2008年1月14日(月)「しんぶん赤旗」

底流 ほん流

「給与アップ」合唱の内実


 春闘の時期を迎えて、財界から自民、公明の与党にいたるまで、「給与アップ」発言が相次いでいます。なぜこんな発言が飛び出しているのか、その背景に何が―。


 「十年以内に主要国で最高水準の所得を実現するよう政府に求めたい」

 こんな年頭所感を掲げたのは、日本経団連の御手洗冨士夫会長。人口一千万人以上の国でみると、一人あたりの国民所得が日本は四位(二〇〇五年)と落ち込んでいるとして、「国民一人ひとりが豊かな生活を享受できる」社会をめざすとぶちあげました。

 さっそくこれに飛びついたのが、公明党の太田昭宏代表。二日の街頭演説で、「二〇一〇年までの三年間で給与所得を過去最高の水準に持っていく」と打ち出しました。

 今年初めての会合となった七日の政府与党連絡会議。太田氏の主張に自民党の伊吹文明幹事長も「労賃の配分を高めていくことは、的を射た発言である」と応じました。

 「所得アップ」が財界から政府与党の「共通目標」になったのです。

与党惨敗受け

 この背景には、大企業が史上最高の収益を謳歌(おうか)する一方で、年収二百万円以下の低所得者が一千万人を超えるなど貧困と格差を拡大させた責任が国民から問われ、参院選で与党が惨敗したことがあります。

 太田代表が「労働分配率を考えても大企業は低い。大企業から中小企業へ、企業から家計へ、家計を元気にする戦略に踏み出していかなくてはいけない」(六日のNHK日曜討論)と強調するゆえんです。

 消費の低迷が日本経済に影を落とすもとで、賃上げや安定雇用によって家計を豊かにし、内需拡大による経済成長をはかることが急務になっていることも見逃せません。

 伊吹幹事長は政府与党連絡会議で、所得水準低下の原因について、「派遣社員だとか自由化が進んで、結果的に労働賃金の二極化が起こっている」と指摘。「これが消費が伸びない大きな原因である」とのべました。

 経団連が昨年末に出した経営労働政策委員会報告でも、「手取りの収入が伸び悩み、個人消費の増勢鈍化が懸念されている」と指摘。「安定した成長を確保していくためには、企業と家計を両輪とした経済構造を実現していく必要がある」といわざるをえません。

 政府・財界あげてすすめてきた賃金抑制と非正規雇用の拡大路線が行き詰まりに直面していることを示しています。

低賃金変えず

 それでは、賃上げによる所得水準アップが実現することになるのか。

 御手洗会長は十日の労使フォーラムで、「全体としては企業業績は堅調で、働く人への配分を考慮できる状況になっている」としながらも、「業績が良く余力がある企業は検討してもいい」とのべるなど、全体としては低賃金を押しつける基本姿勢を変えていません。

 同フォーラムでトヨタ自動車の小沢哲専務も「生産性向上の裏付けのない賃金引き上げが結果として国際競争力を落とすことは自明」とのべ、生産性向上の名で賃上げをけん制しています。

 伊吹幹事長も結局は、「自由競争社会だから経営者に(賃上げを)強制することはできない」として、残業代の未払いがないようにすることぐらいしかいえません。

 マスメディア各社が、「賃上げ容認」と報じる内実はこのようなものです。

 安定雇用をめぐっても安定雇用を増大させる方向ではありません。労働者派遣法の改正について政府は昨年末、財界が反対すると、早々と見送る方針を固めました。

貧困なくそう

 それだけに、労働者と労働組合が積極的な要求を掲げて、国民的な共同を広げて政府・財界の賃金抑え込みをはね返し、要求を勝ち取るたたかいが重要になっています。

 全労連の坂内三夫議長は、労働者はじめ国民すべてに貧困が広がるもとで、「中小業者や農民、生存権裁判をたたかう市民など貧困根絶を求める国民との共同を強め、貧困撲滅春闘にしよう」と呼びかけています。

 格差是正と内需拡大を掲げる連合の高木剛会長は「賃上げ容認」発言について、「積極果敢に要求してしっかり交渉することに尽きる」と労働側の奮闘を強調します。

 今春闘での賃上げは、貧困をなくし、日本経済の健全な発展にとっても不可欠の国民的課題になっています。参院選がつくりだした情勢を生かして、春闘でも要求を大きく前進させるたたかいが焦点となっています。



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