2007年5月5日(土)「しんぶん赤旗」

マスメディア時評

安倍改憲の暴走に立ち向かう時


 施行から六十年の節目を迎えた憲法記念日にあたって安倍首相は、「戦後レジーム(体制)」を見直し、改憲に取り組むことを強調した談話を発表しました。憲法擁護義務を負う首相としてはまったく異例な、文字通り安倍改憲政治の暴走です。

戦後体制の見直し批判

 憲法記念日を中心にした新聞などマスメディアの論調も、ことしは国会での改憲手続き法の審議が重大段階を迎えていることとあわせ、こうした安倍改憲政治の危険に警鐘を鳴らすものが目立ちました。

 全国紙の社説で見れば、「朝日」二日付の「戦後からの脱却より発展を」や、「毎日」三日付の「平和主義を進化させよう」などが目につきます。ブロック紙など地方紙には憲法六十年をテーマに社説を連打する新聞も少なくありませんが、そうしたなかでも北海道新聞一日付の「(上)国家主義への回帰危ぶむ」や東京新聞二日付の「(中)統治の道具ではなく」、信濃毎日新聞三日付の「(上)論議を国民の手に戻せ」、中国新聞三日付の「(上)価値高める道筋探ろう」などがそうです。

 自民党内きっての「靖国」派である安倍首相の改憲論は、「戦後レジームからの脱却」ということばが示すように、侵略戦争を肯定し戦後政治の枠組みを全面的に否定するところから出発しているのが特徴です。「改憲を言うなら、まず『戦後』をきちんと語るのが先だろう」(「朝日」)、「(『戦後レジームの脱却』とは)危なっかしい言葉だ」「あまりに観念過剰」(「毎日」)という各新聞社説の懸念は当然でしょう。

 北海道新聞は前出の社説で、「首相の物言いは、民主主義国家として再出発した戦後日本の否定でもある」と批判します。東京新聞社説は、「安倍晋三首相らの改憲論には、憲法を統治の道具に変える発想があります」と警鐘を鳴らします。信濃毎日新聞は「今の政治は憲法の問題を任せるには危なっかし過ぎる」と書きます。「靖国」派が進める改憲の危険を指摘するこうした論調は、安倍改憲政治と立ち向かうことの重要性をいよいよ痛感させるものです。

改憲反対の世論を反映

 ことしの論調には、こうした安倍改憲政治への批判とともに、改憲そのものに批判的なものが目立ちます。

 なかでも、近年、憲法問題で揺らぎを見せていた「朝日」は三日付に「提言・日本の新戦略」と題して異例の二十一本の社説を載せ、そのなかで一年余の議論の結果として、「戦争放棄」の九条を持つ憲法は「変えない」という結論に達したことを明らかにしました。日米同盟を前提にし、準憲法的な「平和安全保障基本法」を設けて自衛隊を位置づけるという「朝日」の主張は解釈改憲とのかかわりで議論の余地がありますが、いずれにせよ九条を焦点にした改憲の策動が強まる中で、「朝日」がこの時期、こうした態度を打ち出したことの意味は決して小さくありません。

 地方紙では以前から改憲に批判的な論調がほとんどでしたが、ことしも前出の各紙や河北新報、徳島新聞、西日本新聞などの連続社説、沖縄の地方紙・沖縄タイムスの「平和の理念揺るがすな」(三日付)や琉球新報の「九条を手放していいのか」(同)といったように、憲法の意義を浮き彫りにし、改憲に反対する骨太の議論が健在です。数少ない改憲支持の地方紙でも、「あまり前のめりにならずに、冷静で現実的な協議を」(北国新聞)などと、慎重さを求めているのが特徴です。

 こうした背景には、「九条の会」が全国で六千を超えて広がるなど、改憲に反対する国民の世論と運動の広がりがあります。各メディアの世論調査でも、「読売」、共同通信、「日経」などの調査で、相次いで改憲支持が減り、九条を中心に憲法を守るという傾向が顕著に現れています。改憲支持の「日経」社説(三日付)も「憲法改正が具体的な政治日程に乗り始めたことの影響だろうか、慎重な意見がやや増えた」と書かざるを得ません。改憲反対の世論をさらに広げていけば、国民世論でもマスメディアの論調でも、改憲反対が多数派になるのは間違いないとの確信を深めさせます。

一部の論調改憲に固執

 国民世論の変化の中で、全国紙のなかで、あくまで改憲に固執する「読売」と「産経」の論調は、異常です。「読売」三日付社説は「歴史に刻まれる節目の年だ」と、改憲手続き法の成立を受けて設置される憲法審査会での検討を急げと督促します。「産経」同日付主張は「新しい国造りへ宿題果たせ」と、安倍首相の改憲政治を後押ししています。

 いったいこの二つの全国紙は憲法をどう考えているのか。国の基本法規である憲法を決めるのは主権者である国民です。「読売」は自らのおこなった調査で改憲支持が減り、半数を切ったことが明らかになった際にも社説で「『改正』へ小休止は許されない」(四月六日付)と書きました。主権者である国民が望んでいようがいまいが、改憲を進めるというのは、文字通り国民主権を踏みにじるものでしかありません。 (宮坂一男)



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