2007年9月25日(火)「しんぶん赤旗」

米大統領選

医療保険が争点に

皆保険制度導入を議論

保険業界のもうけ増も


 米国の医療保険問題が二〇〇八年の大統領選挙で大きな争点の一つとして浮上しています。出馬表明している候補者もそれぞれの政策を発表。マイケル・ムーア監督のドキュメンタリー映画「シッコ」のヒットも後押しして、国民皆保険制度の導入の議論も広がる兆しをみせています。(ワシントン=山崎伸治)


 米国には高齢者や障害者、低所得者、退役軍人を除いて、公的な医療保険制度はありません。商務省国勢調査局の調べによると、二〇〇六年にこうした公的保険の適用を受けた人は全体の27%、民間の医療保険に入っている人は67・9%、無保険の人は15・8%でした(重複があるので合計は100%を超える)。

保険が医療を制限

 米国の医療保険の問題点として、無保険者が増えていることに加え、民間の保険に入っていても必要な医療サービスが必ずしも受けられないことがあげられます。利潤優先の立場から医療内容に制限を加えているからです。

 現在開会中の第百十議会には、国民皆保険制度を導入する法案(HR676)が提出されています。すでにある公的保険制度を全国民を対象に広げれば可能だという考え方に立っています。

 法案は今年一月末に民主党のジョン・コンヤーズ下院司法委員長が提出。同党の大統領選候補に名乗りを上げているデニス・クシニチ下院議員ら八十一人が共同提案に加わっていますが、審議日程は決まっていません。

無保険者なくすが

 大統領選に向けた論戦でも、医療保険問題が焦点の一つです。民主党の有力候補の一人、ヒラリー・クリントン上院議員は十七日、医療保険制度改革案を発表しました。

 同氏の案は、(1)すべての国民に保険加入を強制する(2)大企業に従業員の保険加入を保障するよう義務付ける(3)保険料には税控除を認める―が柱です。無保険者も保険加入できるようにするというものです。これは同氏が一九九三年に、夫のビル・クリントン大統領のもとで医療保険改革を担当した際の改革案を踏襲しています。

 無保険者をなくすという狙いはありますが、給付の提供は引き続き保険会社です。

 クリントン氏の発表に先立つ八月二十九日、ワシントンで米国労働総同盟産別会議(AFL・CIO)のジョン・スウィーニー議長が記者会見し、二〇〇九年までに無保険者をなくすという新たな運動を発表しました。

 その責任者に任命されたのはへザー・ブース氏。かつてヒラリー・クリントン氏のもとで医療改革を手がけた人物です。

 スウィーニー氏は記者会見で皆保険法案(HR676)について問われ、「今回はひとつの法案に執着するよりも、医療保険改革への草の根の支持を構築する」として、二〇〇八年の選挙で「労働者にやさしい大統領と議会」を実現すべきだと述べました。事実上、クリントン氏を大統領候補として支持することまでほのめかしたものといえます。

看護師組合が反対

 一方、共和党の大統領候補では、ミット・ロムニー前マサチューセッツ州知事が、同州で「皆保険制度」を導入したことを成果として誇っています。

 同州が全米で初めて導入した制度は、住民に民間医療保険への加入を義務付け、未加入者には罰則を適用。低所得層には州が補助金を出して加入を推進します。

 保険料の納入を州政府が保障するに等しいことから、医療関係者の懸念とは裏腹に、保険業界は大賛成しました。

 この制度は現在、カリフォルニア州でも検討されていますが、カリフォルニア看護師組合は、保険会社をもうけさせるためだけだとして導入反対を表明しています。同組合は五月にAFL・CIOに加盟し、ローズ・アン・デモロ書記長はAFL・CIOの副議長の一人となっています。

 そのデモロ氏は十八日付のブログ・ニュース「ハッフィントン・ポスト」で、クリントン氏の「改革案」について言及。マサチューセッツ州で導入され、カリフォルニア州で検討されている制度と同じだと指摘し、「医療保険業界による価格詐欺や急増するコストに対処することが、みじめにもできていない」と批判しています。


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