2007年2月4日(日)「しんぶん赤旗」

ここが知りたい特集

経団連の政党「通信簿」

仕組みは? 思惑は?


 政治は国民全体でつくりあげていくものです。参政権のない企業がつくるものではありません。この国民主権の原則を覆そうとするのが、日本経団連(会長・御手洗冨士夫キヤノン会長)です。使う手法は政党「通信簿」に基づく企業献金です。その仕組みは? 思惑は? 効果は?(金子豊弘)

献金で“自民・民主競え” 

 大企業のリーダーを自任する日本経団連が政党の政策を評価して「通信簿」をつけ始めたのは二〇〇四年からです。これまでに四回、「通信簿」が作成されてきました。

 この方式の採用は、〇三年に経団連が発表したビジョン(通称「奥田ビジョン」)がきっかけでした。同ビジョンは大企業が「政治と『共感と信頼』に基づく真の協力関係を確立」することを目的に「政党を支援」することが必要だ、として経団連会員企業に献金を促すことを宣言しました。

 その対象には、政権与党だけでなく野党も含まれています。

 「野党は、政府・与党への単なる批判勢力から脱皮し、いつでも政権にとって代われるだけの能力を」(同ビジョン)

 この考え方をもとにして政権交代可能な保守二大政党制を目指した企業献金促進の仕組みが出来上がっています。

 〇三年五月十二日、経団連は会長・副会長会議を開き「政策本位の政治に向けた企業・団体寄付の促進について」を発表。「厳しい国際競争に勝ち抜くためには、旧来の諸制度、諸法制の改革を断行して、企業、個人が自由に創意工夫を発揮できる環境を整備することが急務」としました。

 この「改革」のスピードアップのために保守二大政党で政策を競争させる仕掛けが政党「通信簿」を使った企業献金です。国民の生活を守る法律や制度も企業の「国際競争力」にとって障害となれば破壊の対象、というわけです。

年間サイクルで政党監視

 政党「通信簿」による政策評価の仕組みはこうです。まず、経団連が「緊急かつ重要と思われる」十項目の「優先政策事項」を決定します。〇七年分は一月十日に発表されています。この「優先政策」は、経団連がことあるごとに行う提言に基づいています。十項目の内容は毎年改定されます。これが通信簿の模範解答です。

 この項目ごとに経団連の要望と政党の政策との「合致度」、政策の実現に向けた「取り組み」状況、実際に成し遂げた「実績」の角度からA(推進)からE(逆行)までの評価を行います。実績がないものは「−(横棒)」とします。最初の評価は〇四年の一月に発表しました。二回目は同年の秋。その後、評価の発表は年一回となり、〇五年も〇六年もその時期は秋口です。秋口に発表する理由は、毎年一月から開かれる通常国会での実績を踏まえて評価するためです。通信簿には「総評」と「包括的事項の論評」という記述式の欄とともに、項目ごとの「特記事項」欄があります。

 また、〇五年からは自民党や民主党と「党と語る会」を開催して“口頭試問”を行っています。自民党とは〇六年夏に「関西地区会合」まで開いています。

 「語る会」では政党側が経団連が示す「優先政策事項」に対する自党の「政策の内容」および「政策実現に向けた取り組みと実績」を提出します。〇七年の「語る会」は、参院選挙を間近に控えているため春先に予定されています。

 「真摯(しんし)に政策の企画・立案・実施に取り組む政党を支援するため、政党の政策評価を実施」。今年一月に発表された経団連のビジョン「希望の国、日本」(通称「御手洗ビジョン」)はこう強調しますが、「支援」というよりも、経団連による政党の「監視」です。

 秋から年初にかけて「優先政策事項」を発表。春から夏にかけては「党と語る会」を開催。秋口には経団連による評価を発表。政党の政策への「監視」システムが年間サイクルで出来上がっています。一方、政党側は、企業献金の増額を求めて模範解答に合った政策づくりと実行に励む、ということになります。

 実際この間、自民・民主の間で「構造改革」路線が競われました。外資企業の献金を解禁する政治資金規正法が民主党も賛成し成立。経団連会長企業のキヤノンの献金が可能になりました。

 また、財界が長年要求してきた郵政民営化を実現させ、研究開発減税の拡充や証券税制の温存など大企業・大資産家への減税措置もとられました。


目的は政策買収そのもの

 経団連事務局の元最高幹部は、「企業活動を向上させる環境をつくるのが企業献金の目的だ」と指摘します。そこで、「通信簿」の「優先政策事項」の主な内容はどのようなものか、〇七年版からその特徴をみてみます。

 十項目の冒頭に掲げるのは、「税・財政改革」の項。「社会保障関係費の抑制」などの「徹底的な歳出削減」を求める一方で、消費税増税を提起しています。しかも、企業には「法人実効税率は30%を」と、現行より10ポイント引き下げることをずうずうしく要求しています。

 「雇用・就労の促進」の項では、“残業代ゼロ・過労死促進法”であるホワイトカラー・エグゼンプション制度の導入を求めています。地域経済の分野では「道州制の導入」を強く主張。道州制の検討組織を設置し、推進計画、工程表の策定を求めています。道州制は単に「都道府県の再編」ではなく、国の仕事を外交・防衛などに限定し、社会保障や福祉などの仕事を地方自治体に押しつけて、住民サービスを破壊するものです。

 「外交・安全保障」の項では、一〇年代初頭までに改憲することを提起。改憲手続き法案である国民投票法案の「早期成立」を求めています。

 これらの政策に合致し、実行する政党は「買いだ」とばかりに、企業に献金を促すのが政党「通信簿」の役割です。経団連会員企業・団体からの献金額は、二年間で約六億円増え、二十五億円程度(〇五年分)となりました。

 企業の都合のいい政策を実行させる最大の武器が企業献金というわけですから、まさに政策買収です。


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