2007年8月10日(金)「しんぶん赤旗」
諫早湾閉め切り10年 第3部
取り戻せ 宝の海(8)
開門で示された展望
二〇〇二年四月二十四日、諫早湾の潮受け堤防排水門付近に報道関係者がどっと詰めかけました。五月二十日までの予定で短期開門調査が始まりました。堤防内側の調整池へ排水門を開けて海水を出し入れする調査です。淡水化した調整池へ海水を導入するのは初めてのことでした。
短期でも
開門調査は、ノリ養殖の歴史的大凶作(二〇〇〇年度)の原因究明のため、農水省が設置した第三者委員会の提言によるものです。
同委員会は、原因を明らかにするためには、最初は二カ月程度の短期開門調査と、その後半年程度、さらに数年程度の中・長期の開門調査の必要性を強く要請しました。
農水省は、短期開門調査を実施したものの、その後の開門調査を「被害が出る」と拒否したままです。
農水省は、短期開門調査を一カ月にも満たない期間に短縮し、海水の導入量も小さくし、水位の変動幅を二十センチ以内に限りました。
「こんな不十分な調査で何がわかるのか」。研究者もマスコミも冷ややかでした。
ところが、短期開門調査の膨大なデータ集を調べていた佐々木克之さん(元中央水産研究所室長)が重要なことに気づきました。調整池の水質が海水の塩分の作用で劇的に改善されていたのです。佐々木さんは「事前に予想していたわけではないが、データをみてやはり、と思った」と当時を振り返ります。
南部排水門付近の調整池では、水中の浮遊物量(濁度=SS)は海水導入前、一リットル中五〇ミリグラムだったのに対し、海水導入量が多くなるにしたがい一〇―二〇ミリグラムまで減少しました。同時に富栄養化の原因物質である窒素やリンの濃度も大幅に減っていました。
佐々木さんは「海水の導入で浮遊物が凝集し、それに窒素やリンもくっついて沈殿したため、水質が改善された」と説明しています。
必ず改善
日本海洋学会編著の『有明海生態系の再生をめざして』によると、再生調整池の水質が改善されれば、諫早湾内の水質や底質環境も自然と改善され、潮流の改善とあいまって、貧酸素の発生も減少します。諫早湾口のタイラギや島原半島のクルマエビやノリ養殖など、干拓工事で被害を受けた可能性が高い漁業復活の展望も開けます。
有明海の海洋環境を悪化させた根本原因は、潮流の衰えです。水門を開放したらどの程度潮流が回復するのか?
宇野木早苗さん(東海大学元教授)は、南北両水門を開ければ、閉め切り前の60%の潮流が回復すると推定値を示しています。南北両水門と同じ幅二百五十メートルを開門した場合の数値計算によれば、諫早湾中央部で潮流が70%戻ると推定しています。
潮流が改善されることは間違いのないことです。 (つづく)

