2008年5月5日(月)「しんぶん赤旗」

経済時評

温暖化対策と財界、欧州と日本


 日本共産党の欧州温暖化対策調査団の報告会が開かれました。(四月十八日)

 笠井亮団長(衆院議員)は、報告の冒頭、「ヨーロッパでは、地球の気候変動の重大性を認識し、緊迫感・切迫感をもってとりくんでいる」、「日本の政府や財界が立ち遅れているというより、むしろ顔の向きが逆になっている」と痛烈に批判しました。(注1

 ちょうど、この報告会の前日、「G8ビジネス・サミット」(日本経団連主催)が東京で開かれ、「地球温暖化への対応」などを議論しました。出席したのは、日本経団連会長のほか、全米商工会議所会頭、英産業連盟会長、仏経団連会長、独産業連盟会長、露産業企業連盟会長などなど、そうそうたる顔ぶれです。主要八カ国の財界代表が一堂に会して、CO2削減方法などを討議したわけです。

「目標設定の何が危険 か」(仏経団連会長)

 「G8ビジネス・サミット」の議論を詳細に伝えた「日経」紙の特集を読むと、笠井報告が「顔の向きが逆」という欧州と日本の財界の違いを改めて実感します。同特集のなかの「討論を聞いて」は、こう書いています。

 「日本経団連の三村明夫副会長は、削減の数値目標を話し合うことに『違和感を覚える』と不快感を表明。仏経団連のパリゾ会長が『そうした意見には驚く。目標設定の何が危険なのか』と切り返す一幕もあった」(「日経」四月二十四日付)

 ここのくだりは、特集記事のなかの発言要約では、次のようになっています。

 「パリゾ氏 削減目標のどこにリスクがあるのか。ビジネスでは目標を設定し、それに向けて最善を尽くす。なぜそれをここでできないのか。理解できない」(同)

 トゥーマン独産業連盟会長も、「われわれは正しい道を歩んでいる。目標を上回る削減も可能だ」と発言しています。

 「G8ビジネス・サミット」に出席した福田首相は、「各国経済界が一体となって温暖化問題に取り組む決意を示し、世界全体の議論を導くメッセージを出すことを期待している」とあいさつしました。しかし、これを聞いていた欧州の財界代表は、「まず隗(かい)より始めよ。日本政府は、日本の財界人の顔の向きを正させよ」と思ったにちがいありません。

戦後初期の「経済復興 計画」をめぐって

 日本の財界の顔の向きを正させるのは、日本国民のたたかいの課題でもあります。そこで、この課題に関連して、日本の財界には、戦後初期の経団連発足のころの初心に帰ることを強く求めたい。

 一九四八年九月の経団連第三回総会は、「経済復興長期計画」がぜひとも必要だという声明を採択、四九年二月の「吉田新内閣に対する要望」のなかでも、「経済復興長期計画を速やかに確立し、…日本産業の向うべき復興目標を明かにされたい」と要求しました。同年三月には、経団連に合流する日本産業協議会総会も「経済復興計画の速かな確立、実施を要望す」と決議しました。

 当時の財界は、なぜ「経済復興計画」の策定を熱望していたのか。

 敗戦直後の荒廃から日本経済が復興するためには、民間まかせにせず、国が総合的な経済計画をつくって、官民一体となって取り組むことが必要だと考えたからでした。

 しかし、こうした財界の要求は、米国の初期の占領方針にはそわなかったため、「完成した経済復興五カ年計画最終原案は、結局公表されることもなしに膨大な資料として眠ることとなってしまった」のでした。(注2

資本主義でも、民間まかせではよくない(経団連初代会長)

 一九五二年発効のサンフランシスコ条約で米軍の全面占領が終わると、ふたたび日本の財界は総合的な長期経済計画の策定を強く要求するようになりました。

 たとえば、当時の『経団連月報』(注3)に座談会「総合長期計画の成立をめざして」が掲載されています。経団連会長、興銀頭取、石炭協会会長、化学協会副会長などなど、財界首脳九人が出席した大型企画です。

 このなかでは、失業を減らすため賃金を安くせよとか、食糧増産はほどほどにして輸入を増やせなど、資本の立場むき出しの発言も目立ちますが、資本主義のもとでも総合的な経済計画が必要だという点では一致しています。注目されるのは、次の発言です。

 「自由主義・資本主義という問題ですが、いったい自由とは何だということです。たとえば、職業の自由とか、旅行の自由とか、宗教の自由、教育を受ける自由というのはいいですよ。…資本主義といっても、それは資本家の自由勝手ということではない。ある規制をされた範囲内においての自由です。何もかも自由だというのでは、国力を非常に弱めることになる。いままでの自由放任主義というものは、そこに規制がなかったから、各人の努力が散発的になってしまい、それを組織化して効率化することができなかったと思う。だから、資本主義といっても、やはりある程度の制約をどうしても加える必要がある。…資本の使い方には、どうしてもある制限が必要です」(注4

 長い引用になりましたが、これは、経団連初代会長の石川一郎氏が、なぜ民間まかせではよくないか、その理由を述べた発言です。

 時代は変わり、経済政策の課題も変わりました。しかし、戦後日本の経済復興の課題よりさらに大きな全人類的課題―地球環境を守る課題を達成するには、民間まかせではなく、国家的な目標を定めた計画的取り組みが必要です。財界は、欧州からの批判に応えて、いまこそ初心に帰ることが必要ではないでしょうか。(友寄英隆)


 (注1)笠井報告は、本紙四月十九日〜二十一日付

 (注2)『経団連十年史』下巻、三四二ページ

 (注3)『経団連月報』一九五五年三月号

 (注4)同、二四ページ


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