されました。高齢者を病院から「追い出す」ための「後期高齢者退院調整加算」もつくられました。「終末期」と診断されたら、“延命治療は無駄”とばかりに、本人や家族に「延命治療は控えめに」という「誓約書」を書かせるための「後期高齢者終末期相談支援料」も導入されました。いずれも75歳以上の人だけが対象です。

 後期高齢者医療制度と同時に、療養病床を現在の35万床から15万床に大削減する計画もすすめられ、高齢者の病院追い出しがさらに加速されます。亡くなった後に支給される葬祭費まで、多くの地域で75歳を超えると減額されてしまいました。75歳になると国保組合からの人間ドックへの補助金が出ない、国保施設の利用料割引が受けられないなど、さまざまな分野で、差別と負担増、サービス切り捨てが起きています。

 しかも、これらはまだ“はじめの一歩”にすぎません。政府は、後期高齢者だけの「定額制(包括払い)」の対象になる医療をさらに拡大して検査・投薬・手術を制限すること、後期高齢者が受診する医師を1人の「かかりつけ医」に限定し、複数の診療科を受診しにくくすることなどを検討しています。国民の怒りや医療関係者の反発があまりにも大きかったので、2008年度の導入は一部にとどまりましたが、政府はいっそうの高齢者への差別医療の拡大をねらっています。

第三の理由――すべての世代に重い負担と医療切り捨てを押しつける制度です

 第三の理由は、「標的」にされているのは高齢者だけでなく、すべての世代に重い負担を押しつける制度だということです。

 政府や与党は、「世代間の負担の公平」などといって、あたかも、この制度が現役世代の負担軽減になるかのように言っています。しかし、この制度の最大の「標的」とされているのは現役世代、とくに「団塊の世代」です。この世代が「後期高齢者」になったときに、負担増と医療切り捨てをいっそうすすめることがねらいなのです。政府は、高齢化のピーク時である2025年度には、75歳以上の医療費を5兆円も削減するという「見通し」をしめしていますが、2025年とは「団塊の世代」が「後期高齢者」になる時期にほかなりません。

 将来だけではありません。現役世代の組合健保や政管健保からの「後期高齢者支援金」は、これまでの老人保健制度への拠出金より増額され、健康保険組合連合会では「5000億円の負担増になる」としています。市町村国保を含めて現役世代の保険料の値上げの動きも出ています。これまで扶養家族だった高齢者からも新しく保険料が徴収されますが、これも実際には、現役世代の新たな負担増になります。

 また、65〜74歳の高齢者にも、国保料の「年金天引き」が導入されます。65歳以上の障害者も、後期高齢者医療制度に事実上「強制的」に加入させられる人が多く、負担増や差別医療が押しつけられます。

 あらゆる世代に、負担増と医療切り捨てが押しつけられるのです。それにもかかわらず、「世代間の公平」などと、高齢者と現役世代、親と子や孫の世代の間に、意図的に「対立」を持ち込み、この制度を無理やり押しつけるのは、許せるものではありません。

小手先の「見直し」でなく撤廃せよ――安心できる医療制度へ国民的討論を

 このように、この制度のもたらす害悪は、はかりしれないものがあります。高齢者差別という制度の根本が間違っている以上、小手先の「見直し」ではなく、制度を撤廃するしか解決の道はありません。

 後期高齢者医療制度を廃止すべきだという声は大きくひろがっています。新聞各紙の世論調査で、「評価しない」と答えた人は7割を超えるなど、世代を超えて国民の圧倒的多数が批判を高めています。全国の都道府県医師会のうち6割以上が反対や批判の態度を表明するなど、医療関係者からも反対や中止を求める声がひろがっています。福田内閣の支持率は2割を切るまでに急落し、与党内にも動揺が出ています。国民世論と運動が政府・与党を追いつめています。

 自公政権は、国民的議論もせず、法案は強行採決で成立させ、大きな怒りと不安にも耳を貸さずに実施を強行したという、後期高齢者医療制度強行の大失政をきびしく反省すべきです。そして、小手先の「見直し」で、この希代の高齢者差別制度を「延命」させるのではなく、きっぱり廃止すべきです。政府は、「財源がない」と言いますが、廃止しても3月までの制度に戻すだけですから、新たに大きな財源が必要になることはありません。だいたい「財源」を理由に、高齢者を差別する医療制度をつくってよいのでしょうか。高齢者差別はどんな理由であれ許されません。

 そのうえで、国民すべてが安心できる医療制度をどうつくるかについて、財源問題もふくめて、国民的討論によって合意をつくることをよびかけます。日本共産党は、(1)国際的にも異常に高い窓口負担を引き下げる(2)公的医療制度の縮小・解体を許さず、保険医療を拡充する(3)減らし続けた医療への国庫負担を計画的に元にもどす―ことを提案してきました。私たちは、こうした方向での抜本的改革こそ、病気の早期発見、早期治療をすすめ、結果として医療費の膨張をおさえ、医療保険財政の立て直しと保険料の負担軽減に道を開くと考えています。

 日本の医療費は、GDP比8%と先進国でも最低水準であり、本来なら増やして当然なのです。医療を支える財源についていえば、自公政権は、大企業や高額所得者に7兆円もの減税をし、年間5兆円もの税金を軍事費に流し込み、在日米軍再編に3兆円もの税金をポンと出そうとしており、これらの歳入・歳出のゆがみに根本からメスを入れるべきです。政治の姿勢さえ変えれば、消費税に頼らなくても、安心できる医療、年金、介護など社会保障制度と、それを支える財源をつくることはできます。

 野党四党は、この制度を廃止する法案を国会に提出しています。政治的な立場や社会保障制度への考え方の違いはあっても、この後期高齢者医療制度廃止の一点で、高齢者や医療関係者をはじめ、党派や世代を超えた大きな共同の輪をひろげることを心からよびかけるものです。

 そして、国民が安心できる医療、年齢でも、経済的にも、地域的にも差別されない医療へとすすむために、国民的な議論をおこし、ともに知恵を出し合い、国民的な合意をつくろうではありませんか。

 日本共産党は、そのために全力をつくすものです。



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