2007年3月26日(月)「しんぶん赤旗」
ゆうPress
就職 売り手市場?
「氷河期」より「幸せ」だが…
来年四月から、新社会人になる学生たちの就職活動が、すでに本格化しています。団塊世代の大量退職の影響もあり、学生側の「売り手市場」といわれる就職戦線。どうなっているでしょうか。(伊藤悠希)
学生の多くは、三年生の秋から就職活動を開始しています。その入り口になっているのは、毎年開催されている大型の就職イベント。新卒者向けに情報を提供している毎日コミュニケーションズは、昨年十一月から来年三月卒業見込みの学生を対象に、全国主要都市で十六回、就職イベントを開きました。参加者総数は昨年の二十三万人を上回る見込みです。
「お客様」
二月九、十の両日、東京都で開かれたイベントには、約一千社の企業が参加し、首都圏からのべ五万人の学生が集まりました。面接対策や自己分析、就職活動マナーなどの講座はどれも満員。会場は熱気にあふれていました。
人事担当者が、大勢の学生を相手に説明する姿が多く見られる一方で、一対一で親身に相談にのっている会社も。学生のことを「お客様」と称する社員もいました。仕事のやりがいを自己実現と結びつけてアピールする企業、仕事内容よりも早く帰宅できることをアピールする会社など、各社のアピール内容が明確です。昨年十二月から活動を始めた茨城県の大学に通う女子学生は「先輩の話では、内定をたくさんもらう人とそうでない人の差が出てくるとか。内定をもらう人は、企業に質問する人なのかなぁ」。
Uターンのブースを見ていた東京の大学に通う男子学生は「一月から合同説明会に参加しています。今回で三回目。エントリーしてみようという企業が、だんだん見えてきました。『売り手市場』というのは、実感ないですね」と話していました。
質と量と
毎日コミュニケーションズの調べでは、〇八年卒の採用予定について、「増やす」企業が「減らす」企業を上回っています。合同企業説明会の参加企業も、東京会場では四百四十六社(〇七年卒)から五百五十六社(〇八年卒)に増えました。企業は、新卒採用に積極的な姿勢を見せています。
毎日コミュニケーションズの就職情報事業本部の栗田卓也企画推進課長は、「就職氷河期」(九〇年代前半)と比較すると、学生にとっては「幸せな時代」だといえるけれど、すべての学生が内定をもらえるわけではないといいます。「企業側は質をともなった量の確保を考えており、誰でもいいわけではありません。素質がある人材を求めています」
そして「大手企業を志望する学生が多く、人気企業の競争倍率は高い。四月以降、選考の合否がはっきりし始めてから慌てても、チャンスを逃すことがあります。初めから絞り込まず、幅広く活動してほしい」とアドバイスします。
相談役に
Uターンのブースで説明をしていた山形県内の大手スーパーの人事部副部長は「採用を考えている会社は増えているが、学生数は減っている。だから、学生が分散するのは免れない。各社の必死さを感じる」と話していました。
神奈川県内の中堅企業では、「来てほしい人材が大手に流れないように」と早めに内定を出し、内定者に一人ずつ担当者を付けています。月に一、二回は電話やメールで連絡を取り、プライベートで食事に誘うなど内定後の相談役になろうとしています。
人事担当者は「学生の側に余裕がある」と話します。「以前は一人で四十社以上の説明会に参加していた学生が、いまは平均で十社かそれ以下。最初から会社を絞り、福利厚生や給料など現実的な質問をしてくる。いい条件で働けるところを探している感じです」
イベントに参加した学生のなかには「自分の力を発揮できるのは、大企業より中小企業の方かな。人数が少ない中小企業の方が、自分をちゃんと見てくれるような気がするから」という声もありました。
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働き方にも目を向けて
日本大学経済学部学部長 牧野 富夫さん
学生の就職状況は表向きよくなっているのは確かです。しかし、労働状況の中身が変わらなければ「よくなっている」と楽観的に見るのは難しいでしょう。
大企業が採用を増やすのは、辞めることも見越してのことだと思います。実際に働く中で淘汰(とうた)され、ついていけない者はしょうがないという考えもあるでしょう。
大企業の労働者管理が従業員同士を競争に駆り立てる仕方になっているもと、入社一年目でメンタルヘルス障害で体を壊す人も出てきています。三年以内に三割以上の新卒者が離職しているという実態もあります。
離職の要因はさまざまだとしても、長時間労働などで自分の時間が持てず、将来の人生設計を持ちにくいまま働いているケースも多くあります。
ゼミの学生たちには、働くことになったら厳しい現実があることを話していますが、就職後、相談に来ると「先生がいってる以上に厳しい」といっています。
大企業は、国際競争力を強めるという大前提で、労働者のコストを安くすることを追求しています。就職ができても、長い労働時間、成果主義賃金などの現実は学生たちが抱いているイメージとは異なるものです。就職できたからといって喜べるわけではありません。問題は就職後の働き方です。
お悩みHunter
定時で帰る派遣社員 残業してといえない
Q 私は正社員として働いて三年目。私のもとに派遣社員が一人きました。仕事はきっちりやってくれますが、時間がきたら即、帰ります。忙しいときなど「残業してでもやって」ともいえません。派遣の人とも気持ちよく働きたいのですが…。(25歳、女性。大阪府)
残業でない連帯方法探って
A 「派遣の人とも気持ちよく働きたい」と願うあなた。なんて素朴で優しい人なんでしょう。でも、「残業してでもやって」と頼める関係が本当にいいのでしょうか。
派遣社員は、あくまでも派遣会社のスタッフ。あなたの会社と契約した内容に従って、忠実に五時まで仕事をすることこそ、派遣社員の責務です。いくら人手が不足しているからといって、別の会社のスタッフに契約を超えた仕事をさせられないのです。悲しいことに分断されていて連帯できないのです。
二十年前に「派遣法」が施行され、その後規制緩和が進み今や十人に一人が派遣労働者。若者では三人に一人ともいわれるほど拡大しました。ところが、派遣の実態は好きなように自分のペースで仕事ができる身分などではなく、いつでも首切りができる、便利な「使い捨て労働力」でもあるのです。多くの場合、交通費も支給されず、不安定雇用と低収入に苦しんでいます。
今年一月から開始されたテレビドラマ「ハケンの品格」(日本テレビ)が、20%前後の高視聴率をキープ。話題を呼んだのも、ハケンのあまりにも厳しい現実に対して、篠原涼子扮(ふん)する大前春子が、正社員を向こうに回して、二十六もの資格を武器に大活躍する姿に多くの派遣視聴者が共感し、スカッとしたからでしょう。あなたもぜひ、派遣社員への理解を深め、残業ではない連帯の方法を探ってください。あなたならできます。
教育評論家 尾木 直樹さん
法政大学キャリアデザイン学部教授。中高二十二年間の教員経験を生かし、調査研究、全国での講演活動等に取り組む。著書多数。



