2007年10月3日(水)「しんぶん赤旗」

「集団自決」検定見直しへ

沖縄の心 政府動かす

県民大会11万人


 「工夫と努力と知恵があり得るのかもしれない」。教科書検定意見撤回を求める県民大会から二日たった一日、町村信孝官房長官はこうのべて「集団自決」(強制集団死)をめぐる検定意見撤回に一歩踏みこむ考えを示しました。県民の十人に一人にあたる十一万人が結集した県民大会の衝撃が政府を動かしはじめたのです。(山本眞直)


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(写真)11万人の参加者で会場が埋めつくされた教科書検定意見撤回を求める沖縄県民大会=9月29日、沖縄県宜野湾市の海浜公園

 仲井真弘多県知事は一日、県議会でこう述べました。「県民の平和に対する思いや強いエネルギーが爆発寸前のマグマを感じさせる動きだった」

 沖縄県議会議長室。県民大会実行委員長を務めた仲里利信議長が本会議の合間に取材に応じました。「県民大会への参加を表明している千六百団体への参加者見積もりの事前アンケート回答を集約したら六万人という数が出た。フタを開けたら十一万人を超えた」

 同議長は、県民大会で無料提供された乗り合いバスが、那覇市の県庁付近のバスターミナルですでに満員になり、途中のバス停ではほとんどの県民が乗車できない状態が続き、交通手段が確保されていたら「十五万人にもなっていた」と力を込めます。

 大会当日、出発式を兼ねた町民大会を開いた与那原町。五千五百世帯の町で五百人近い町民が参加しました。

 町民大会に反対する団体から町に質問状が送られるなどの経過もありました。実行委員会を代表してあいさつした古堅國雄町長は「これほどたくさんの町民の参加に、私たちの判断は間違っていなかったという確信でいっぱいです」と強い自信を見せました。

 「当初、バス二台の予定が、県民大会が近づくにつれて申込者が増え続け、結局、バスは七台になった」(町総務企画課)。県民の大会への関心が主催者側の予測を超えて広がり続けたのです。

 こうしたなか、二日には渡海紀三朗文科相が「真しに対応する」とのべ、教科書会社から訂正申請があればあらためて教科用図書検定調査審議会を開く考えを示しました。

教科書検定撤回求める

沖縄県民大会

「検定許したら、また戦争になるさー」

歴史風化への怒り

 教科書検定意見撤回を求める県民大会の会場。誰と相談することもなく「この大会には行くさ」と自分で決めた、というおじぃ、おばぁたちが炎天をさけるように会場周辺の木陰で、沖縄戦体験者の怒りの発言を一言も聞き漏らすまいと耳をすます姿が目につきました。

 「こんなことが許されたら、また戦争になるさー」

 世代を超えた参加者の列から聞こえてくる、小さい子の手を握ったおばぁたちの会話です。県民の中にうねる怒りのほこさきを見た思いです。

なぜ真実隠す

 県民の残酷な戦争体験をも土足で踏みにじる歴史改ざんへの怒り、憲法九条改悪による「戦争をする国」づくりへの切実な危機感です。

 那覇市の大手ビジネススクールは「開校以来初めて」(同校広報担当者)という大会参加を「授業扱い」にしました。

 学生と職員ら千二百人が参加しました。その一人の女性(19)は「『集団自決』で亡くなった人の気持ちを考えると教科書検定問題はムカツク。なぜ真実を隠そうとするのかわからない。人の命を軽く扱わないでほしい」と思いを込めました。

 文字通りの「県民ぐるみ」「島ぐるみ」県民大会の成功について大会副実行委員長の玉寄哲永県子ども会育成連絡協議会長はこう見ます。「県民全体がこの問題ではっきりした意思を表した。検定撤回の一点にしぼった超党派の実行委員会をたちあげ、撤回までは一歩も引かない態度を示してきたこと、マスコミも県民の目線で連日報道してくれた」

一点での団結

 一点での党派を超えた県民の団結――。

 本土防衛の「捨て石」にされ、日本軍に「集団死」を強制された県民。敗戦による米軍の軍事占領に対し、「祖国復帰」の一点で団結した「島ぐるみ闘争」で、アメリカ政府をも動かし本土復帰を勝ち取った沖縄。一九九五年、米海兵隊員による少女暴行事件に抗議、県民大会に八万人余を集めました。「米軍基地問題」では日米両政府の基地押し付けとのたたかいが続いています。

 新崎盛暉・沖縄大学名誉教授は指摘します。

 「県民大会に十一万人が参加したエネルギーは、直接的には沖縄戦の『集団自決』をめぐる教科書検定への怒りとして表面化した。しかしその背後にこの間の小泉政権と安倍政権による米軍再編での日米合意を強引に沖縄に押しつけてきたことなどへの怒りが爆発したのだと思う。今後は政府の“小手先”での対応にごまかされないよう気をつけなければなるまい」


 「集団自決」検定意見 来年度から使われる高校日本史の教科書検定で、文部科学省は五社七冊の教科書の沖縄戦「集団自決」の記述について、「実態について誤解するおそれがある」と検定意見をつけ、軍が「自決」を強制したという記述をすべて修正・削除させました。これに対し沖縄では県議会とすべての市町村議会が撤回を求める意見書を採択。同県以外でも意見書を採択する地方議会が次々と出るなど抗議と撤回要求の世論が広がっています。



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