2008年1月15日(火)「しんぶん赤旗」

主張

博士の就職難

学術発展のためにも解決急げ


 大学院の博士課程修了者の就職難が深刻な社会問題になっています。その就職率は五割台にとどまり、博士になっても常勤の研究職に就ける若者はごくわずかです。そのため、優秀な学生が研究者への道を敬遠し、博士課程への進学者が減るなど、有能な研究者の確保が危ぶまれています。日本の学術研究と社会の発展にとって深刻な事態であり、政府は抜本的な対策をこうじるべきです。

研究や生活の保障なく

 研究者をめざして博士課程を修了しても、多くは常勤の研究職に就けず、ポストドクター(三―五年の短期契約の研究者=ポスドク)や大学の非常勤講師など、短期雇用の職に就くことをよぎなくされます。こうした不安定雇用は、契約期間終了後の研究や生活の保障がありません。ポスドクや非常勤講師を繰り返すうち、研究職どころか他業種への就職先さえ失う人が激増しています。

 しかも、ポスドク(約一万五千人)の四割は職場の社会保険に加入しておらず、年収二百万円程度の人が少なくありません。大学の非常勤講師を専業とする人(約二万五千人)は、四割が年収二百五十万円以下、職場の社会保険に加入しているのは一割もいないとされています。

 こうした若者は「高学歴難民」「高学歴ワーキングプア」とさえいわれています。

 博士の就職難は、政府の科学技術政策の「失政」によって生み出されたものです。政府は、一九九〇年代以来「大学院生の倍増」政策をすすめ、博士課程修了者を九〇年の六千人から一万六千人に急増させました。ところが、高等教育充実のための人員増や大学・研究機関の予算の抜本的拡充、民間企業も含めた大学院修了者の就職先の確保など、院生の急増にみあって当然とられるべき施策を政府が怠ってきたのです。この根本には、高等教育予算が、国内総生産比で欧米諸国の半分しかないという貧困な教育政策があります。

 さらに、「構造改革」路線にもとづく市場原理主義や雇用破壊が学術の分野にまで持ち込まれてきました。政府は、研究所や大学の基盤的経費への財政支援を減らし、常勤職への採用を抑制する一方、競争的研究費で雇うポスドクのような非正規雇用におきかえさせたのです。

 とくに、国立大学や独立行政法人研究機関に運営費交付金の削減と人件費5%削減を押し付け、常勤研究職への採用を減少させました。このために、後継者が不足し、学術研究を引き継ぐことが困難だという悲鳴が研究現場であがっています。

 若手研究者の就職難と劣悪な待遇を解決するためには、これらを根本から改める必要があります。政府は、ようやく「多様な職業選択」の支援や「安定的な職を得る仕組み」の導入などに乗り出しましたが、極めて不十分です。

 ポスドクや非常勤講師など若手研究者の深刻な実態を国の責任で調査し、それをふまえた抜本的な解決策をとる必要があります。

教員・研究員の増員を

 そのために、大学や研究所で必要とされる教員・研究員の増員をはかり、研究者の非正規雇用を抑えることは、待ったなしの課題です。日本の大学の本務教員一人当たりの学生数は、イギリスの一・四倍、ドイツの一・七倍です。これからみても大学教員の増員は不可欠です。

 均等待遇にもとづく賃金の引き上げやポスドクの転職支援、大学院生への経済的支援の強化などの対策をこうじることを強く求めます。


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