2007年10月6日(土)「しんぶん赤旗」

市田書記局長の代表質問

参院本会議


 日本共産党の市田忠義書記局長が、五日の参院本会議でおこなった福田康夫首相の所信表明演説に対する代表質問の大要は次の通りです。


写真

(写真)代表質問に立つ市田忠義書記局長=5日、参院本会議

 日本共産党を代表して福田総理に質問します。

 先の参議院選挙において、自民・公明政権は歴史的な大敗をきっしました。これは、閣僚の相次ぐスキャンダルなど個々の問題にとどまらず、多くの有権者が、政府の基本路線、すなわち貧困と格差を広げた弱肉強食の「構造改革路線」、「戦後レジームからの脱却」をかかげた憲法改悪の企てや、過去の歴史に無反省な言動などに対して、ノーの審判を下した結果であります。

 総理、この国民の審判に真正面から向き合う仕事は、新たに政権を担うことになったあなたに課せられました。国民は総理の一挙手一投足に注目しています。

“誰が強制なくしてわが子あやめる”――沖縄戦の真実に目をむけ検定撤回へ政府の責任果たせ 

 そこでまず第一にうかがいたい。「憲法を頂点とする戦後レジームからの脱却」をかかげた安倍政治は、戦後六十二年間の歩みを否定し、歴史の書きかえまで試みて、国民のなかにさまざまな傷跡を残しました。沖縄戦での「集団自決」への日本軍の強制・命令・誘導を否定した教科書検定はそのひとつの象徴でした。

 九月二十九日、宜野湾海浜公園をうめつくして「教科書検定意見撤回を求める県民大会」が開かれました。私も参加しました。沖縄県民の実に一割、十一万六千人もの人々が集まって声をあげました。県民の怒りが巨大なマグマとなって噴き上げるのを見る思いがしました。

 自国民を守るはずの日本軍が、逆に戦争遂行のために住民の命を奪い、肉親同士を殺し合わせました。「集団自決」は、「敵に捕まるくらいなら自決せよ」と、手りゅう弾を手渡すなど、紛れもなく日本軍の強制によって引き起こされたものでした。誰が強制なくしてわが子を殺(あや)めるでしょう。自ら手をかけざるをえなかった子どもたちをぎゅっと抱きしめ、「こんなに大きくなったのに。生まれてこなければよかったね。ゴメンね」。亡くなった人も生き残った人も、軍の命令の前に、みんなこの悲しみを抱いたのです。

 集会で発言した高校生は「うそを真実と言わないでください」「醜くても真実を知りたい。学びたい。そして伝えたい」とのべました。

 歴史の真実から目をそむけてはなりません。総理は「政治と行政に対する国民の不信を率直に受けとめる」とのべられました。その最初の仕事として、「集団自決」に軍の強制と命令はなかったとする検定意見の撤回のために、「県民の心を重く受けとめる」との一般論ではなくて、政府としての責任を具体的にはたすべきではありませんか。

国民の暮らし支え、福祉充実させるため、今こそ政治の転換を

 第二は、国民の暮らしについてであります。

 総理は所信表明で「実態から決して目をそらさず」「生じた問題にはひとつひとつきちんと処方せんを講じていく」「社会保障制度は国民の立場に立ったものでなければなりません」とのべられました。そこでお聞きします。

“障害児を部屋に閉じ込める”自立支援法応益負担の撤回求める

 まず障害者自立支援法についてであります。社会参加に道を開いてきた障害者本人とその家族、そして国や自治体の援助のないときからこうした人たちを励まし、受け入れてきた人たちの努力が、この法律によって、いまや無に帰そうとしています。

 「施設に赤字が出るからと、断られた。やっと施設にめぐりあえて心を開き、確かな成長をはじめた子が、また部屋に閉じこもるようになった。この子の数年間の成長と発達をどうして止めるのか、国にそんな権利があるのでしょうか」。この母親の声に総理はどうこたえますか。

 さらに、福祉サービス、自立支援医療における応益負担制度の廃止は、一刻の猶予もならない要求です。この願いにこたえるべきではありませんか。

国保証の取り上げやめ、高すぎる国保料を引き下げよ

 人は誰も、病気から逃れることはできません。だからこそ、いつでも、誰でも安心して医療を受けられる社会をめざしてきました。

 ところが、病院にも行けず、症状が重くなったり、死亡する事件が全国であいついでいます。それは国民健康保険料が高すぎて払えず、保険証をとりあげられた世帯が三十五万世帯にもなったためです。国保加入者の平均所得は、二十年前の百七十九万二千円から百六十五万円に減りました。ところが一人当たりの国保料・国保税は三万九千円から七万九千円へと二倍に増えました。払えなくなるのはあたりまえであります。

 国保証のとりあげをただちにやめるとともに、負担能力をはるかに超えた国保料・国保税を、国の責任で引き下げること、さらに、高齢者に過酷な負担をおしつけ、医療内容を制限する後期高齢者医療制度については、部分的な手直しですませるのではなく中止・撤回すること、総理、これこそ医療の安心のための緊急で切実な課題だと考えますが、いかがですか。

最低保障年金制度の検討と緊急策の実行急げ

 年金への信頼を取り戻すことも、いま政治に求められている緊急課題のひとつです。

 年金不信の根本にあるものはなにか。それは、低すぎる給付水準です。そして受給資格を得るためには二十五年以上保険料を払い続けなければならないというあまりにも長い加入期間です。

 日本共産党はこの根本問題を解決するためには、全額国庫による最低保障年金制度の確立が不可欠だと考えています。同時に、いますぐできることがあります。それは、「消えた年金」問題を解決するために、すべての加入者と受給者に、いま政府が把握している年金記録を直ちに送って、自分の加入歴と記録が一致しているかどうかを確認してもらうこと、もうひとつは、二十五年という長すぎる受給資格をせめて十年程度に短縮することであります。参議院選挙中の議論のなかでも、基本的に各党が一致したこの二つは、その気になれば直ちに実行できるはずであります。総理の決意をお聞きします。

不安定雇用を政治の責任でなくすべきだ

 さきごろ厚生労働省は、「ネットカフェ」に寝泊まりしながら日雇い派遣で働く人々の、実態調査の結果を発表しました。住む場所を失った理由の大半は、「仕事をやめて家賃などを支払えなくなった」ということであります。敷金などアパートを借りるための貯金も、家賃を払い続ける収入もない。履歴書に書く住所がない。だから、安定した仕事につくこともできない。要するに、まともな仕事がないから家がない、家がないから正社員に応募もできないのです。

 こうした人々に少なくとも家賃補助、生活資金の貸しつけを直ちにおこなうこと、さらに、青年を食い物にする日雇い派遣は政治の責任でなくすべきであります。同時に、偽装請負の摘発と正社員化はもちろん、派遣労働者の正規雇用への転換を積極的に進めるべきだと考えますが、いかがですか。

大企業・大資産家に7兆円減税、庶民には負担増――このゆがみを正せば財源は確保できる

 参議院選挙で国民がノーの審判を下した「構造改革路線」は、一握りの大企業、大資産家だけが栄え、民が滅ぶ、殺伐とした社会をつくりだしました。政府の統計でも、大企業の利益は一九九七年度からの九年間で、十五兆一千億円から三十二兆八千億円と、二・二倍になりました。株主への配当は、三・九倍です。

 ところが一方で、額に汗して必死に働き、このもうけをつくり出した労働者の給料は、四十三兆九千億円から四十兆三千億円に、三兆六千億円も減りました。税金の負担も、庶民へのあいつぐ大増税とは裏腹に、大企業・大資産家には七兆円をこえる減税がおこなわれたのです。

 総理、たとえ政治的立場は違っても、これはあまりにも異常だとは思われませんか。

 このゆがみを正せば、国民の暮らしをうるおし、社会保障のための財源も豊かに生み出すことが十分可能であります。総理が、「ぬくもりのある政治」を本気でめざすというなら、国民の暮らしを支え、福祉を充実させるために、こうした税・財政のゆがみをただす政治に転換すべきだと考えますが、いかがですか。

テロ撲滅に役立たない報復戦争協力をやめ、人道支援に切り替えよ

 最後にテロ特措法についてお聞きします。

 「テロとのたたかい」という名ですすめられたアメリカの報復戦争によって、テロはなくなったでしょうか。

 日本共産党は、二〇〇一年九月十一日の同時多発テロにさいして、国連および各国政府に書簡を送り、国際社会が協力してテロリストを追い詰め、法の裁きの下に置くことこそ解決の道であり、その努力を尽くさないまま報復戦争に訴えることは事態の悪化しかもたらさないと主張し、世界に働きかけました。このことは、戦争によってテロの温床が拡大され、アルカイダのネットワークが世界の六十カ国に広がるなど、この六年間の事実によって証明されました。

 アフガンで医療支援や井戸を掘って農業かんがい用水の整備などをおこなっている「ペシャワール会」の中村哲医師は、アフガンでテロの温床が広がりつつある現状を次のようにのべています。

 「その背景には戦乱と干ばつで疲弊した農村の現実がある。農地なき農民は、難民になるか軍閥や米軍の傭兵(ようへい)になるしか道がない」

 総理、自衛隊による給油でいったい何人の雇用が、何ヘクタールの農地が生まれたでしょうか。中村医師は「殺しながら助ける」支援というものがありうるのか、と鋭く告発しています。テロの撲滅には何の役割もはたせなかった報復戦争への協力はきっぱりやめて、農業の再生、貧困の撲滅、教育の復興など、最大の被害者であるアフガン国民の立場に立った人道支援に切り替えるべきではありませんか。

 テロ特措法の延長はもちろん、新法の制定など断じておこなうべきではないことを指摘して質問を終わります。


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