2007年9月27日(木)「しんぶん赤旗」

福田新体制と日本共産党の立場

CS放送 志位委員長大いに語る


 日本共産党の志位和夫委員長は二十六日、CS放送・朝日ニュースターの番組「各党はいま」に出演し、新しい政治状況にどう臨むかについて語りました。聞き手は朝日新聞コラムニストの早野透氏。


安倍前首相の政権投げ出し――無理をつづけたあげくの政治的破綻   

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(写真)CS放送朝日ニュースター「各党はいま」に出演する志位和夫委員長

 早野 政治の流動する状況を受けて、どのようにとりくんでいくかうかがいます。まず、こんなことはびっくり初めてという安倍さんの辞任ですが、病院での会見をみると痛々しいという気がしないでもないが、政治の一つの出来事としてどう感じていますか。

 志位 健康問題が直接の(辞任の)理由だったとおっしゃっていましたが、そうであるならば、少なくとも辞意を表明するさいに、そのことを説明すべきでした。

 安倍さんが、あそこまで追い詰められていった根本には、力まかせに無理なことをしたという問題があります。経済路線では、あいかわらず貧困と格差を拡大する「構造改革」路線をつづける。その一方で、「戦後レジームからの脱却」だ、「美しい国づくり」だと、憲法改定に向けた悪法の無理押しをする。無理なことを続けたあげく、国民のきびしい審判をあびた。政治路線の破綻(はたん)が根本にあると思います。

若者から「希望」、お年寄りから「安心」を奪ったのは何だったか     

 早野 自民党は、「振り子の理論」というか、福田さんが登場しましたが、安倍さんに比べると、なかなか常識人なのかな。政権との対し方は変わってきますか。

 志位 私は、まず国内路線についていえば、基本のところで、小泉・安倍路線と、福田新体制とは変わるところがないと思います。自民党は、もはや他の選択肢をとりようがなくなって、行き詰まりがはっきりしたのに、同じ道をすすもうとしている。

 たとえば、福田さんは、「構造改革」路線について、「方向性は変わらない」と繰り返しいいました。いくつかの国民負担増の凍結を検討するなどの取り繕いは打ち出しましたし、これは国民の声が圧力になっての変化ですから、前向きにやらせる必要がありますけれども、貧困と格差を拡大した「構造改革」という基本路線は変えない。キャッチフレーズは「希望と安心の国づくり」といっていますが……。

 早野 そうですね。「若者に希望を、お年寄りに安心を」と。なるほどそうかと。

 志位 なるほどというより、私は、「よくいうな」という感じなんですよ(笑い)。若者から「希望」を奪ったのは、いったい何だったのか。労働(法制)の規制緩和で、派遣・請負・パートなど不安定雇用を増やし、「使い捨て」の労働を拡大した、「構造改革」路線そのものです。お年寄りから「安心」を奪ったのは、いったい何だったのか。あいつぐ負担増と、年金、介護、医療など、あらゆる面での社会保障切り捨てがすすめられましたが、これも「構造改革」路線そのものです。その共同の執行者として、小泉首相とともに責任を負っているのは、福田さんその人ですから。

 早野 かなり責任がありますな。小泉内閣の官房長官だった。

 志位 その反省なしに、「希望」とか「安心」とかいわれても、むなしくひびくだけという感じがしますね。

消費税増税への動きが色濃くあらわれてきた  

 早野 たぶん、切り捨てすぎちゃったから、もうそれをまた戻すということはしないにせよ、ここらへんで足踏みというか、すこし考えなければならないなと。それが、「構造改革」の影に目配りするという自民党なりの路線変更だとは評価できませんか。

 志位 多少の手直しはあっても、基本は変わっていないし、さらに悪い方向への重大な動きがあります。福田新体制をみますと、消費税増税への動きが、たいへん色濃くあらわれてきた。福田さん自身も、基礎年金の国庫負担を二分の一に引き上げる財源を問われて、足らなかったら消費税も検討しなければならないと、平気で繰り返しました。

 早野 今回の(総裁選の)議論のなかで、よくみるとかなりちゃんといってますな。その方向性についてはね。

 志位 ええ。今度の(自民党)四役の人事で谷垣さんのような消費税増税の急先鋒(きゅうせんぽう)を政調会長にすえるというところをみても、消費税という弱いものいじめの一番悪い税金を上げていこうという方向がでていますね。ですから「路線変更」でもなんでもないんですよ。「構造改革」路線で、政府と財界が一番やりたいのは、消費税を上げて、それと一体に大企業の減税をさらにすすめるということですが、その本丸にずうずうしくも手を入れようというのですから。

 早野 なるほど。年金改革と消費税をワンセットに国民に訴えれば、国民も受けいれるのではないかということですね。もう一つ、参議院が与野党逆転しているけれども、こういう問題をちゃんと民主党に話せば、小沢さんや民主党は意外にわかってくれるかもしれないと思っているようですが、志位さん、参院での野党協力というようなことも、その問題にからんできて、そういう動きを阻止するということは可能なのでしょうか。

 志位 消費税という税金にたいする基本的な考え方についていえば、共産党と民主党は、根本的に違っているんです。

 早野 小沢さんは、この間(参院選で)消費税上げないといっていましたが、いままでは上げるといっていましたからな。

 志位 ええ。(民主党は)いずれは社会保障の財源という名目で消費税を上げるという立場には変わりはないと思います。同時に、民主党はこの前の選挙で、「当面は上げない」という公約をした。公約した以上、それを守る必要があります。もしこの公約に反することをしたら、きびしい批判にさらされざるをえません。それはきちんと守るべきだということを私たちはいいます。

消費税に頼らずに、社会保障を支える財源をどうやってつくるか    

 志位 この問題は、結局、社会保障を支える財源をどこから見いだしてくるかというところに、帰着するわけです。私たちは三つの点が大事だと思っています。

 一つは、ムダ遣いを一掃する。たとえば道路特定財源というムダな道路をつくりつづける仕組みは抜本的に見直して、一般財源化する。

 二つは、大企業と大資産家にたいするゆきすぎた減税措置を、抜本的に見直す。これをやれるかどうか。これをやらないと、とってくる税金の先がないですから、結局は消費税(増税)ということになります。

 三つ目は、五兆円にのぼる軍事費の問題です。とくに海外派兵のための装備とか部隊、また派兵費用そのものを削る必要がありますし、米軍への「思いやり予算」、三兆円にのぼる在日米軍再編予算は中止する。聖域にしないでメスを入れる。

 これらにメスを入れることによって、(社会保障の財源は)まかなうことができます。私たちは、それをおおいに押し出し、対置していきたいと思います。

 早野 民主党がずりさがらないように。(笑い)

 志位 民主党は、ムダ遣いの面ではある程度のことはいうでしょうけれども、大企業へのゆきすぎた減税をただすこと、さらに軍事費の問題になってくると、なかなか踏み込んでいけないという問題点がありますね。そこはおおいに議論していかなければなりません。

戦争でテロはなくせたか――この根本問題を徹底的に吟味すべき    

 早野 当面のテロ特措法の問題は、成り行きをみていると延長は無理だなという時間的経過になっています。この問題は根本的にどうとらえたらいいのか。

 志位 私は、二つ大事な点をみてほしいと思うんです。一つは、この法律というのは、9・11同時多発テロにたいしてアメリカが報復戦争という手段で対応した、その戦争を支援する憲法違反の枠組みですが、それでは戦争でテロはなくせたか。この根本問題を徹底的に吟味する必要があります。

 現実をみればなくせなかった。テロの温床を拡大し、テロを国際的に拡散した。タリバンが、すでに国土の半分ぐらいを実効支配するところまで復活してきている実態があります。米軍を中心とする外国軍が、空爆をやるでしょう。お年寄り、子ども、女性、民間人がどんどん殺される。そのことが憎しみをあおって、テロの土壌が拡大しています。

 このことは国連も認めています。「国連アフガニスタン支援ミッション」(UNAMA)が、今年九月九日に報告書を出しています。そのなかで、「軍事的アプローチは、住民の怒り、テロ攻撃を求める声や支持する声を高める不幸な効果しかもたらさず、攻撃者の数を増やすことにしかならない」、「軍事的アプローチだけでは、わずかな短期的効果しかあげることができない。早急な政治的とりくみが必要である」とのべています。

 報復戦争をやめ、貧困、飢餓、干ばつ、教育、そういうところにたいする本格的な国際的支援に切り替えていく。テロリストは、警察的な方法で捕まえる。そのためにも住民から孤立させる「政治的なとりくみ」が大事になっています。

 早野 そのことはほとんど国際世論といってもいいでしょうね。

 志位 ええ。そのときに、そのことへのまともな吟味もなしに、報復戦争を支援する活動を続けていいのか。ここに大問題があります。

海上自衛隊は何をやっているのか――アフガン空爆と、イラク戦争への支援          

 志位 もう一つ、私が、この問題で大事なポイントだと思うのは、派兵された海上自衛隊がいったい何をやっているのかという問題です。

 メディアの報道では、いつも「海上給油活動」と表現され、「海上阻止活動」への支援活動をやっているといわれます。つまり海上で、テロリストを捕まえたり、麻薬の密輸を取り締まったりする、それを支援するために油を補給しているだけだというような報道です。しかし、アフガニスタンというのはもともと内陸の国で、海上でテロリストを捕まえるような活動の必要性がどれだけあるのか。

 早野 ちょっと腑(ふ)に落ちないところもありますね。どうもイラクの方にいっちゃっているらしいという報道もある。

 志位 ええ。少なくとも最近は「海上阻止活動」なるものは、大幅に減っています。実際には、何をやっているのか。たとえば、これはアメリカの海軍のホームページですが、去年の九月四日に日本の補給艦「ましゅう」が、アメリカの強襲揚陸艦「イオウジマ」に補給している写真です。米海軍のニュースでは、九月二十一日までに、「イオウジマ」から飛び立った攻撃機ハリアーが、アフガニスタンにたいする空爆のために、百三十六回の攻撃飛行をしたとあります。つまり、日本が提供した油というのは、アフガン空爆に使われている。無辜(むこ)の民間人を殺すために使われているということを認識しないといけません。

 早野 そうか、インド洋の警戒活動ではなくて、直接的な攻撃活動に補給しているというふうに把握できるということですな。

 志位 そうです。しかもあの地域に展開している米海軍というのは、アフガンでの報復戦争だけをやっているのではない。イラクの侵略戦争もやっている。この両方の活動をやっているわけです。たとえば、空母キティホークなども両方をやっているわけです。この空母にも油を補給しています。

 これは二〇〇三年のことですが、わが党の議員が追及すると、政府は、空母キティホークに二十万ガロンの油を提供したと説明し、「二十万ガロンは空母が一日で使う量だ」として、「これはアフガンのほうに使っている、そう信じています」と強弁したものでした。しかし、最近、提供した油は、八十万ガロンだったことが暴露されて、政府も訂正を余儀なくされました。八十万ガロンということになると、結局、イラク戦争にも使われているのではないか。この疑惑も、たいへん重大になってきました。

 早野 そのあたりをこの国会の議論でちゃんとすることが、国際世論もみんな喜んでいるというキャンペーンも重なっているので、世論がどういうふうに感じ取るかという勝負になるかもしれませんね。

 志位 そうですね。これらの問題をきちんと吟味して、日本は報復戦争の支援からは撤退する。そして、ほんらい日本がなすべき民生分野の本当に必要とされる支援をおこなうべきだと思います。

憲法の問題はどうなるか――対米従属の改憲派を包囲する国民運動の前進さらに        

 早野 安倍さんが去るということになって一番心配していたのは、憲法の問題がどうなるかということだったのですが、これは福田さんに代わってどうなると思いますか。

 志位 私は、安倍首相が、教育基本法の改定、改憲手続き法、防衛省への格上げ法を強行した、この三大罪悪は非常に深いものがあって、自分の出処進退についてのまともな判断さえできないような人が、子どもたちに「規範意識を教え込む」といって教育基本法を改悪したというのは、かえすがえすも悔しい思いがします。

 同時に、安倍首相が、極端なタカ派路線の暴走をしたことによって、国民のきびしい審判を受けることになった。そのことによって、改憲のスケジュールは大幅な変更を余儀なくされ、改憲派にとっては重大な打撃となりました。それから「靖国」派――侵略戦争を肯定するグループにとっては大打撃となりました。

 ただ、この問題でよくみなければならないのは、福田さん自身が、憲法についてどういう考え方を持っているか。自民党が「新憲法草案」をつくったときの起草委員会で、安全保障の小委員会の責任者をやっていたのが、福田さんその人なのです。

 早野 そうだ。福田さんだったなあ。そういえば。

 志位 ええ。「新憲法草案」で、九条二項を削除し、「自衛軍」を書き込み、「自衛軍」の海外での活動を書き込んだ、その部分の責任者は福田さんその人なんですよ。対米従属の改憲派という点では変わらない。息せき切って無理押しするというやり方はできなくなって、スケジュールとやり方は多少変えるでしょうが、改憲路線は変わらないというところをよくみて、これを包囲する国民的なネットワークを草の根からつくることに、さらに力を入れていきたい。「九条の会」をさらに発展させることが大切です。

 早野 護憲派のエースとしての共産党もまだまだ頑張らなければいけないですね。

 志位 そのとおりです。

衆議院選挙――自公政治に代わる政治の中身が問われる選挙に     

 早野 福田さんも次の選挙を意識した布陣をしいてきているようですが、これにどう対抗していきますか。最後に一言。

 志位 参議院選挙では、「自公政治ノー」という審判がすでに下りました。それに続いて、総選挙では、それでは自公政治に代わるどういう政治が必要なのか、それが今度は正面からの争点になってくると思います。私たちは、きたるべき衆議院選挙では、自民党政治の政治悪の根本にある「アメリカいいなり」と「大企業中心主義」というゆがみの根本にメスを入れる日本改革の方針をおおいに語って、ぜひ前進したいと決意しています。


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