2007年10月8日(月)「しんぶん赤旗」

英・医療無料制度 充実競争

与党 世界トップめざす

野党 拡充へ踏み出す


 英国の原則無料の医療制度・国民医療サービス(NHS)をより充実させようと、与野党が競い合っています。与党・労働党と最大野党・保守党の秋の年次大会では、NHSの有料化や民間医療の拡大ではなく、無料の現行NHSの枠組みの下で、医療の質を改善することが論議の中心になりました。(ロンドン=岡崎衆史)


 「NHSは私の視力を救ってくれた」―。労働党大会二日目の九月二十四日、ブラウン英首相(労働党党首)が演説しました。首相は、十六歳のころラグビーの試合で目の近くをけられ、その後二十一歳までの間多くの時間を病院で過ごした体験を振り返り、NHSの大切さを訴えました。

 ブラウン首相は、「国民はNHSの段階的廃止ではなく、年々改善することを求めている」と述べ、NHSを破壊し高額の民間医療に移行させようとする新自由主義者の考えを否定。院内感染防止のための病院の清潔化や成人の定期的健康診断の実施など、NHSの改良を約束しました。

 首相の指導下、英保健省は四日、今後十年間のNHS改革について暫定報告を発表しました。報告は、医療の地域格差の是正や患者の多様な要求への対応を重視し、世界トップクラスの医療をNHSの下で目指すことを掲げました。

 一方、伝統的にNHSに背を向け、民間医療を重視してきた保守党は、二〇〇五年末にデービッド・キャメロン氏が党首に就任して以来、NHS堅持の方向で医療政策を見直してきました。今年の大会では、「堅持」から「拡充」へと踏み出しました。

 同党で「影の保健相」を務めるアンドルー・ランズレー下院議員は一日、「保守党はNHSの政党だ」とし、同党が政権に就いた場合、NHSへの投資を「毎年、実質的に増やすこと」を約束しました。

 また、NHSを「社会連帯の基礎」と位置づけ、貧しい人が医療にかかることができない米国型の医療制度を「不平等」だと批判しました。

 キャメロン党首自身も三日の演説で、脳性まひの長男の介護をNHSに頼る自身の体験に触れながら、NHSの重要性を強調しました。

 同党首は、「私の家族も含め、多くの家族が何よりも頼りにしているのがNHSだ」と発言。NHS制度を維持したまま、医療関係者の意見を聞いて改革を進めるよう訴えました。


 NHS・国民医療サービス 主に税金を財源とする英国の医療制度で、無料もしくはわずかの料金で利用可能。サッチャー政権(一九七九―九〇年)以降の保守党政権が医療費を削減、抑制したため、医療の質が著しく低下し、長期間、入院や手術待ちをしている待機者の問題も深刻化しました。労働党のブレア政権(九七―二〇〇七年六月)は、医療予算を増額し、医療の質の向上に努める一方で、保守党政権が導入した病院間の競争システムを維持し、NHS業務の一部の民間委託なども進めました。



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