2007年4月15日(日)「しんぶん赤旗」

07年 政治考

自民関係者“改憲論議これでは下降線”

自公民合作戦略破たん


 「今日の採決は、全然イメージと違う……」

 衆院憲法調査特別委での改憲手続き法案(国民投票法案)強行採決後の十二日夜。抗議集会やデモの流れが消えて、国会議事堂周辺に静けさが戻り始めたなか、同法案に携わってきたある自民党関係者が悔しそうにつぶやきました。「『官邸』にかき回された」

 改憲手続き法案の委員会採決は、与党と民主党議員が互いに罵声(ばせい)を浴びせあい、中山太郎委員長の声がかき消される混乱の中で強行されました。

 同特別委員会では憲法調査会以来のメンバーである自民党の中山太郎委員長と船田元議員、民主党の枝野幸男議員らが「協力」して法案の作成、審議をすすめてきました。その先には「衆参各院の三分の二を超えるような『圧倒的多数』で法案を可決。そして『憲法審査会』での共同改憲案作成へ向け動き出す――」、そんな「理想図」が展望されていました。

 ところが、安倍晋三首相が年頭から「憲法改正を夏の参院選挙の争点に」と叫び、そのために「まずは国民投票法案の今国会成立を」と指示。ある民主党関係者は「年末に実務作業を進め、通常国会の冒頭、補正予算審議の中でさっと衆院を通してしまおうかという議論さえあったが、安倍首相の『争点化』発言で雰囲気が変わった」と打ち明けます。

 そしていきついた先が強行採決――。これまで改憲勢力が目指してきた「自公民合作での改憲」という戦略の破たんを示すものです。

 前出の自民党関係者はいいます。「目先のことばかりで高い政治的判断ができない政治家が多い。このままでは改憲論議は下降線に向かう『危険』がある」

前夜の自・民「調整」も頓挫

安倍流改憲 「戦友失う」

 十二日の衆院憲法調査特別委。詰め寄る野党議員に対し、興奮した中山太郎委員長はマイクに向かってこういいました。

 「(民主党の)枝野(幸男)議員は自民党と一緒に議論しながら今日までやってきた。昨日も深夜まで打ち合わせをされてますよ」

 中山氏の指摘したとおり、自民党の船田元氏は、自公民合作に「執念」を燃やし、最後まで枝野氏との間で調整に奔走しました。十日の理事懇談会で採決日程について協議が物別れに終わると、同日夜には「ほとんど民主党案丸のみ」という、「再修正」案を中川秀直幹事長に提案。民主党への「妥協」を求めましたが一蹴(いっしゅう)されます。

 翌十一日、採決日程についての再協議が物別れに終わると、今度は自民党の二階俊博国対委員長と民主党の枝野氏など自民・民主両党間を行き来して最後の「調整」を試みました。

 その中で民主党に対して提示した「再々再修正」案は、「有料CMの禁止」や「新聞無料広告枠の廃止」「公務員の政治活動禁止を『原則適用除外』に戻す」など、ぎりぎり民主党案への「譲歩」を示したものでした。そこまでして「与野党共同」での法案成立に「固執」して見せたのです。

 しかし、調整は不調。船田氏の「盟友」だった民主党の枝野氏は採決直前に特別委の理事を辞任しました。船田氏は採決強行後の会見で、「戦友を失った気がする。きわめて残念だ」とのべました。

「安倍カラー」

 自公民合作路線を破たんに追い込んだのは、自民党政治の行き詰まりと、「戦後レジームからの脱却」を掲げる安倍晋三首相の強硬な改憲主張です。

 下げ止まらない支持率、深刻化する格差と貧困の広がり――。それを反動的に打開しようと安倍内閣は、改憲タカ派の「安倍カラー」を出す方向に傾きます。改憲姿勢のおしだし、「従軍慰安婦」問題で「強制の事実はなかった」と歴史書き換え発言が相次ぎました。

国民の警戒感

 改憲手続き法案でも、自民党内では、「民主党が同調しないなら、民主案に譲る『修正』は必要ない」と「民主党との修正合意の見直し」の流れが強まりました。安倍首相に連なる右翼改憲団体・日本会議系議員らによる反動的「提案」も与党「修正」案に取り込まれました。公務員法上の政治活動禁止規定の「国民投票運動への適用除外の廃止」です。

 靖国派に通じる「歴史見直し」の流れに立つ安倍流改憲論は、国際的批判と国民の警戒感や不安を広げざるを得ません。コロンビア大学教授のジェラルド・カーティス氏は「民主主義国のリーダーが自分の国のレジーム・チェンジ(体制変革)を求める意味は理解しにくい」「安倍首相が捨てたがっている戦後レジームの何がそんなにひどいのか、ぜひ説明してほしい」と注文します(「東京」八日付)。国民世論も、改憲「賛成」派が減少し、九条改憲に「反対」する意見が多数になっています(「読売」六日付など)。

 与党は参院で一気呵成(かせい)に改憲手続き法案を押し通そうとしています。しかし、自民党内でも「十分な計算のない『安倍カラー』の強調は、決意のない危機感と焦りの表れ」(麻生派幹部)という声もあります。(中祖寅一)



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