2007年5月26日(土)「しんぶん赤旗」

沖縄・米軍新基地強行へ

安倍政権この異常


環境調査骨抜き アセス法違反手続き短縮

 沖縄県名護市の辺野古崎で、防衛省が、掃海母艦「ぶんご」(五、七〇〇トン)を出動させて強行した米海兵隊新基地建設のための「環境現況調査」。同調査をめぐる安倍政権あげての違法な“環境影響評価法(アセス)すり抜け作戦”を検証すると――。

 二〇〇六年十二月二十五日、首相官邸。四階大会議室で開かれた第二回普天間移設協議会。

 出席者は政府側から塩崎官房長官、久間防衛庁長官(当時、現防衛相)、麻生外相、若林環境相。沖縄県からは仲井真沖縄県知事、島袋名護市長など北部自治体の各首長。

 防衛庁の守屋事務次官は新基地建設に向けた環境影響評価法の説明を行い、こう結びました。「六月上旬のサンゴの産卵のピークの(略)、この時期に調査を開始できないと、次の産卵時期である再来年(〇八年)の六月まで遅れまして、結果として事業が一年遅れとなる」

 新基地建設が一年遅れる――。〇五年の在日米軍再編で新基地の完成を「二〇一四年まで」とアメリカに約束した日本政府にとって絶対に回避すべき事態です。〇七年早々のアセス手続きの実質着手が政府の意思として確認されたのです。

 「概略工程表」(別図参照)。防衛省が「移設協議会」に提出したスケジュールです。「環境影響評価手続」は〇七年一月にスタートさせ、〇九年七月中に終了。翌八月に「埋立申請手続」に入り、一〇年一月から埋立工事と飛行場施設の工事――。

 しかし“壁”がありました。沖縄県が「民家の上空を飛ばない」を条件にV字形滑走路の「位置」の沖合への修正を要求。「修正前のアセス手続きは受理できない」としているからです。

 アセス法は、大規模事業に義務付けられているもので、事業による環境への影響を事前に予測し、その評価方法書を公告・縦覧し、住民や自治体の意見を聞くなど公開・透明性、説明責任を求めています。

 通常、アセス法通りにやればアセス方法書で数カ月、その後の環境現況調査で約一年、環境への影響の予測結果、保全措置の検討などについて住民や自治体の意見を聞くために作成する準備書など全体で約三年が必要とされています。県は現在になってもアセス方法書を受理していません。

 沖縄県の返還問題対策課の関係者が明かします。「方法書を県が受理するタイムリミットは一月中旬だった」

 防衛省はこの時点で「アセス手続き開始は困難」と判断。そこで編み出したのが事前調査と称する「アセス法によらない独自の環境現況調査」です。明らかにアセス法違反の“短縮策”です。

 那覇防衛施設局の「入札関連資料」には事前調査の文字はなく、あるのは「環境現況調査」であり、アセス方法書などへの意見、概要書のとりまとめ、沖縄県知事からの「意見書に係る見解書のとりまとめ」など、どれも環境影響評価法にもとづく業務委託です。県が方法書を受理してから、環境現況調査に進むのではなく、同調査を先行させているのです。

 アセス法違反の事前調査が究極の県民だましなら、海上自衛隊の「軍艦」、潜水隊員投入は「究極の県民威圧と弾圧」です。「首相(調査の)加速を指示」(「毎日」十九日付)という強権的姿勢から見えてくるのは、憲法九条を排除、米軍とともに海外での武力行使を可能にする「恐ろしい国」の姿です。(山本眞直)

表

図

軍艦で住民威圧 法的根拠は総崩れ

 米軍新基地を建設するための調査に、政府・防衛省が、海上自衛隊の掃海母艦「ぶんご」を派遣したことに対し、沖縄では立場を超えた怒りが広がっています。この問題でいま政府が、法的根拠について説明不能に陥るという事態になっています。

現場要請もなし

 防衛省設置法は「自衛隊の行動及び権限等は、自衛隊法の定めるところによる」(第五条)と定めています。

 ところが日本共産党の赤嶺政賢衆院議員の追及に、防衛省の山崎信之郎運用企画局長は「(自衛隊法には掃海母艦派遣の)明示的な規定はない」と述べました(二十四日の衆院安全保障委員会)。もともと法的根拠がないことを認めたのです。

 軍事力を動かすのに、法的根拠も示せないというのは、法治国家にあってはならない事態です。

 苦し紛れに防衛省が持ち出したのが、国家行政組織法に基づく「官庁間協力」です。

 防衛省は「官庁間協力」の要件として、(1)事務の公共性(2)手段等の非代替性(3)緊急性―の三点を挙げています。

 しかし、米軍に新たな出撃拠点を差し出す基地建設に、「公共性」などあるはずがありません。

 では、「非代替性」や「緊急性」にもとづき、“自衛隊が出動しない限り、調査ができない”と現地が要請したのでしょうか。

 赤嶺氏が、調査を直接担う民間業者、現地の那覇防衛施設局の要請の有無をただしたのに対し、北原巌男防衛施設庁長官は「施設庁長官として、調査をしっかりやらなければならない。責任ある立場から(私が)要請した」と述べ、民間業者らからの要請がなかったことを認めました。

 軍艦を送り込んだ法的根拠は、総崩れになったのです。

米国のため「牙」

 なぜ政府は、ここまで異常な強行路線を突っ走るのでしょうか。

 安倍晋三首相は、ブッシュ大統領との首脳会談(四月二十七日)で、新基地建設を「着実に進める」と確約。その直後の日米の外交・軍事担当閣僚による会合(2プラス2)でも、在日米軍再編計画について「着実に実施する決意を再確認」(共同文書)しました。

 久間章生防衛相は、「ぶんご」を動員して調査を強行した十八日、自衛隊による警備行動(海上警備行動)について「海上の治安状況がよっぽど悪化した場合には法律上、できないことはない」と述べ、実力行使まで示唆しました。

 しかし赤嶺氏が、地元住民の抗議活動で犯罪行為が確認されたのかとただしたのに対し、海上保安庁の石橋幹夫警備救難部長は「違反行為に伴う逮捕者は出ていない」と答弁。浮かび上がるのは、「非暴力の抗議活動」(赤嶺氏)を、力で押しつぶそうとしたということです。

 県民から「『牙』むき海奪う行為だ」(沖縄タイムス社説、十九日付)と、厳しい抗議があがるのも当然です。

 法的根拠がなくても、非暴力の自国民に対し軍事力を差し向ける―。ブッシュ米政権への忠義を示すためには、自国民の生命と安全などおかまいなしの安倍政権の姿を浮き彫りにしています。(田中一郎)



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