2007年8月29日(水)「しんぶん赤旗」
酷暑が世界陸上直撃
大会記録は低調
途中棄権相次ぐ
トップアスリートが集う陸上の世界選手権大阪大会(長居陸上競技場)で、連日三五度前後の猛烈な暑さが、選手たちを悩ませています。
「力を出せなかった。悔いが残る」
女子走り幅跳びで予選落ちした池田久美子選手は、涙ながらに声を絞り出しました。同選手は、その理由として、プレッシャーや疲労、そしてこの酷暑をあげました。
「暑さで体がだるく、頭がボーッとした」
女子走り幅跳びのあった大会三日目(二十七日)は、競技開始の午前十時で、すでに三三度。直射日光にさらされる競技場内はさらに暑い。
競技場50度
「トラックに置いた温度計が五〇度を超え、壊れてしまいました!」
この日、大会を放送するテレビ局の女性アナウンサーは叫びました。
競技場は、あちこちでかげろうが揺れ、日差しにあたると、頭が痛くなるほどの強烈さです。湿度も高く、体に感じる暑さの逃げ場がなく、天然サウナ状態です。
「熱中症予防のため、水分を十分にとってください」。スタジアムでは観客にたいしても、こうしたアナウンスを繰り返しています。
選手も競技中は、白いタオルで頭を隠し、防御策を取っていますが、焼け石に水といった感は否めません。
女子走り幅跳びとほぼ同じ時刻だった男子走り高跳び予選でも、日本の選手が暑さにやられました。メダル候補ともいわれた醍醐直幸選手は、両方のふくらはぎをつるアクシデント。最後は、踏み切りすらできませんでした。
「水分補給をして対策を取ったつもりだったのに」と唇をかみました。
日本選手だけではありません。外国人選手、チーム関係者、審判も含め、大会前の二十日以降、暑さで健康を害し、組織委員会の医務室に運び込まれた数は全体で約四十件に上ります。
これらを反映してか、大会の記録も低調です。三日目まで世界記録はゼロで、大会記録もわずか一。そもそも、この暑さを懸念し、大会出場を回避した選手も多く、実際の競技でも、優勝候補といわれた外国選手が途中棄権するケースも多くありました。
中止の質問
最も問題なのは、マラソンや競歩などの過酷な種目です。
大会前、国際陸上競技連盟(IAAF)の複数の理事からも、大会直前に、この猛暑を懸念する意見が出されました。
「とくにマラソン、競歩の選手に与える影響が心配。スタート時間をもっと早くできないか」。組織委員会に異例の注文が出されました。
実際、二十五日の男子マラソンでは出場八十五選手のうち、実に三分の一の二十八選手が途中棄権しました。気温三〇度、湿度七〇%を超える高温多湿の暑さが選手たちの最高の力を発揮する妨げになっていました。同時にこれは、生命の危険さえ招きかねない状況でもあります。
男子マラソンの翌日の二十六日、記者からもマラソンを「中止するとかのルールや制限はないのか」との質問が飛びました。
今年の暑さは予想以上ではあっても、この時期の大阪の気温や湿度がマラソンなどにとって、適切な条件にあるのかもっと検討されるべきではなかったか。日本陸連は以前から、「スタート時二六度。三〇度を超えることも考えられる」としていました。
安全確保へ
競技者の安全を確保することは、大会を運営・主催する側に求められる第一の責任です。今後は、そうした観点から、しっかりした基準をつくるとともに、それに合わない場合は、涼しい地域での分散開催なども含めて、考えるべきではないでしょうか。
大会終盤に向け、女子20キロと男子50キロの競歩、そして最終日には、女子マラソンが予定されています。残りの期間、それぞれの競技で、選手の力が最大限発揮されることを願わずにはいられません。
同時に、選手の健康・安全最優先の運営を考える上で、大阪大会の教訓は今後に生かされるべきでしょう。
(和泉民郎)