2007年8月23日(木)「しんぶん赤旗」

どこまできた 「消えた年金」対策

相談電話 450万件超す


 「消えた年金」問題で社会保険庁の年金相談に寄せられた電話件数は六月以降四百五十万件以上にも達しています。八月に入っても一日平均約一万八千件という例年にない件数で、国民の怒りと不信が続いていることを示しています。政府が打ち出した年金対策はどこまで実行されてきたのでしょうか。(宮沢毅)


1億人レター作戦

段階策にこだわる政府

 五千万件にものぼる年金記録が持ち主不明のまま放置されていた「宙に浮いた年金記録」問題。

 年金記録を統合するため、安倍首相は、加入者七千万人・受給者三千万人の一億人に「ねんきん特別便」を送り、年金加入履歴を通知することを発表しました(七月五日)。これは日本共産党が、「ただちに一億人へのレター作戦を」と政府に強く要求し、実現したものでした。

 しかし、問題は実施の時期です。安倍首相は「ただちにおこなう」立場ではありません。政府の対策は、(1)まず五千万件の「名寄せ」をおこない、「年金記録が結びつくと思われる人」に今年十二月―来年三月までに年金加入記録を送付(2)それ以外のすべての人には来年四月―十月にかけて年金加入記録を送付―という段階策です。

 年金納付記録をただちに送ることは、社保庁のコンピューターにあるデータそのものを使えばいいことですから技術的に十分可能です。もし間違いのある記録が届けば、本人が社保庁に問い合わせ、訂正を求めることができるので、「名寄せ」も促進できるメリットがあります。

 「一億人レター作戦」は段階策をとるのでなく、早期実施こそが求められます。

政府の「ねんきん特別便」の送付計画

(1)「5000万件」の名寄せの結果、記録が結びつくと思われる人への送付
 年金受給者・加入者…2007年12月〜08年3月に実施
(2)その他のすべての人への送付
 年金受給者…2008年4月〜5月に実施
 年金加入者…2008年6月〜10月に実施

物証なくても支給

審査進まず 認定38件

 年金保険料を払ったのに、社保庁にも記録がなく、領収書もないため未納扱いされている―。この「消えた年金」問題の解決のため、政府は、総務省の下に「年金記録確認第三者委員会」(弁護士などで構成)の中央委員会と地方委員会(五十カ所)を設置しました。

 同委員会は、記録や領収書などがなくても、「社会通念に照らして『明らかに不合理ではなく、一応確からしいこと』」を判断基準に審査することを基本方針にしています。「物証がなくても本人の申し立てを尊重すること」を求めた日本共産党の提言や、国民世論を反映したものです。

 中央委では、社保庁に「保険料を払ったのに記録がない」という申し立てがあった約二百六十件のうち三十二件について納付事実を認めました。

 「三十年以上国民年金保険料を払ってきたが、途中一年だけ未納。しかし、その時期は、自治会の役員が集金にきていて間違いなく払っていた」というケースについても、当時の自治会役員から証言が得られたことなどから「納付があった」と認定しました。一方、地方委には計六千四百件余の申し立てがありましたが、「納付があった」と認めたのは六件にとどまっています。

 昨年、社保庁が特別相談体制をとったとき、「消えた年金」について二万件以上の相談がありました。現在の六千四百件余という申し立て件数自体が少なすぎます。このため、「申し立てを待っているだけでいいのか」という指摘もあります。

 審査がなかなか進まないのも、物証のない確認作業は、証言探しなど多くの手間とノウハウが必要とされるためです。この作業をおこなう所管省庁が、年金業務に手慣れていない総務省で十分対応できるのか、地方委の人員配置など万全の審査体制がとられているのか、などの検討が求められています。

5年の時効撤廃

支給決定 まだ866人

 仮に「宙に浮いた」記録がみつかっても五年の時効によって年金支給額が増額されない人などに対応するためにつくられた年金時効特例法によって、八百六十六人にたいし総額八億円余の支給が決定されています。これは受付件数、約九千七百件の十分の一以下の水準。社保庁は時効撤廃により、約二十五万人に約九百五十億円を支給する見通しをたてましたが、これと比べてもスローペースです。

 これまで支給決定された最高齢は九十二歳、平均年齢も七十六歳になるなど、多くが高齢者です。申請にくるのを待つのでなく、政府の側がすすんで情報提供をするなどの対応が急がれます。

社保庁分割・民営化は中止・見直しを

 政府は、社保庁の分割・民営化法が成立したことを受け準備をすすめていますが、これは最悪の「国の責任逃れ」です。「消えた年金」問題の解決には、年金記録の台帳をふくめて照合作業に何年もかかる作業が必要とされているのに、二年半後の二〇一〇年に社保庁がなくなってしまえば、国としての責任がとれなくなってしまいます。

 一方、歴代厚生相・厚労相などの責任も含め年金問題の原因を究明する、と鳴り物入りでスタートした「年金記録問題検証委員会」(座長・松尾邦弘前検事総長)は、参院選直前の七月十日、「社保庁の親方・日の丸的な体質」ばかりに責任をおしつける「中間報告」を発表。厚労相などの責任問題の検討は、先送りされています。

写真

(写真)受給者に届けられる「ねんきん特別便」の見本



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