2007年7月23日(月)「しんぶん赤旗」

集団的自衛権「懇談会」

9月にも行使容認提言

首相に「憲法解釈の自由」


 歴代政府が憲法違反と判断してきた集団的自衛権の行使を検討する「安全保障の法的基盤の再構築に関する懇談会」(座長・柳井俊二前駐米大使)は、六月二十九日の第三回会合で前半が終了しました。公表された議事録や関係者の話から、首相に「憲法解釈の自由」を与える狙いが浮き彫りになってきました。(竹下 岳)


 懇談会は安倍晋三首相が示した集団的自衛権の行使に関する四類型のうち、(1)公海で併走中の米艦船が攻撃を受けた場合の自衛艦の応戦(2)米国に向けて発射された弾道ミサイルの迎撃―の検討を終え、九月にも集団的自衛権の行使容認を提言する方針を固めています。

 自民党も参院選政策で「個別具体的な類型に即し、集団的自衛権の問題を含め、憲法との関係を整理し、安全保障の法的基盤の再構築を行う」と公約しています。

 懇談会関係者は、「もともと懇談会は現行憲法下における集団的自衛権の解釈変更を主題にしている」と述べ、「行使容認」を当然視しました。

 「米国に向かう弾道ミサイルを我が国が撃ち落とすことが可能なのに撃ち落とさないことは、我が国の安全保障の基盤である日米安保体制の根幹が揺らぐため絶対に避ける必要がある」(第三回会合議事録)という発言のように、論証抜きに集団的自衛権の行使を主張する出席者が少なくありません。

米戦略に沿い

 日本が集団的自衛権を行使しないという立場を取ってきたのは、これまではよかったが、「安全保障の環境が変わった今日では様々な問題点をもたらしている」(第二回会合、六月十一日)という意見も出ています。

 “米国の戦略が変わったから、それに従うために集団的自衛権の行使を容認すべきだ”という議論が、政治論ではなく法的な議論として行われているのです。

 前出の関係者は、政府解釈の整理などを担当する内閣法制局を「集団的自衛権の行使に反対する最後の抵抗勢力」と位置づけ、こう語ります。「内閣法制局は内閣のための法制局だが、実際は法制局が政策の枠組みをつくり、歴代内閣もそれに従ってきた」

 一九九〇年代以降、政府は米国の要求に沿って自衛隊の海外派兵を進めてきました。内閣法制局も武力行使と一体とならなければ海外派兵も「合憲」とする解釈を示してきました。しかし、集団的自衛権行使の容認までは踏み切ることができず、自衛隊の活動内容は制限されています。

 これを覆し、「米国と肩を並べて海外で武力行使する」(安倍首相)同盟を実現するため、内閣法制局を「抵抗勢力」とみなして攻撃することによって、首相の判断で自由に憲法解釈を変えられるようにしようとしているのです。

法治主義脅かす

 これについて浦田一郎・明治大学大学院教授(憲法学)はこう指摘します。「歴代政権がなぜ、集団的自衛権の行使に踏み切れなかったのかをまともに検証せず、『時代が変わったから』といって過去の蓄積をご破算にするのは、法的な安定性を脅かし、法治主義・立憲主義の根幹を揺るがす考え方です」

 次回の懇談会は参院選終了後の八月八日に開催されます。「安倍首相は今後も毎回、出席する意向」(政府関係者)で、憲法改悪につながる集団的自衛権の行使実現のため、政権維持に執念を燃やしています。

 しかし、集団的自衛権に関する政府解釈は「今のままでいい」と答える人が六割を超える(「東京」四月十四日付)など、国民の大多数は行使容認に反対しています。


 集団的自衛権 集団的自衛権について政府は、「自国と密接な関係にある外国に対する武力攻撃を、自国が直接攻撃されてないにも関わらず、実力で阻止する権利」(一九八一年の政府答弁書)との見解を示しています。集団的自衛権は軍事同盟の法的基盤ですが、政府は「日本はこの権利を保持しているが、行使することは憲法上許されていない」(前出の答弁書)という立場にたってきました。米国からは「同盟の障害になっている」(アーミテージ元国務副長官)などの不満が示されています。


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