2007年2月19日(月)「しんぶん赤旗」

「憲法九条守れ」の声広げ、
改憲手続き法案許さぬたたかいを

日本共産党 市田忠義憲法改悪反対闘争本部長に聞く


 緊迫する改憲手続き法案をめぐる情勢とたたかいの方向について、日本共産党憲法改悪反対闘争本部の市田忠義本部長(書記局長)に聞きました。

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(写真)インタビューにこたえる市田忠義闘争本部長

手続き法案――改憲の前提条件つくるたくらみ

 ――「任期中の憲法改正」を公言する安倍晋三首相のもとで、自民・公明の幹事長・国対委員長は十四日、改憲手続き法案を五月三日の憲法記念日までに成立を図ることで一致するなど、緊迫した情勢になっています。この情勢をどうみたらいいのでしょうか。

 市田本部長 安倍首相は、年初から憲法改定を参院選の争点にするといい、改憲手続き法案の早期成立を指示しました。施政方針演説でも「憲法を頂点とした…戦後レジームを大胆に見直す」と宣言しました。「自分の任期中」と期限を区切って改憲を公言したのは、自ら認めたように戦後の歴代内閣でも初めてであり、憲法問題は重大な局面にきています。

 当面の重大な焦点は、改憲手続き法案ですが、これは自民党など改憲勢力が年来の野望にしてきたものです。なぜなら、憲法は一般の法律と違って国会の議決だけでは改定することはできず、主権者である国民が過半数の賛成を与えなければ承認されない仕組みだからです。つまり、手続き法をつくることが、改憲の前提条件であり、第一のハードルなのです。

 その第一のハードルを、こともあろうに憲法の果たしてきた役割、重要性をかみしめるべき施行六十年の記念日までに突破しようというのですから、憲法を愚弄(ぐろう)するとんでもないたくらみです。絶対に許してはなりません。

海外で戦争をする九条改憲と地続きの悪法

 ――なぜ、そんなに改憲手続き法を急ぐのでしょうか。

 市田 自民党の二階俊博国対委員長は五月三日までに手続き法案を成立させる理由として、「憲法を改正しようと思ったらいつでも改正に踏み切る状況をつくっていく」(二月十一日、NHKテレビ)ためだと語っています。

 では、「改正」しようとする中身はなにか。自民党はすでに九条改憲を柱にした「新憲法草案」を作成していますが、安倍首相のもとでその狙いはいっそう明確になりました。首相は、「自衛隊が海外で活動することをためらわない」(一月十二日NATO=北大西洋条約機構=理事会での講演)と公言しました。海外で武力行使ができるように集団的自衛権の行使を可能にすることが目的であることは明らかです。つまり、九条改憲をいつでもできるようにするために、そのための手続き法を早く成立させたいというのです。

 自民党や民主党は、手続き法案を「公正・中立なルールづくり」などといってきましたが、安倍首相の登場で単なる手続き法案ではなく、「九条改憲と地続きの悪法」だという本質と狙いが浮き彫りになりました。この本質を、再び海外で戦争する国になるのはごめんと願っている広い国民のみなさんにどれだけ早く広く知らせるかが、いま本当に大事です。

二割台の賛成で改憲も――最低投票率の定めもない

 ――手続き法案には与党案と民主党案がありますが、どんな問題点があるのでしょうか。

 市田 最初にのべたように、改憲手続き法案は、日本を「海外で戦争する国」にするための九条改憲と一体のものです。国民の多数は九条改憲に反対です。国民が望まない九条改憲をいかに通しやすくするか――改憲手続き法案には、そのための不公正・非民主的なしくみがたくさん盛り込まれています。

 第一は、両案とも、国民投票の最低投票率の定めがなく、少数の国民の賛成でも改憲案が承認されかねないという問題です。

 最近、ポルトガルで人工妊娠中絶をめぐって国民投票があったそうです。そこでは投票者の60%が賛成したものの、投票率が五割を割ったため、投票は成立しませんでした。昨年三月、米空母艦載機受け入れの是非を問う山口・岩国市の住民投票も投票率50%が成立要件でした。

 ところが日本で審議されている改憲手続き法案には最低投票率の規定がありません。そのため、たとえば投票率が四割でも二割でも投票は成立し、その過半数の賛成で承認されることになります。つまり、有権者の一割や二割の賛成で憲法が変えられるというとんでもない事態になりかねません。

 あるテレビキャスターは「ちゃんと投票率の下限を認めないで(国民投票を)やるというのは憲法を軽んじるもので、国民の意思を軽んじている」と指摘しましたが、そのとおりです。

 また、「過半数」といった場合、有権者総数の過半数、投票総数の過半数、有効投票総数の過半数などが考えられますが、与党案は一番ハードルが低い「有効投票総数」としています。「修正」で「投票総数」に変えたといわれますが、その「投票総数」は「賛成票と反対票の総数」であり、有効投票数を言い換えただけです。

公務員・教育者に重大な規制かけ、改憲勢力は「金の力」で宣伝独占の危険

 ――国民の運動には、規制があるのですか。

 市田 憲法を改正するかどうかは、主権者国民にとって最大の主権の行使です。ですから、一人ひとりの国民が平等に情報を得て、自由にその意思を決定し、権力に縛られることなく行動して一票を投じることが保障されなければなりません。

 ところが、改憲手続き法案は、五百万人といわれる公務員・教育者に重大な規制を設けているのです。それは、公務員・教育者が「その地位を利用して国民投票運動をしてはならない」というものです。一般の選挙のように誰かに投票してくれと働きかけるのではなく、自分は憲法改正に反対か賛成かを表明することと国民投票運動は区別がつきにくく、公務員・教育者に大きな委縮効果を生み出すことになります。

 罰則は設けないといいますが、違法行為とされれば行政処分はありうるわけで、公務員・教育者から主権者としての自由を奪い、ひいては国民投票の公正さを破壊するものになります。

 また、国民の運動の自由は奪っておきながら、一方で資金が必要なテレビ、新聞などの有料広告は投票日二週間前まで自由という問題があります。財界など改憲勢力がCMなどを独占し、「金で憲法を買う」ことになりかねません。

 日本経団連は二〇一〇年代初頭までに憲法改正をと主張しており、資金力のある財界や、政党助成金など国民の税金を山分けしている改憲政党などが金にあかせてCMを展開する危険もあるのです。

 ――政党の無料広告については、賛否平等にするという「修正」もあったと聞きましたが…。

 市田 政党は無料広告ができるという規定が盛り込まれていますが、当初の与党案、民主党案はともに、国会の議席数に応じて放送の時間や新聞紙面を割り当てるという案でした。そうなると、いまの衆参の議席数では、護憲派は共産党と社民党の議席数分、衆参で4・3%しか割り当てられないことになります。日本共産党の笠井亮衆院議員は、それを新聞紙に赤い紙を張って示し、「朝日」の論説にも取り上げられるなど、大きな反響を呼びました。その結果、議席数ではなく賛否平等にするといいはじめています。これ自体が、いかに改憲案を通しやすいものにしようとしてきたかを認めたようなものです。

 しかし、国民向けの公報などを行う広報協議会を、改憲案を発議する国会に設置し、構成も議席数に応じた構成にするという問題点は残されたままです。

 このように改憲手続き法案は、改憲案を通しやすくするための不公正・非民主的な仕掛けが盛り込まれているという事実を多くの国民に知ってもらう必要があると思います。

 ――改憲手続き法案には、憲法審査会を国会に設置するという国会法改定も含まれています。これはどうみますか。

 市田 憲法審査会は、改憲原案を提出できる権限をもつ機関です。国会の常設機関として、いつでも改憲案の議論をし、発議ができるようにするもので、改憲勢力が長年狙ってきたものです。しかも、国民投票にかかわる部分は、仮に法案が成立したとしても三年後の施行ですが、憲法審査会は、成立すれば次の国会から設置するとしています。この点でも、九条改憲と地続きの仕組みだといわなければなりません。

国民は手続き法案を望んでいない

 ――国会では、自民・公明・民主の多数で一気に通されるのでは、との危機感もありますが…。

 市田 たしかに、国会では、自民・公明と民主党が合作で手続き法案づくりをすすめてきました。民主党は憲法改定という日本の進路にかかわる基本問題で、自民党と同じ流れにいるからです。同党の枝野幸男議員は「できるだけ早く広範な合意にもとづいて国民投票法制を整備したい。希望としては憲法記念日の五月三日までには国会で法律を成立させたい」(昨年十二月十四日衆院憲法調査特別委)とのべたほどです。

 一方で、この間、改憲勢力の狙うスケジュール、たくらみをくじいて押し返してきたこともよくみる必要があると思います。改憲のための手続き法案と国会での改憲案作成機関の設置は、改憲勢力の年来の野望でしたが、衆参に憲法調査会を設置してから七年、衆院に憲法調査特別委員会を置いてからでも一年五カ月、いまだに両方とも実現できていません。それを阻んできたのは、国民の世論と運動です。日本共産党もそれと結んでたたかい、「共産党がいなかったらもっと早く(採決)できた」(中山太郎特別委員長)との声もあがるほど国会内外で奮闘してきました。

 ――たたかいの展望はどうでしょうか。

 市田 なにより、国民は改憲手続き法案を望んでいません。世論調査でも改憲手続き法案を「今国会で成立させる必要はない」という人が47%で多数です(一月十三、十四日実施のJNN世論調査)。安倍内閣に優先的に取り組んでほしいものとして「憲法改正」をあげている人はわずか7%(「読売」一月二十三日付)という調査もあります。

 地方紙の論調をみても「国民的な関心や議論も十分とはいえない中で、なぜ、法成立を急がねばならないのか」(京都新聞一月十一日付)「改憲手続きを急ぐことが国民の喫緊の要求とは思えない。戦力の不保持や交戦権の否認を定めた九条を改正する理由が説得力を持たない中で、改正ありきの流れを強引につくろうという姿勢は評価されまい」(琉球新報一月二十七日付)など慎重な対応を求めるものが多数です。

 国民のなかでは九条守れの声が大きく広がっています。「九条の会」は、一月末で六千を突破し、小学校区単位でつくられている地域もありますし、職場での「会」も急増しています。自民党県連の元幹部が参加したり、保守系首長・地方議会議長なども加わった「会」もあります。

 九条改憲の条件作りを狙う改憲手続き法案は、この国民世論との矛盾を激しくせざるを得ません。国民に手続き法案の狙いと本質を早く広く知らせれば、阻止する展望は出てきます。

 ――世界の流れとの関係ではどうですか。

 市田 北朝鮮の核問題をめぐる六カ国協議が「核施設の無力化」に向けて初期段階の措置をとることで合意に達しましたが、二十一世紀の世界では軍事ではなく外交こそが重要な意味を持つ時代になっています。イラクでも、アメリカによる侵略戦争と占領支配が破たんし、「内戦化」とよばれる泥沼の事態です。アメリカ国内でも、下院でイラク撤退決議の審議が可決されるなど、ブッシュ政権は孤立しています。

 こうしたなかで、九条を改悪して「海外で戦争をする国」にすることがいかに世界の流れに逆行しているかは明らかです。シンガポールの「連合早報」は安倍内閣の改憲路線について「日本がまた、『世界の問題国家』になる可能性がある」(一月十二日付)と指摘するなど、世界で警戒の声があがっています。

「九条守れ」の声で包囲し、世論と運動広げよう

 ――たたかいをすすめるうえで何が大事ですか。

 市田 なにより九条守れの声を大きく広げることです。改憲手続き法案は九条改憲の条件づくりなのですから、「九条守れ」の声で包囲していくことが大事です。同時に、九条改憲と地続きである改憲手続き法案そのものの問題点を明らかにして、手続き法案を許さない世論と国民的な運動、たたかいをつくっていくことが大事です。

 自民党の中川秀直幹事長は憲法問題で「自共は信念対信念の一大論戦を展開することになるだろう」とのべています。主権在民と平和を八十五年間一貫して掲げ、命がけで戦争反対を貫いてきた党として、改憲手続き法案を許さないために全力をつくす決意です。


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