2007年6月8日(金)「しんぶん赤旗」

特待生問題

常態化する違反

教育現場へのゆがみも


 特待生問題が明るみに出て以降、電話やメール、取材などを通じて、高校球界の生々しい実態を耳にしました。

 四国で野球特待生だったという20代青年の話はこうでした。

 中学3年の冬、少年野球関係者の車で、ある高校のグラウンドに行き、高校監督の前で実技テストを受けたといいます。いわゆる「セレクション」です。その場で監督に入学の了承をもらい、後日、他競技の特待生と一緒に一般生とは異なる入試を受けました。テスト後すぐにユニホームの採寸。合格発表は形だけだったそうです。

 入学後は寮生活。フローリングのワンルームマンションで部屋もぴかぴかだったと振り返ります。選手たちには特待生が憲章違反だという意識はなく、憲章の存在すら教わったことはありませんでした。

 関西のある公立高校の野球部監督も、中学生のセレクションを目撃しました。高校野球部の監督、部長などが勢ぞろい。「やめたほうがいい」と忠告しましたが続けられたといいます。

 この監督は、授業料が免除される特待生だけではなく、スポーツが優秀な生徒を優先入学させるスポーツ推薦でも、教育現場にゆがみをもたらすと苦言を呈しています。

 学校によって違いはありますが、スポーツ推薦入試では野球に何人、サッカーに何人などと実績によって人数を振り分けるといいます。そこには教師間のせめぎ合いがあり、自らが推した選手が活躍しなければ、学校内での立場が悪くなる。そのため一般で入部した選手よりも、スポーツ推薦の選手を試合で使い続けたり、特別指導をしたりする現象が起きるといいます。

 関東の強豪校の元選手は、私立大学の野球部に進むために大学、高校の野球部監督にそれぞれ50万円を渡すのが相場だと言われました。その選手は「そんなばかな話があるか」と野球を続けなかったそうです。

 憲章違反が常態化し、違反という感覚さえまひしている関係者が多数いる現状には、驚きを覚えました。

 一方で、こんな電話もいただきました。北陸の私立高スポーツ寮で長年、働いているという女性は「選手たちは、とてもまじめに学業もやっているし、県外からくる選手も苦労しています。でも強くなりたい、甲子園に行きたいという強い思いがある」。

 大好きな野球を続けたい、もっとうまくなりたい―。球児たちの純粋な思いを生かし、胸を張ってプレーできる球界に生まれ変わることができるか―。おとなの責任が、いま問われています。(栗原千鶴)


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