2007年9月11日(火)「しんぶん赤旗」

9・11同時多発テロから6年

“戦争でテロはなくせない”


 二〇〇一年の9・11対米同時多発テロから六年。ブッシュ米政権が開始したアフガニスタンへの報復戦争とイラク侵略戦争は、同時テロをはるかに上回る多くの民間人の犠牲者を出し、テロとその脅威を世界中に拡散させました。いま、「戦争でテロはなくせない」ことが明確になっています。


悲しみを乗り越えて…

再建へ工事が

写真

(写真)フェンス越しに「グラウンド・ゼロ」を見つめる人々(鎌塚由美撮影)

 米同時多発テロ(全体の犠牲者は約三千人)の現場の一つとなったワールド・トレード・センター(WTC)。現場では今、再建計画が固まり建設工事が四カ所で進行中です。フェンスに囲まれた「グラウンド・ゼロ」(WTC跡地)から、ドリルの音が絶え間なく響いてきます。大きな星条旗が向かいのビルに張られ、十一日の追悼式典の準備が進められていました。

 道路を挟んで現場と向き合うWTCトリビュート・ビジター・センターでは、行方不明者を探す張り紙や被害者の生前の姿が展示されていました。展示を見ていた女性が「ダイアンの写真があるわよ」と夫を呼びました。「彼女は私の養女でした。六年目にしてやっと、来られるようになったのです」という女性はフロリダからの訪問だと話しました。

 日本人遺族の姿もありました。住山一貞さん(70)=東京都=は、息子の陽一さん(当時三十四歳)を南棟で亡くしました。日本からの千羽鶴を届け、著作の歌集「グラウンド・ゼロの歌」に「戦争もテロも無い世界を」の言葉を添えてサイン会を行っていました。犠牲になったのは米国人だけでなく、世界九十一カ国の人々でした。

 ニューヨーク市民のグレッグ・パーカーさん(43)は、「亡くなった人はみな私の家族だと思う。六年たっても、テロリストたちへの怒りが収まらない。彼らは殺人者だ。テロリストは一掃しなくてはならない」と話しました。

大義なき戦争

 事件直後、ブッシュ大統領の対テロ戦争を支持した米国民は九割に上りました。しかし、イラク戦争の行き詰まりとともに、対テロ戦争への支持は急落。すでに不支持(48%)が支持(44%)を上回っています(八月、CBSニュース調査)。

 ロサンゼルスからのエリック・マックリンデンさん(35)は、「私は愛国者だ。軍を支持するが、大統領のいう戦争の大義は支持しない」と語り、「十分な説明もなく戦争が始まったが、いまだにビンラディンは捕まらない。一体どうなっているのか」と疑問を呈しました。

 報復戦争に反対してきた米国人犠牲者家族の「平和な明日をめざす9・11家族の会」は六周年にあたり声明を発表。「9・11事件がイラクやアフガニスタンでの幾万の人々の大虐殺に利用された」と指摘し、戦争の停止を改めて訴えています。

 「グラウンド・ゼロ」周辺を歩くツアー(同センター主催)でガイドをするゲリー・ボガッズさん(48)は、飛行機突入の衝撃を北棟の職場で体験し「すぐに始まった避難で助かった」一人です。「私たちは、人々の間の溝に橋を懸ける努力を続けなくてはならない。それでこそ、テロの犯罪者に立ち向かえるのだと思います」(ニューヨーク=鎌塚由美)


犠牲拡大した米軍作戦

アフガンでは

 ブッシュ政権は二〇〇一年十月にアフガニスタンに対し報復戦争を開始。さらに〇三年三月、フセイン政権が「大量破壊兵器を隠している」「アルカイダとのつながりがある」としてイラク侵略戦争を始めました。この口実がでたらめだったことが明らかになった後でも、「対テロ戦争」を続けています。

 アフガンでは攻撃開始から〇二年はじめの三カ月間だけで米軍の空爆によって民間人四千人前後が死亡しました。同国では今タリバンが復活し、米軍や北大西洋条約機構(NATO)軍への自爆攻撃だけでなく、民間人を標的にした自爆テロや外国人の誘拐事件も引き起こしています。〇五年以降、自爆テロが一般化。国連が九日発表した報告書によると、昨年は百二十件。今年は八月末までで百三件へと急増しています。

 一方、米軍の空爆などで民間人の死者も激増しています。国連によると、爆破や砲撃戦などを含む「治安事件」は、今年は月に六百件で、前年より二割増加しました。今年の死者は二千五百人から三千人に上り、その四分の一が民間人です(インターナショナル・ヘラルド・トリビューン紙三日付)。

 国連の潘基文事務総長は、米軍やNATO軍の空爆で民間人の死傷者が相次いでいることについて、「事故であったとしても、敵を強化し、われわれの努力を損なう」とのべ、民間人殺害を厳しく批判しています(七月のローマでの国際会議)。

イラクの現状

 ブッシュ政権は国内外の撤退を求める世論に挑戦する形でイラクへの米軍増強をはかりました。米軍は、首都バグダッドを中心に武装勢力「掃討作戦」を続けています。六日未明には、バグダッド西部のマンスール地区を空爆し十四人が死亡しました。ロイター通信のカメラマンが見たのは、がれきから死体を引き出す住民の姿でした。多くの住民が涼を取るために屋根の上で寝ているところを空から襲ったといいます。

 イラクでの民間死者数は、イラク保健省が昨年十一月に発表した推定でも、十万人から十五万人に上ります。英医学誌『ランセット』(〇六年九月)は、六十五万五千人と見積もっています。

 米軍の死者は現在三千七百四十人を超え、米軍以外の有志連合国軍でも約三百人が死亡しています。

 イラクの難民・避難民も増加の一途をたどり、外国に逃れた人々は二百万人、故郷を離れた国内避難民は二百二十万人以上といわれます。国際移住機構(IOM)によると、イラク十八州のうち十一州が他の州の住民の受け入れを厳しくし、これらの避難民が「行き場を失っている」実態が明らかになっています。

 国民生活の苦難も深刻です。国際援助組織「オックスファム」の報告書(七月三十日)は、国民の15%が十分な食べ物を買えない、70%がきれいな飲料水を供給されていない、子どもの28%が栄養不良、92%が学業に困難と指摘しました。

 米軍のイラクでの軍事作戦は占領に反対する武装勢力の攻撃とともに、「イラクのアルカイダ」のテロも増やしました。米シンクタンク「ブルッキングス研究所」の調べによると、武装勢力などによる一日当たりの攻撃は、〇三年六月の八件から、〇七年五月には百六十三件に激増しています。(小林俊哉)

グラフ

国際政治の様相が一変

精彩欠く保守

 「アメリカは左旋回しているのではないか」。英誌『エコノミスト』(八月十一日号)は、こうした見出しのカバーストーリーを掲載。来年の大統領選挙を前にして、ブッシュ大統領の与党共和党が精彩を欠き、基盤の保守勢力が意気消沈していると伝えました。

 「より多くの米国民が力による平和を信頼しなくなっている。国民皆保険制度を望み、緑の環境や社会への寛容な態度を好むようになっている」

 同記事は、こう指摘しながら、数十年続いた米国の「保守革命」=小さな政府と軍事力に基づく強い外交を求める運動=の行き過ぎに米国民が気づき、見直す時代に入ったとのべています。

 なぜこんなことになったのか。原因は、イラク戦争の破たんです。

 六年前の9・11直後、世界から集まった同情と支持を背景に、ブッシュ大統領は報復戦争を宣言。アフガニスタンを攻略し、イラクに侵攻しました。米軍は二十日間でバグダッドを制圧、ハイテク兵器を駆使した戦争は、米国の思いのままの様相をみせました。実際、ブッシュ政権は「中東全体を民主化する」と豪語し、政権内からは「世界を米国流に変革する」「永遠の米国覇権も夢ではない」といった声が聞こえてきました。

 間もなくイラクの事態は泥沼化し、戦争は破たんが明白になりました。米軍犠牲者の増大とともに政権への批判が拡大。昨年の中間選挙で与党の共和党が大敗しました。戦争を主導したウルフォウィッツ国防副長官やラムズフェルド国防長官らネオコンとよばれた超右翼勢力が相次いで政権を追われました。

 イラク戦争に協力していた有志連合諸国が次々と撤退。派兵国は最大時の三十九カ国から十七カが撤退し、二十二カ国になりました。最大の盟友だったブレア英首相が世論の圧力を受けて退陣し、ブッシュ政権の孤立を際立たせました。

揺らぐ米主導

 クリントン政権の大統領補佐官を務めたサムエル・バーガー氏が国際英字紙インターナショナル・ヘラルド・トリビューン六日付で、米国がイラク戦争の泥沼に足を取られている間に、アジアやラテンアメリカ、アフリカで米国にかわって中国やロシアの影響力が拡大していると指摘、「米国は世界的なリーダーシップを失いつつある」と“警告”しています。

 たしかにイラク戦争は国際政治の様相を一変させつつあります。ブッシュ政権は世界的な米軍再編を通じて軍事優位を引き続き追求しながら、一方では軍事一本やりのやり方を修正し、外交による問題解決を模索し始めました。その典型は北朝鮮の核問題をめぐる六カ国協議でした。

 北朝鮮が核実験を強行した直後の昨年末、米国はそれまで拒んできた北朝鮮との二国間協議に踏み切り、国交正常化にむけた交渉を急進展させました。それによって非核化をめざす協議が大きく動きだしました。

 世界各地では、米国の一国支配にかわって、自主的な平和の共同体の動きが発展しています。東南アジア諸国連合(ASEAN)や上海協力機構(SCO)、南米諸国共同体、アフリカ連合(AU)などです。これらの共同体はこの数年、相互に連携を取りながら発展し、国際政治を動かす主要潮流になりつつあります。(田中靖宏)

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軍事対応批判する世論

直後の書簡で

 米国のアフガニスタンへの報復戦争への動きが急速に進んでいた二〇〇一年九月十七日、日本共産党は当時の不破哲三議長、志位和夫委員長連名の書簡を発表し、各国に送付しました。

 書簡は、テロを「絶対に許されない卑劣な犯罪行為」と批判し、国連憲章と国際法に基づく厳正な処罰を求めると同時に、軍事力での報復については「テロ根絶に有効でないばかりか、地球上に新たな戦争とそれによる巨大な惨害をもたらす結果になり、さらにいっそうのテロ行為と武力報復の悪循環をもたらし、無数の新たな犠牲者を生み、事態を泥沼に導く危険がある」と警鐘を鳴らしました。

相次いだ懸念

 軍事力によるテロ対応への懸念は欧州や中東からも相次いでいました。

 英国の有力シンクタンク、国際戦略研究所(IISS)は〇二年五月、年次報告「戦略概観」を発表。その中で、軍事行動について「テロの根本原因に対処できない」とのべ、「はるかに深い目標を実現していくためには政治学の外交的適用が必要である」と指摘しました。とりわけ、平和維持、国家再建、経済開発などを挙げ、「対テロ、不拡散での勝利を確保するために不可欠である」と強調しました。

 アラブ二十一カ国とパレスチナ解放機構(PLO)が加盟するアラブ連盟のムーサ事務局長は〇二年九月、イラクを攻撃すれば「(米国への)怒りと不満に満ちた中東地域において、地獄の門を開く」と警告しました。

 イラク攻撃開始前の〇三年二月十五日には世界同時反戦行動が行われ、約六百都市で一千万人以上が反戦デモに参加。圧倒的な反戦世論を前に、米国のアフガン戦争を追認した欧州同盟国のうち、ドイツ、フランスなどの有力国が最後までイラク戦争に反対しました。

拡大したテロ

 アフガンとイラクに対する軍事攻撃は世界の人々の懸念を現実のものとしました。

 〇四年にはスペイン・マドリードで列車爆破テロが、〇五年には英・ロンドンで同時爆破テロが発生。エジプトのシナイ半島では〇五年と〇六年に爆弾テロが起き、多数の犠牲者がでました。

 IISSは昨年九月、二〇〇六年版戦略概観でブッシュ政権の「対テロ戦争」を改めて振り返り、「米国は対テロ戦争なるものを主に軍事的手段で追求し、過激主義の炎を拡大した」と指摘しました。

 イラク戦争に一貫して反対したシラク仏大統領(当時)は今年一月「(戦争は)テロに新たな拡張の場を与えた」とのべました。(ロンドン=岡崎衆史)


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