2008年3月10日(月)「しんぶん赤旗」

主張

衝突原因究明

防衛省改革論議に逃げ込むな


 海上自衛隊のイージス艦「あたご」がマグロはえ縄漁船「清徳丸」に衝突・沈没させてから三週間になります。しかし政府・防衛省は、いまもって衝突原因を示していません。

 ことは自衛隊という国家機関の軍艦がおこした事件です。海上保安庁が捜査にあたるのは当然としても、当事者である防衛省にも、真相究明の大きな責任があります。ところが防衛省からはまとまった説明がなく、福田康夫首相も昨年立ち上げた「防衛省改革会議」で「十分議論させていただきたい」というだけです。原因究明を先送りするものとの批判を免れえません。

問題は隠ぺいにある

 今回の衝突・沈没事件の責任が100%「あたご」にあるのは明白です。「あたご」は右方から進んできた「清徳丸」に真横から衝突・沈没させました。それは二つに割れた「清徳丸」の状況からも明白です。

 海上衝突予防法は、船が交差する場合、右舷側に船を見る船がかじを右にきることを義務付けています。「あたご」は衝突一分前に後進をかけたとされますが、かじは最後まで右にきっていません。これは重大問題です。

 防衛省は「清徳丸」発見の時間を「二分前」から「十二分前」に変えました。「あたご」は魚雷をかわすために右に左にすばやくかじをきることができます。十二分もあれば十分に右転できます。なぜ、かじをきらなかったのか、決定的な疑問です。

 見張り員や当直士官への連絡体制が問題であるかのような議論は通用しません。衝突のほぼ二十分前には「あたご」は水上レーダーで複数の船影を確認していたとみられるからです。

 海上衝突予防法は、探知した「物件」をさらにレーダーで「系統的な観察」をするよう義務付けています。「あたご」の作戦行動の中枢である戦闘指揮所(CIC)はレーダーで観察を続行し、見張り員に漁船の動きを監視させなければならないことになっています。これは戦闘艦の運用についての基本問題です。海上保安庁の捜査を口実にして隠すような問題ではありません。

 衝突から四時間半後の八時三十二分から約八時間、護衛艦隊幕僚長が「あたご」艦内に陣取ったことも防衛省は隠しました。午後四時すぎに幕僚長が海幕監部に「清徳丸」を発見したのは「二分より前」との情報を送ったことも隠しました。

 海幕が「あたご」の航海長から聞き取り、大臣室で石破茂防衛大臣らが航海長から聞き取ったにもかかわらず、「二分前」としか発表しませんでした。

 都合の悪い情報は隠し、「清徳丸」を発見するのが遅れたことが事故につながったことにしてしまおうというねらいからであったのはいまや明白です。

 防衛省と海上自衛隊は事実を隠ぺいするのではなく、衝突原因の徹底究明のためすすんで事実を公表すべきです。

軍事優先を許さない

 昨年十二月設置の「防衛省改革会議」は、文民統制の徹底、情報保全体制の確立、防衛調達の透明性についての対策を講じる会議です。「あたご」衝突事件の真相究明とは関係はありません。この会議で議論するからというだけでは、究明をあいまいにすることにつながります。

 原因究明そっちのけの防衛省の態度では、軍事優先をつよめるだけです。民間船舶の安全のためにも原因の徹底究明と「あたご」のきびしい責任追及が必要です。



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