2007年6月26日(火)「しんぶん赤旗」

米医療保険問題を告発

ムーア監督新作

「シッコ」を先行上映


 【ワシントン=山崎伸治】独自のユーモアで米国の政治や社会を辛辣(しんらつ)に批判するマイケル・ムーア監督による米国の医療保険の問題点を告発した新作ドキュメンタリー「シッコ」が二十九日の公開を前に、二十三日も全米の四十三劇場で先行上映されました。


 この映画をめぐっては公開前から話題に事欠きません。撮影でキューバへ無許可で渡航したとして、米財務省が調査に着手したため、没収を避けてマスターフィルムをカナダで保管。二十日には医療保険関係のロビイストを招待して連邦議会でも上映されました。日本では八月に公開が予定されています。

 題名の「シッコ」(Sicko)とは俗語で「倒錯した人」の意味。ムーア監督自身が、国民皆保険制度のあるカナダ、英国、フランス、キューバを訪ね、その実態と対比させながら、世界一の富を抱えているのに、大多数の国民には貧困な医療しか施せない「倒錯した」米国の現状を告発しています。

 米国では約四千七百万人が無保険状態にありますが、監督が取り上げるのはむしろ、保険に加入していても保険会社から医療費の支払いを拒否され、莫大(ばくだい)な負担を強いられた人たち、支払いができずに医療機関から追い出される人たちです。

 前作「華氏911」(二〇〇四年)でムーア監督が「対テロ戦争」にまい進するブッシュ政権に向けた批判の矢は、人命よりも会社の利益を優先する医療保険会社と製薬会社、そしてその献金にまみれた議員に向けられています。

 その一方で、銃社会米国の問題点を告発、〇三年にアカデミー長編ドキュメンタリー映画賞を受けた「ボウリング・フォー・コロンバイン」と同様、弱者に向けられるのは温かい視線です。国民皆保険制度が助け合いの精神で成り立っているという解明は、弱肉強食の米国社会への痛切な批判といえます。

 先行上映が行われたワシントン郊外のメリーランド州ベセスダの映画館には、夜七時からの一回だけの上映に、会場いっぱいの約二百人がつめかけ、当日券は売り切れました。関心の高さを裏付けています。

 ブッシュ大統領やチェイニー副大統領がスクリーンに登場すれば嘲笑(ちょうしょう)が起きるなど、観客の反応は上々。英国のトニー・ベン元下院議員が国民皆保険制度の根幹は「民主主義だ」と語るくだりでは、「その通り」という声とともに大きな拍手がわき起こりました。

 現在米下院には、国民皆保険制度を導入する法案が提出されています。議会での上映会には、提案者のコニヤーズ、クシニチ両下院議員(いずれも民主党)も出席。映画のヒットで同法案への支持が広がることも、ムーア監督が狙っていることかもしれません。



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