2007年9月24日(月)「しんぶん赤旗」

ムダがムダよぶ

徳山ダム 導水路計画 岐阜→愛知

890億円かけ 不要の水送る


 “ムダな公共事業の象徴”と称される岐阜県揖斐川(いびがわ)町の徳山ダム。水をためる試験湛水(たんすい)が始まって一年、日本最大の貯水量(六億六千万トン)を誇るダム湖には、60%の水が張られています。今後、導水路を建設し愛知県と名古屋市に給水する計画ですが、「“水余り”の中で、ムダにムダを重ねるものだ」との声が出ています。(山本正剛)


図

 徳山ダム建設でこれまでつぎ込まれた費用は三千五百億円。さらに今後、その水を下流域で使うための導水路事業に、八百九十億円もの予算が投じられようとしています。関連の計四千三百九十億円は、愛知県の二〇〇七年度の一般会計予算の五分の一に相当します。

 導水路は、揖斐川から長良川を経由し、木曽川に流す四十四キロの上流ルートと、下流に二キロのルートの分割案を計画。二〇一五年の稼働を目指します。

 導水路事業を進める国土交通省中部地方整備局が建設目的に挙げるのは、(1)異常渇水時、アユやシジミなどが生育するための河川環境の確保(2)新規利水の補給―です。上流ルートの直径四メートルの導水トンネルは、毎秒二十トンの水量を誇りますが、平常時に流れるのは利水分の四トンだけ。残りの十六トンは、治水として渇水の際、河川の水量を維持するために供給します。

水使用量は減る

グラフ

 愛知県企業庁水道部水道計画課の杉浦誠治主幹は「揖斐川、長良川、木曽川の水の総合運用が可能になり、異常渇水に対応できる」と胸を張ります。

 一方、「愛知県は十分に水が確保されている。十年に一回の渇水が起きても、既存の水源施設で間に合う」と分析するのは、名古屋市にある金城学院大の伊藤達也教授(人文地理学)。

 愛知県は、一日平均給水量百十万トン、一日最大給水量百四十五万トン(〇六年度)に対して、約百八十万トンの水利権を確保しています。名古屋市は、平均八十一万トン、最大百二万トン(〇五年度)に対して、水利権は約百七十万トンです。伊藤教授は「一九九四年に完成した長良川河口ぜきの水もほとんど使っていない中で、徳山ダムの水をさらに補給するのは論外です」と厳しく批判します。

 中部整備局や愛知県は「人口増や過去の実績を考えると、給水量は今後増加していく」と予測しています。結果、二〇一五年度の一日最大給水量は県百七十四万トン、市百二十四万トンとされています。

 名古屋水道労働組合の組合員の武藤仁さんは「あり得ない数値で、過大予測。県民の節水意識の高まりで一人当たりの水の使用量は減っています。今年八月の記録的な酷暑でも過去最高は更新していない」と強く語ります。過去十年間の愛知県の人口推移と給水量を比べると、人口は毎年四万人ずつ増加していますが、給水量は横ばいで推移しています。

水道料にも影響

 「もし渇水になれば、農業用水を上水道に転換すればいい。巨費を掛けない渇水対策を考えるべきです」と主張するのは、日本共産党の田口一登・名古屋市議。愛知県と名古屋市は、あわせて四百五十億円の徳山ダム建設費の支払いを背負い、導水路でも国負担とほぼ同額の四百億円以上の負担が見込まれています。田口市議は「徳山ダムの建設費に加え、導水路の費用まで返済するとなると、水道料金の値上げなど住民生活への影響は避けられない」と指摘します。

 伊藤教授は言います。

 「国交省は、近年の『少雨傾向』やそれに伴う『ダムの供給実力の低下』など、都合の良いデータを引っ張り出して導水路建設を進めようとしています。導水路を造ることが目的になってしまっている。渇水対策の選択肢を市民に提供して、議論しなければなりません」



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