2008年1月26日(土)「しんぶん赤旗」

欧米の裁判「一審無罪のときは検察側が控訴できない」の?


 〈問い〉 先日の葛飾ビラ裁判の不当判決についての大谷昭宏さんの談話の中に“欧米では一審無罪の場合は検察は控訴できない制度が大きな流れになっている”とありました。この点をもう少しくわしく知りたいのですが。(東京・一読者)

 〈答え〉 たしかに、欧米では無罪判決に対して検察官が上訴(控訴や上告のこと)できない制度が大きな流れとなっています。

 アメリカは、憲法修正第5条で「何人も同一の犯罪に対し再び生命又は身体の危険に陥れられることはない」と定めています。連邦最高裁は、これについて、無罪判決を受けた人を上訴することは、再び試練や不安を強い、有罪になる可能性のある状態に置くことになるとして、検察官の上訴を認めていません。イギリスでも同様です。

 英米のこのような考え方の背景には、陪審裁判の影響があります。陪審裁判は犯罪行為があったか否かという事実認定は陪審員が、法律問題の判断は裁判官がおこないます。事実審理は1回限りで、陪審員が評決した事実認定は、きわめて不合理な場合を除いて上訴することはできず、被告人無罪の評決があった場合、検察官は上訴できないというしくみになっています。

 また、フランス、ドイツ、スペイン、スイス、デンマーク、ノルウェーなどは、裁判官と国民から選ばれる参審員がいっしょに刑事裁判を担当する参審制がおこなわれています。これらの国では、参審裁判の事実審理は1回限りとし、検察官は無罪判決の事実問題については上訴ができず、有罪判決の上訴は法律問題と量刑に限られているのが通常です。

 陪審制や参審制を取り入れている欧米などで、無罪判決に対して検察官が上訴できない制度を導入しているのは、事実審理の段階で証拠調べをきちんとおこなったうえで、犯罪行為があったかなかったかを判断したことを尊重しているからです。

 日本の場合も、憲法第39条に「何人も…既に無罪とされた行為については、刑事上の責任を問はれない」「同一の犯罪について、重ねて刑事上の責任を問はれない」との規定があります。これはアメリカ憲法修正第5条とほぼ同じ規定です。しかし、最高裁判決(1950年9月27日)が、これは一つの事件を「訴訟手続の開始から終末に至るまでの一つの継続的状態とみる」として、判決が最終的に確定した後は再び刑事上の責任を問われないという解釈をしているため、下級審の無罪判決の上訴や、上級審が無罪判決を破棄し、有罪とすることが認められているのです。

 日本でも参審制の一種である裁判員制度が導入されるわけですから、このさい、この点の適否を検討する余地があるでしょう。(光)

 〔2008・1・26(土)〕


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