2007年12月20日(木)「しんぶん赤旗」
格差拡大に審判
韓国大統領選 投票率は史上最低
「平和・民主」は国民的合意
大統領選で最大野党ハンナラ党の李明博(イ・ミョンバク)候補が当選し、盧武鉉(ノ・ムヒョン)政権の与党・大統合民主新党の国政継続が阻まれました。三年前の弾劾政局で盧大統領を救った有権者が、今度は、同大統領とその後継を見放した形となりました。
![]() (写真)19日、大統領選で投票するソウル市民=ソウル市鐘路区(中村圭吾撮影) |
与党勢力が敗北した直接の原因は、格差の広がりで国民の関心が経済に集中し、前回の選挙で与党を支持した人々が背を向けたことでした。金大中(キム・デジュン)、盧武鉉と十年にわたり続いた「民主改革」勢力の政権が、国民生活改善を約束しながら新自由主義的な経済政策を展開し、成果を上げられなかった結果だと指摘されています。
この五年間に非正規雇用は、労働者人口の過半数の八百二十万人に増大。二十代の大半は、フリーターで、正規雇用になる展望も見いだせないまま生活を送っており、税引き前の月収が八十八万ウォン(約十一万円)という「八十八万ウォン世代」を大量に生み出しました。
不在者投票が始まった十三日、与党陣営が新聞各紙に掲載した選挙広告は「すみません」「反省します」と謝罪の言葉に彩られていました。
与党陣営は、ハンナラ党候補の李氏の株価操作疑惑を集中的に取り上げ、「いくら無能だったとしても腐敗よりはマシ」「歴史を後退させるな」と訴えました。最終盤に入り、民主化運動出身者や宗教人、市民団体を中心に、与党・鄭東泳(チョン・ドンヨン)候補に投票を結集する動きが生まれましたが、形勢逆転には至りませんでした。
これに対し野党の李氏陣営は、「経済に強い候補」を最大の売りにし、経済立て直しの期待を背に受けて選挙戦をリードしました。ただ公約を見ると法人減税やいっそうの市場開放、労働市場の弾力化など、現政権以上の新自由主義的な政策が並びます。そうした矛盾に戸惑った人も多く、投票率は前回の70・8%から62・9%(暫定)へ大きく下落し史上最低となりました。
一方で軍政が打倒された一九八七年からの民主化の進展と、金大中政権から十年間での韓国と北朝鮮の南北関係改善や朝鮮半島の平和体制への動きは、ほぼ国民的な合意になっています。このため、与党勢力の「看板」だった「平和と民主主義」が争点になりにくくなっていました。
李氏は、北朝鮮の核放棄を前提に経済支援を進めると公約。南北対話と北朝鮮への支援のあり方をめぐっては、与党陣営より厳しい条件を付けているものの、六カ国協議を進めるという枠組みでは、与党陣営とは大きく違いません。
一方、李氏の関与が指摘される株価操作疑惑をめぐっては、国民の過半数が「検察の捜査を信用しない」としています。李氏は「大統領当選者」となりましたが、就任するまでは、特別検察官により捜査を受けることになっており、選挙後も疑惑はくすぶり続けます。(ソウル=中村圭吾)
“暮らしやすい国へ”
投票の思い、さまざま
【ソウル=中村圭吾】韓国大統領選挙投票日の十九日、有権者は今後五年間の国政を託す候補者にそれぞれの思いを込めて一票を投じました。最有力候補は、経済界での手腕を評価されるものの、疑惑が指摘される人物。実績と能力を重視するか、それとも政治家としての清潔さを優先するか、悩ましい選択を迫られました。
ソウルの投票所で、金貞武(キム・ジョンム)さん(69)は、「現政権は経済運営がわかってない」と盧武鉉(ノ・ムヒョン)政権を批判。次期大統領には「財政を浪費せず、まともな経済政策をしてほしい」と期待します。
「経済格差が深刻」という李相大(イ・サンデ)さん(53)は、「庶民がくらしやすい国。貧富の格差を解消し、住宅価格の高騰を防いでほしい」と語りました。
大学院生の林恩廷(イム・ウンジョン)さん(29)は、留学先のカナダから投票するため一時帰国。「五年に一度の有権者としての権利を行使するためです」と語ります。
林さんは、「経済問題を解決してほしいという国民の期待が大きいなら、保守に任せてもいいと思っていたが、選挙中に明らかになった疑惑は、民主市民の良心として許せない」といいます。
「建設会社出身で推進力があるから」という理由で最有力候補を選んだ男性(60)は「政治家は、みんな同じ。調べたらいろいろ疑惑はあるだろうけど、大統領になってから、何をするかが大事」と話していました。


