2007年9月23日(日)「しんぶん赤旗」
国民に何をもたらした「構造改革」
自民総裁候補 「改革止めるな」というが
安倍晋三首相の後継をめぐり、財界も後継候補も「(小泉内閣以来の)構造改革を止めるな」の大合唱です。国民の「ノー」の審判を受けてもなお、しがみつく「構造改革」とは――。(渡辺健)
財界・米国が熱望
「基本路線は多くの国民のみなさまに理解していただいている」。安倍首相は七月二十九日夜、参院選で自民・公明の与党が大敗してもなお、こう述べました。安倍首相は辞意表明に追い込まれても、「改革を止めてはならない」(九月十二日)と表明。安倍後継をめぐる自民党総裁選でも、福田康夫元官房長官、麻生太郎幹事長の二候補は、小泉内閣以来の「構造改革」を継承することでは足並みをそろえています。
安倍首相に「理解されている」と言われた国民は「納得しない」が62%(「朝日」八月一日付)。一方、財界は与党大敗後も「改革のスピードを頓挫させてはならない」(御手洗冨士夫日本経団連会長、七月三十日)とハッパをかけました。
それもそのはず、小泉・安倍流の「構造改革」は、国民が求めたものではなく、財界やアメリカが熱望してきたものだったからです。
目的は弱肉強食社会
小泉内閣時代、経済財政担当相・金融相として、「構造改革」を推進した竹中平蔵氏は、かつて、本紙記者にこう答えました。
「『構造改革』とは、ひとことで言えば、競争社会をつくること。弱い者は去り、強い者が残るということ」
“市場にまかせればすべてうまくいく”というアメリカ型の市場原理にもとづいた競争社会づくりです。
小泉首相は「構造改革なくして日本の再生と発展はない」「痛みを恐れない」(二〇〇一年五月七日、衆院本会議での所信表明演説)と財界とアメリカの要望を強力に推進しようとします。
そのテコとなったのが強引な不良債権処理でした。これには前段があります。
小泉内閣の前の森内閣時代。財界はバブル崩壊後の「三つの過剰(設備、借金、雇用)の解消」を求め、「不健全な企業には、早く退出していただきたい」「プレイヤーを減らすことが大事だ」(当時の今井敬経団連会長)と迫りました。不良債権処理は「企業淘汰(とうた)のテコだ」と経団連事務局幹部は解説してみせました。
ブッシュ米政権の意思も明確でした。
「日本が(不良債権処理に)全力で取り組んでいないとの見方が米国内にある」
ブッシュ米大統領は〇一年三月の日米首脳会談で、不良債権処理問題を突然、持ち出しました。あわてた森首相は「不良債権が(日本経済の)最大のネックになっている。半年で結論を出す」と応じます。
森首相の後を受けて登場した小泉首相のもと、まとめられた「骨太の方針」は、不良債権処理を通じて人と資金を低成長分野から高成長分野に移すという戦略がうたわれます。
同年六月末の日米首脳会談で小泉首相は不良債権処理をはじめとする「構造改革」の推進をブッシュ米大統領に表明。「経済成長に向けた日米パートナーシップ」という米国の要求が日本の政治にストレートに反映する日米経済協議の新しい枠組みがつくられました。
アメリカがなぜ日本に「構造改革」を迫るのか。「借金経済のアメリカは、日本などからの資金の流れが滞ると成り立たない経済。日本がドルを支え続けるための『構造改革』というのが基本にあって、金融機関による郵政民営化など業界ごとの個別要求が露骨に出てくる」と経済評論家の奥村宏さんはいいます。
一方、日本の財界について、経済同友会終身幹事の品川正治さんは「アメリカを主要な市場にして、アメリカの目で世界を見る“勝ち組”が財界を牛耳っている」といいます。
広がる貧困と格差
「(構造改革で)日本経済が成長路線を歩めるようになった」(麻生太郎幹事長、十五日)というように小泉・安倍流「構造改革」は大企業の成長はもたらしました。
トヨタ自動車の営業利益が二兆円を突破するなど資本金十億円以上の大企業はバブル期を超える空前の大もうけをあげています。その一方で、貧困と格差が広がっています。
厚生労働省が発表した〇五年の所得再分配調査では所得格差が過去最大を更新しました。賃金の格差がどんどん広がり、税と社会保障が、その格差の是正に効果を発揮できていません。
「ネットカフェ難民」が約五千四百人という推計が厚生労働省から発表されましたが、「サウナ難民」「マック難民」など「難民」はもっと多いといわれています。
派遣会社に対する調査では、一カ月未満の短期派遣労働者の大半は日雇い。短期派遣の平均月収は十三万三千円です。
大企業が正社員を非正規社員に置き換え、人件費を抑制することで収益拡大をはかることのゆがみがあらわれています。
政府の〇七年「経済財政白書」は賃金が一向に上昇しない理由に、非正規労働者の割合の増加や賃金の低い産業への労働移動などをあげています。
自民・公明政権が「構造改革」の名で、中小企業を「不良債権」扱いし、大企業にリストラ・人減らしを迫り、労働法制のいっそうの規制緩和を進めた結果です。
税と社会保障で貧困と格差を是正するどころか、社会保障の相次ぐ改悪に加え、“庶民に増税、大企業に減税”という「逆立ち」税制をすすめました。小泉・安倍両内閣が決めた庶民増税は約五兆二千億円、大企業・大資産家減税は約四兆三千億円にのぼりました。そのうえ、消費税増税まで狙われています。
こうした「構造改革」路線は、修正などではなく、路線そのものの中止・転換こそが求められています。
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