2007年8月1日(水)「しんぶん赤旗」
“娘は命をもって警鐘”
埼玉・プール事故1年 両親訴え
夏休みの子どもたちが歓声をあげているはずのプールサイド。立ち入り禁止のテープが張られています。埼玉県ふじみ野市のプールで、小学二年生の戸丸瑛梨香ちゃん=当時(7っ)=が、流水プール側面の吸水口に吸い込まれて死亡した事故から七月三十一日で一年がたちました。遺族側は十三日、起訴猶予となったプール管理委託業者側の責任を軽視することはできないと、さいたま検察審査会に審査を申し立てるなど、痛ましい事故の傷はまだ癒えていません。
「『あの日』を境に一転した」「今でも瑛梨香のことを思い出し、必死に涙をこらえる毎日です。プール用品が(店頭に)並びだすと、不安でいっぱいになりました」。父勝博さん(46)と母裕子さん(39)は三十日、コメントを出し、悲しい心境をこう語りました。
両親は「今回の事故を教訓にして、どこよりも安全・安心なプールを管理・運営することこそが、瑛梨香の命を奪ったことに対して『責任をとる』ということではないかと思う」「瑛梨香は子どもたちの笑顔が奪われないように命をもって警鐘を鳴らした。そのことを忘れないで」と訴えます。
ふじみ野市は、十分な監督体制もないまま管理を民間に委託、委託費用は年々削減されました。委託業者が市当局に無断で別の業者に管理を丸投げするもとで死亡事故は発生しました。
同市の事故調査委員会(委員長=富田均弁護士)は昨年十月、吸水口を二重構造にしていなかったプール構造の問題や施設の安全管理、緊急時対応の不備などをあげて、死亡事故が「『ずさんの連鎖』によりもたらされた」とする調査報告書を公表。委託業者について「業務を誠実に遂行する意思と能力を欠いた」と指摘、市の監督の怠慢も批判しました。
ところが、さいたま地検はことし六月、業務上過失致死罪で、同市教育委員会の元体育課長(60)ら二人を在宅起訴にしたものの、市から管理を委託された「太陽管財」(さいたま市)などの業者側は起訴猶予処分にしました。
事故の教訓は何だったのか。あらためて問われています。
事故後、文部科学省などが実施した全国の学校プール、公営プールの緊急自主点検の結果、二千三百カ所で対策の不備が明らかになりました。
一九八〇年代から繰り返されてきたプールの吸・排水口での事故の問題では、日本共産党の故山原健二郎衆院議員(当時)が一九九五年十二月の衆院文教委員会でとりあげ、通知を出すだけでなく実際に安全対策がとられているかどうかを全国調査し、対策を徹底すべきだと文部省(当時)に要求していました。同省は年末に調査を実施して対策を通知しました。ところが、安全確保のための実効ある対策は自治体や業者まかせで、国の責任が十分に果たされてきませんでした。
政府が、この事故を受けて出した「関係省庁連絡会議」の緊急アピールも、安全確保を自治体などのプール管理者の「自己責任」の問題とのべ、国が責任を果たすという姿勢をとっていませんでした。国が公表した「プールの安全標準指針案」(昨年十二月)も、プール管理者にたいする「技術的助言」に過ぎず、安全対策が義務化されていません。
繰り返されるプール事故からくみ取る教訓の一つは、不測の事故が起こる可能性がある「流水プール」などを、遊園地のジェットコースターや観覧車などと同様、建築基準法で構造基準を定めて、安全確保対策を義務化することです。(宇野龍彦)

