2007年3月9日(金)「しんぶん赤旗」

歴史の真実 直視を

国内外から非難集中

安倍首相 「慰安婦」発言


 安倍晋三首相は「従軍慰安婦」問題で、「人さらいのように連れていく強制はなかった」と強制性を否定しました(五日の参院予算委員会)。これには、国内はもとより、韓国や中国、米国や東南アジア諸国などから国際的な非難が集中しています。安倍発言はなぜ許されないのか、改めてみてみました。(田中一郎)


国家と軍による大がかりな強制

 首相の発言は「官憲が家に押し入って人さらいのごとく連れて行くという強制性はなかった」「慰安婦狩りのような強制性があったという証言はない」というものです。“「慰安婦」は強制ではなく、政府に責任はない”と印象づける狙いが透けてみえます。

 しかし、首相の主張は、みずから「継承する」と述べた、河野洋平官房長官(当時)の談話(いわゆる「河野談話」、一九九三年)にも真っ向から反するものです。

 河野談話は、軍の関与を明確に認めた上で、「慰安婦」が「本人たちの意思に反して集められた」もので、「官憲等が直接これに加担したこともあった」と明記しています(別項)。

 政府は、この河野談話と同時に、談話の背景となる調査結果をまとめた内閣官房外政審議室の文書(「いわゆる従軍慰安婦問題について」)も発表しています。

 それによれば、談話作成のため、防衛庁(当時)や外務省、警察庁、米国立公文書館など十の内外政府機関を調査。元「慰安婦」や元軍人、元朝鮮総督府関係者などから聞き取りを行い、この問題についての「本邦における出版物のほぼすべてを渉猟(しょうりょう)した(読みあさった)」としています。

 その結果、明らかになった事実として、次の点を挙げています。

 ――慰安所の開設は、当時の軍の要請によるものだった。

 ――慰安所の経営・管理は、軍が直接経営するか、民間業者の場合も、軍は直接関与した。

 ――「慰安婦」は、外出時間や場所が限定されており、「戦地においては常時軍の管理下において軍と共に行動させられており、自由もない、痛ましい生活を強いられたことは明らか」だ。

 政府は、こうした結論を根拠づけた当時の公文書も明らかにしました。

 集め方=徴募の方法だけでなく、その輸送・移動から慰安所の設置・管理に至るまで、「従軍慰安婦」の仕組み全体が、女性たちに兵士の性の相手を強制する、政府・軍による「性奴隷制」というべきシステムだったのです。

 こうして、日本が植民地としたり、軍事占領した地域から、おびただしい数の女性が動員されたのです。この非人間的な所業が、国家と軍による大がかりな強制なしに不可能なことは明らかであり、それを裏付ける無数の証拠も存在します。

 だからこそ河野談話は、元「慰安婦」たちに対し、「当時の軍の関与の下に、多数の女性の名誉と尊厳を深く傷つけた」として、「心からのお詫(わ)びと反省の気持ち」を表明したのです。

被害者を二重に傷つける発言

 「強制性を裏付ける証言はなかった」という首相の発言に至っては、元「慰安婦」たちをウソつき呼ばわりするものです。心も体も傷つけられ、人生を奪われた女性たちにとって、振り返るだけでもつらい過去を語った証言だからこそ、加害の側は正面から受け止めなければなりません。

 証言は、元「慰安婦」だけではありません。日本軍の元兵士からも、強制的に「慰安婦」を集めた「慰安婦狩り」を明かす証言は少なくありません(海軍経理学校補修学生第十期文集『滄溟』など)。

 談話を発表した当時に官房長官だった河野洋平氏は、新聞のインタビューで「本人の意思に反して集められたことを強制性と定義すれば、強制性のケースが数多くあったことは明らかだった」と述べ、「そもそも『強制的に連れてこい』と命令して、『強制的に連れてきました』と報告するだろうか」と指摘しています。(「朝日」一九九七年三月三十一日付)

 日本軍と政府は、戦争直後に重要な文書を組織的に大量処分しています。みずから証拠隠滅をしておきながら、被害者に対し証拠を示せというに等しい首相の主張は、居直りというべきものです。

 首相が、どんなに「強制」を認めたくなくても、河野談話を継承するというのなら、「歴史の真実を回避することなく、歴史の教訓として直視し」(同談話)、行動で示していく必要があります。


河野談話(抜粋)

 「従軍慰安婦」問題で、河野洋平官房長官(当時)が発表した談話(一九九三年八月四日)は次の通りです(抜粋)。

 …調査の結果、…数多くの慰安婦が存在したことが認められた。慰安所は、…軍当局の要請により設営されたものであり、慰安所の設置、管理及び慰安婦の移送については、旧日本軍が直接あるいは間接にこれに関与した。…募集については、軍の要請を受けた業者が主としてこれに当たったが、…甘言、強圧による等、本人たちの意思に反して集められた事例が数多くあり、更に、官憲等が直接これに加担したこともあったことが明らかになった。…慰安所における生活は、強制的な状況の下での痛ましいものであった。

 …政府は、…いわゆる従軍慰安婦として数多の苦痛を経験され、心身にわたり癒しがたい傷を負われたすべての方々に対し心からお詫(わ)びと反省の気持ちを申し上げる。


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