2008年5月3日(土)「しんぶん赤旗」

宇宙基本法案

科学の国際貢献に障害

吉井衆院議員に聞く


 自民、公明両党が国会に提出して継続審議になっている「宇宙基本法案」にたいして、民主党も加わった修正案を共同で提出する動きが表面化しました。この法案について日本共産党の吉井英勝衆院議員に聞きました。


 ―自公民共同の動きをどう見ていますか?

廃案に追い込む

 吉井 これまでの質疑で、国際的にも大きな貢献をしてきた日本の宇宙開発や研究を、この法案で、これまでとはまったく異なる危険な方向へもっていこうとしていることが明らかになっています。

 今回の動きは、法案の問題点がより広く国民に知られる前に何が何でも通してしまおうというもので、切迫した状況になっていると受け止めています。私たちとしては、ぜひ多くの皆さんにこの内容を知ってもらい、廃案に追い込んでいきたいと考えています。

 ―法案の狙いはどこにあるのでしょうか?

 吉井 ずばり、宇宙の軍事利用です。日本は一九六九年に国会で、宇宙の開発や研究は平和利用に限ると決議しました。宇宙を軍事に活用したい自民党の防衛族や、軍事目的の衛星やロケットで受注を増やしたい軍需産業界にとっては、この決議がじゃまなのです。

 与党案でも、この狙いはあからさまに示されていましたが、修正案でも第十四条などで「我が国の安全保障に資する宇宙開発利用を推進する」とうたっており、その本質はなんら変わっていません。この法案を推進している勢力は、他国の衛星を打ち落とすための衛星まで構想しており、この法案が宇宙を軍事利用できるようにしようとしていることは明白です。

 ―科学や技術を世界の平和や人類の進歩に役立ててほしいという、国民の願いとはかけはなれていますね。

「機密」のベール

 吉井 宇宙を軍事に利用しようとすること自体もってのほかのことですが、この法案によって、月探査衛星「かぐや」や、小惑星探査機「はやぶさ」など、国際的に高い評価を受けている日本の宇宙科学や技術の成果が機密のベールにつつまれてしまうのではと心配しています。

 日本はすでに「情報収集衛星」という名のスパイ衛星を打ち上げています。これらの衛星がとらえた地表の詳細な画像は、たとえばスマトラ島沖地震・津波や、国内の火山の噴火予知などに生かされるはずのものですが、いっさい公開されません。この法案によって、こうしたことがますます増えていきかねません。

 日本は憲法九条や一九六九年の国会決議のもとに宇宙開発や研究を進めてきたから国際的に高い評価を得ているのだと思います。今後も、こうした方向で進んでいくことが重要だと考えています。

(聞き手・間宮利夫)


「非軍事」の原則壊す

国立天文台助教

石附澄夫(いしづきすみお)さんの話

 日本の科学技術が軍事に使われることが、とても心配です。宇宙基本法案の背景には、米国が進めるミサイル防衛(MD)戦略があります。日本の軍事衛星を使って、米国の先制攻撃を含んだ戦争体制に加担するというのはどうなのでしょうか。決して国民を守るものではありません。自衛隊や日米安保条約を認める人にも、そのことはぜひ訴えたい。

国民から信頼失う

 科学者が、そういう状況に目をつぶって法案を容認してしまうのは、社会的責任に反します。

 科学の役割は人類の世界観の発展に貢献することであり、技術は人々の福祉=幸福のために使うものです。人を殺す兵器をつくっていては、科学者が国民から信頼を失ってしまいます。

 日本では明治以後、国家権力と技術が密接に結びつきながら、近代科学を追いかけてきました。しかし、原爆被害の経験をへて、戦後日本は、憲法九条の平和主義で科学を発展させてきました。名古屋大学平和憲章(一九八七年)、国立天文台の発足に当たっての声明(八八年)、千葉大学ロボット憲章(二〇〇七年)など、科学者は、軍事研究をしないことを誓ってきました。こうした戦後六十余年の歴史は、近代科学の約四百年の歴史のなかでも、無視できない重さがあります。

自主・民主・公開で

 また、これまで日本の宇宙開発・利用は「自主・民主・公開」の原則で進められてきました。だからこそ、軍事から切り離され、科学者・技術者集団の自発的な意思に支えられて、大きな成果をあげてきたのです。ところが法案は「適切な情報の管理」を掲げています。防衛技術の流出などを理由に、自由な研究や発表が制約され、研究者にとって大きな障害となるのではないかと心配です。

 もし法案が通れば、宇宙関連企業や研究機関の科学者、技術者のなかには、キャリアをつなぐために、軍事衛星を開発・運用するなど、軍事に携わらざるを得ない人がきっと出てくるでしょう。企業技術者のなかには、すでに情報収集衛星にかかわっている人もいるのですから。天文衛星などの宇宙科学も、軍事から「聖域」でいられるはずはありません。

 「自主・民主・公開」と「非軍事」に限定してきたこれまでの原則を守り続けることが、宇宙開発のあるべき姿です。

 科学技術を間違った方向に進める今回の法案は、科学者として、看過できません。民主党にも、自民・公明両党にも考え直してもらうために、もっと声をあげる必要があります。

 (聞き手・中村秀生)


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