2008年4月30日(水)「しんぶん赤旗」
宮本百合子 幻の小説
未完原稿 発見・公開
福島・郡山
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日本共産党員だった作家の宮本百合子(一八九九―一九五一)の未発表小説「黄銅時代」の冒頭の手書き原稿二枚が福島県郡山市で発見されました。これまで創作メモと覚書しか残っておらず、幻の小説といわれてきました。同市の「こおりやま文学の森資料館」の「新収蔵資料展」で公開されています。
「黄銅時代」は、荒木茂氏との結婚生活を始めた直後の一九二〇年に郡山市で執筆を始め、未完成に終わりました。一部であれ小説の形として原稿が発見されたのは初めてです。市内の書店に保存されていた原稿を郡山市が買い取り、同資料館で保存・展示することになりました。
「一九一―年の一月二十日は、泰子にとって忘られない朝の目覚めであった」で始まる原稿は、途中で手直しがされているなど、未完の原稿であることがリアルに伝わります。当時の氏名・中條百合子と署名されています。
資料館の鴫原靖彦主任は「この原稿は、筆跡鑑定などもして百合子の直筆のものと確認した。なれない新婚生活や両親との不和の中で書き始められた作品。『伸子』(荒木氏との結婚と離婚を素材にした)は、高らかに女性の自立を書き上げているが、この作品は『伸子』につながる経過の作品として注目したい」「さらに三枚目以降の原稿が発見されることを期待したい。もし発見されれば、百合子文学の研究が大きく進むのではないか」と話しています。
同資料館の「新収蔵資料展」は六月一日まで。休館日は月曜(五月五日は開館)、四月三十日、五月七日、三十日。同館 電話024(991)7610。
![]() (写真)「黄銅時代」原稿一枚目 |
「伸子」につながる貴重な資料
多喜二・百合子研究会の大田努さんの話 話を聞いて大変驚きました。「黄銅時代」は「伸子」と同じ素材を取りあげつつ、モチーフがまったく違う作品です。どうしてこれをやめて「伸子」を書いたのか。「伸子」成立の経緯を知る上でも大変貴重な資料です。


