2007年4月30日(月)「しんぶん赤旗」

進行する 生活保護解体

高齢者を排除 民営化へ

土地担保に生活費借金


 自民・公明政府は、社会保障のなかで生活保護制度の「改革」のみが遅れているとして「改革」と称した解体策を急速に進めています。識者に問題点を聞きました。(四ケ所誠一郎)


 解体の手始めといえるのが四月にスタートした生活保護を必要とする六十五歳以上の高齢者を対象とした長期生活支援資金(リバースモーゲージ)制度です。

質的な転換に

 公的扶助研究者の桂木志保さんはこういいます。「リバースモーゲージはあっていい制度です。しかし、今回の制度は、生活保護のひきしめとセットになっているところに問題がある。生活保護の質的な転換につながりかねないもので、公的扶助・生活保護まで民営化しようという意図がみえる」

 支援資金を貸し付けるのは民間組織である都道府県社会福祉協議会(社協、窓口は市町村社協)です。これまで生活に困窮した場合、持ち家に住んでいても、その資産価値が高額な場合を除いて生活保護を受けることができました。

 ところが厚労省は、この制度を生活保護に優先させるとしています。このため六十五歳になると五百万円を超える土地(家屋は対象外)、マンションを持ち住んでいる場合、まず、これらを担保に社協から借金して生活費を工面することを迫られます。利用を拒否した場合、生活保護を認めないことまで考えています。

 現在、生活保護を受けていて同制度の対象になる世帯は、五千件程度あります。厚労省は二〇〇七年度中に、この世帯を新制度に切り替えるよう地方に求めています。

 これは、生活保護からの新たな排除です。高齢者を生活保護制度の枠外に置き民間組織である社協との貸借関係に移しかえる…。まさしく生活保護の一部民営化といえます。

制度上の問題

 さらに桂木さんは制度上の問題を指摘します。

 空白の二カ月…生活資金の借り入れの条件は、生活保護が必要との福祉事務所の認定です。これをうけ社協は、独自に資産鑑定をして貸し出しを決めます。この間、二カ月はかかるとみられています。生活困窮者は、きょうあすの生活に困って生活保護を申請しています。貸し付けが決まるまでどうやって生活せよというのでしょうか。

 「福祉」が骨抜き…社協が生活困窮者に貸し付けを始めると福祉事務所は、保護申請を却下、あるいは決定を取り消します。貸付期間中はケースワークもしません。憲法二五条にもとづく国民の生存権保障の実施機関である福祉事務所が、制度の可否判定や調整だけをする事務処理機関になりかねません。これはケースワーカーの削減をにらんだリストラです。

 貧困者への差別…制度は、土地などを担保にした民間における貸借関係です。利子も年3%つきます。本来、自分の土地をどう利用するかは個人の自由にまかされて当然です。ところが生活保護とセットにされたため制度利用を強制され、生活困窮者は土地や家屋をもってはならないとされます。民間の貸借関係に人権を損なう行政による介入が許されるのでしょうか。

 相続人の同意なしで…制度は、担保物件の売却清算を前提にした貸し付けです。担保となった土地などは相続できなくなります。このため厚労省は、福祉事務所に対し相続人の同意を得る努力を求めていますが、同意が得られない場合も「調整状況の記録」を社協に送付するとしており、利用可能としています。

 「社協の心配もこの点にあります。例えば、担保の土地が評価額より高く売れた場合、社協のもうけになり、相続人の訴えに耐えられるかというのです。さらに貸付期間後も本人が生存している場合、社協は土地やマンションを売却できません。不良債権を抱えているのと同じです。社協は早く売りたいと思うでしょう。そのために立ち退き、引っ越しを迫ることにならないか」と桂木さんは危ぐします。

家を奪われる

 住まいは、生存権の根本です。多くは、長い間ローンを払い手に入れた土地やマンションです。

 厚労省は、新制度について「住みなれた家に最後までいて最低限度の生活ができる」といいますが、実態はマイホームの取り上げにつながりかねないのです。

 桂木さんはいいます。

 「結局、性格の違うリバースモーゲージと生活保護とをセットにしたことからさまざまな問題を抱えこんでしまった。その背景には、生存権の国による保障である生活保護に自助や共助(助け合い)を持ち込み、公助を抑制したいという思惑があります」


生活支援資金 内実は借金

 生活支援資金というものの内実は、住んでいる土地・マンション(評価額五百万円以上)を担保に生活費を民間組織の都道府県社会福祉協議会から借り入れるというもの。対象は六十五歳以上、生活保護に優先し福祉事務所の生活保護の認定決定が条件。

 借り入れ上限額は、土地の場合、評価額の七割、マンションの場合、同五割です。その総額から、生活扶助の一・五倍となる額(年金などの収入をさしひく)を月々分割し借り受けます。年利3%。契約期間が終了したさい、福祉事務所が改めて生活保護の可否を判断します。借金は、本人が亡くなった後、社協が担保物件を売却して清算。

 国保料、住民税など各種保険料、税金、医療費は自己負担となります。

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