2008年3月31日(月)「しんぶん赤旗」

イージス艦事故 中間報告

艦長動向 触れず

海自元幹部ら批判 “見張りに記述限定”


 海上自衛隊のイージス艦「あたご」が二月十九日未明、千葉県野島崎沖でマグロはえ縄漁船「清徳丸」に衝突、沈没させた事件で、防衛省が三月二十一日公表した中間報告に海上自衛隊元幹部らから批判の声があがっています。


 報告は、当直員やレーダーによる見張り状況、艦長の行動などについて記述したうえでこう結論づけています。

 「艦全体として見張りが適切に行われていなかった。『あたご』に避航義務があったが適切な避航措置をとっていない。衝突直前の回避措置も十分なものではなかった」

 「あたご」の責任を認める記述ですが、責任の所在となると随所で目立つのが、艦長、当直士官など権限をもつ幹部の動向にはふれず、見張りなどの当直体制に限定して記述していることです。

 衝突一分前の午前四時六分ごろに当直士官(水雷長)が「この漁船近いなあ」と発言、当直員Eが「『近い、近い』と言いながら右舷ウイングに出て行こうとし」たとの当直員Cの証言がそれを象徴しています。「清徳丸」の左舷を示す紅灯はわずか「あたご」の右70度約百メートルに接近していました。しかしこの時点で「清徳丸」などの漁船団をはじめて視認したわけではありません。午前三時三十分から四十分にかけて、当直員が「右30度方向の水平線上に白灯(マスト灯)を視認」したと当直士官に報告しています。

回避措置せず

 艦橋での当直員の交代(午前三時五十分から五十六分)では、当直員Bは三時四十八分ごろに「目視で右30度から50度に紅灯を3〜4個を視認」しながら、危険がないと判断。「目標は目視ではっきり視認できたため、当直士官は当然了解しているものと考え報告はしていない」と証言しています。

 これは明らかなミス。「見張りは目標を危険か安全かを判断する権限はない。そのままをCIC(戦闘指揮所)やレーダー員に報告し判断を仰ぐのが任務」(元海上自衛隊幹部)だからです。

 また、CICの当直体制は通常七人ですが、当時は三人から四人勤務で、二台あるレーダーの一台は継続的な配置がありませんでした。その結果、CICがレーダーで漁船団をとらえたのは午前四時四分、衝突のわずか三分前でした。

 当直員Fが証言しています。機関室の艦首付近を映すモニターは「画面の右下から灯火が現れ艦首方向に移動した」「艦首左舷に一瞬光が見えたと思った直後に両舷停止が下令された」。本紙に寄せた海自元艦長の指摘通り、「あたご」は衝突するまで回避措置を事実上とっていなかったのです。元海自幹部が語気を強めます。

 「当直士官は当直員やCICにどういう指示をし、どういう報告を聞いたのか。漁船団の接近を確認した時点で艦長に報告し、針路変更などを進言する必要があった。この肝心なことがまったく書きこまれていない」

 報告書には艦長の数少ない証言があります。

事故は防げた

 「2時半ごろ、目標を避航するため、右よりのコースで航行する旨、航海長から報告があった」

 元海自幹部は「この時点で艦長は艦橋にあがるべきだった。すでに漁船や外航船など東京湾に入る船舶でにぎわう海域に近づいたことを察知し、自動操舵(そうだ)から手動に切り替えさせ、全当直員に緊張感をもった仕事をするよう指示すれば事故は避けられた」といいます。

 日本海事補佐人会会長の田川俊一弁護士は「見張り員の動きは書いているが、それに当直士官や艦長がどう判断し、どう対応したのかは明らかにされていない。(真相究明の)中間報告の体をなしていない」と指摘します。



■関連キーワード

もどる
日本共産党ホーム「しんぶん赤旗」ご利用にあたって
(c)日本共産党中央委員会
151-8586 東京都渋谷区千駄ヶ谷4-26-7 TEL 03-3403-6111  FAX 03-5474-8358 Mail info@jcp.or.jp