2007年9月6日(木)「しんぶん赤旗」

労災再審 未決1000件超

担当者少なく長期化

OBに“丸投げ”も


 労働災害と認められなかった労働者の不服申し立てを審理する国の「労働保険審査会」で、処理されないまま繰り越しされている申請が年間で千件に達し、その処理を急ぐためにOB職員に業務を「丸投げ」までしていることが分かりました。労組・市民団体でつくる「働くもののいのちと健康を守る全国センター」の情報開示によって明らかになったものです。


グラフ

 労働強化やストレスの増大に伴い、再審査請求は、二〇〇一年度は三百六十九件だったのが〇六年度は五百十件と一・四倍に急増しています。

 ところが、審査会で再審査を行う委員はこの十一年間、九人(うち非常勤三人)のままです。

 このため労働保険審査会では年度内に処理できず、次年度に繰り越す案件が〇二年度以降毎年千件を上回っています。

 不服申し立てから裁決までの期間が長期化し、六年がかりの案件が一件、五年が五件もあります。〇五年に裁決が出た兵庫県の元保育士の自殺事案では、八年三カ月もかかった末に「不認定」とされました。

 裁決が出るまで時間がかかりすぎ、被災者や遺族の早期救済を妨げています。

 こうしたなかで、膨大な繰り越し案件の処理を急ぐため、元審査官などOB職員に審査にかかわる業務を委嘱するケースが増えています。

 労災認否の判断資料のもとになる資料の分析や問題点の整理、判例や裁決例の収集、裁決書の素案づくりがその業務です。事実上、委員の判断を決める内容です。

 〇五年度ではOB二十五人に三百四十三件を委嘱し、審理した案件の七割近くになります。〇四年度は二百四件です。

 同審査会は、OBに委嘱している理由について「あまりにも裁決が遅延し、事務室職員だけでは処理できないため」としています。しかし、OBに委嘱しても委員が少なすぎるため、増加する請求件数に追いつかず、繰り越し案件が千件を下回ることはなく、高止まりの状態が続いています。

7年待った/審理30分

労災再審 認定率4%

図

 労災認定の不服申し立てに対する裁決を急ぐあまり、公開審理は三十分に制限され、まともな審理が行われない状況になっています。

 〇六年度に裁決された三百四十六件のうち三百二十九件が棄却・却下され、認定されたのは十七件にすぎません。認定率はわずか4%台です。

 生コンの運転手だった夫を過労による脳出血で亡くした山梨県甲府市の女性(70)も、裁決が出るまで長く待たされた一人です。

 〇二年四月に労働保険審査会に再審査請求し、「不認定」の裁決が出たのは〇六年八月。裁決が出るまで四年余もかかり、労働基準監督署への労災申請から通算すると七年が経過しています。

 女性は納得できず、裁決から四カ月後に国を相手取り行政訴訟を起こしています。

 「夫に突然死なれ、途方にくれました。長く待たされたあげく、結果は不認定です。生活の糧を失った遺族の苦しい生活を考慮して、もっと早く裁決を出してほしかった」と訴えています。

 働くもののいのちと健康を守る全国センターの保坂忠史理事は「OBに丸投げする異常事態をもたらしているのは、審査を行う委員が九人と少ない上に、過労による自殺や精神疾患の労災申請が激増していることが背景にあります。しかも、多くが厳しい認定基準で振るい落とされ、再審査請求が増え続けているのです」と指摘します。

 「現行の労働保険審査会は、被災者や遺族が労災を請求し、救済される権利を奪っているといっても過言ではありません。簡易迅速な救済という本来の不服審査制度の機能を失っています。委員の増員はもちろん、根本的な制度の見直しが求められています」

 同センターでは▽早急に裁決する体制に改善する▽一年以内に裁決する原則を明確にする▽運営を民主化する―など労働保険審査会の改善を求めています。


 不服審査請求制度 労災保険の行政不服審査請求制度は、“二審制”がとられています。労災が労基署で認められないときは、都道府県労働局におかれている労働者災害補償保険審査官に審査請求ができます。この決定にも不服がある場合は、厚労省内にある労働保険審査会に再審査請求できます。


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