2007年1月17日(水)「しんぶん赤旗」

急がれるマンション耐震対策

診断・改修へ公的支援を

阪神・淡路大震災を教訓に


 耐震強度偽装事件に続き、昨年末には“最新の耐震基準で建てられたマンションの7%に耐震性不足の疑いがある”という国土交通省の調査結果が発表され、マンション住民に不安が広がっています。死者の八割以上が住宅の倒壊で命を落とした阪神・淡路大震災から十二年。耐震改修等の促進へ行政の対策が急がれます。

地域差が大きく

 国土交通省の発表などによれば、〇五年十月現在で、マンションの耐震診断に補助を実施しているのは全国で二十特別区百二十七市三十五町、耐震改修に対する補助は五特別区四十七市十七町です。地域格差が大きく、実施市町村の割合が多いのは、阪神・淡路大震災を経験した兵庫県(全市町村で実施)や大阪府、また、地震に対する住民の不安が強い東京都(首都直下型地震)、静岡県・岐阜県(東海大地震)の他は、滋賀県など一部に限られています。

 とくに深刻なのは、耐震補強の必要性が高いマンションの多い地域でも、補助を実施していない自治体があることです。阪神淡路大震災では、一九八一年六月に耐震基準が改正される以前の旧耐震マンションで、一階が駐車場など壁のないピロティ形式の建物や、一階が店舗や事務所など構造のバランスが単純でない建物にマンションの倒壊が集中しました。総務省の住宅・土地統計調査(二〇〇三年)から推計すると、旧耐震マンションは大都市部、とりわけ三大都市圏(首都圏、近畿、東海)に多く、マンション戸数に占める割合も、千葉県(35%)、京都府(34%)、大阪府(32%)、東京都(30%)などが全国平均(25・5%)を上回り、上位を占めています。

 このようなマンションの分布を反映し、東京二十三区や政令指定都市の多くが耐震診断・耐震改修に対する補助を実施しています。しかし、東京二十三区でも、品川、豊島、荒川の三区、政令指定都市でも、京都市、北九州市には補助がありません。地域のマンションの実態にふさわしい補助を実施しているか、すべての自治体で検証が必要です。

 もちろん、行政の補助がなくても、住民自身の負担で耐震診断・耐震改修を行うマンションもあります。総務省の統計でも、東京都、神奈川県に加え、兵庫県、大阪府、そして絶対数は少ないものの静岡県などで、耐震改修を行ったマンションの割合が増えています。そこには、住民の防災意識の強さが反映しています。

 阪神淡路大震災の被災マンションがいまだに再建途上で残されているように、被災後のマンションの復旧・建て替えは建物を共有する住民の合意形成が難しいだけに、地震に備えて耐震改修等をすすめておくことは重要です。

合意形成に困難

 ただ、マンションの耐震改修には、費用負担とともに、住民の合意形成がハードルとなります。このため、“行政の補助はマンションが耐震診断・改修をすすめる上で強い後押しになる”と、多くの管理組合役員や、現場で耐震補強にとりくんでいる専門家・実務家は指摘します。実際に、一九九八年から国や全国に先駆けて無料で簡易耐震診断を行ってきた横浜市は、旧耐震マンションの88%が診断を終えています(「朝日」七日付)。

 今後の課題としては、耐震診断に対する補助だけでなく、耐震改修に対する補助なども実施・拡充し、耐震性に問題ありと判定された場合に耐震改修工事にスムーズに進めるような環境を整備することが必要です。また、現在の国の補助制度は、建物全体を新しい耐震基準に完全に適合させる工事だけが対象となっています。これを、ピロティ部への壁の増設など、建物の一部補強も対象に加えるなど、利用しやすくすることも必要です。

 世論に押され、今では国も、補助を実施する自治体を財政的に支援しています。来年度も、マンションの耐震改修工事に対する補助率を一部引き上げる方針です。しかし、自治体が補助を実施していない地域の住民は利用できません。

 昨年四月には宅建業法の施行規則が改正され、旧耐震マンションの売買・賃貸時には耐震診断の実施の有無とその結果について説明が義務づけられました。これは今後、耐震診断・耐震改修をしていない旧耐震マンションへのペナルティーとなります。しかし、旧耐震マンションも建設当時は法令を順守していたのであり、いま、住民だけが不利益を背負う筋合いはありません。行政もふさわしい責任を果たすべきです。

 マンションの耐震補強の有効性は多くの専門家の指摘するところであり、建物を長持ちさせるためにも必要です。すべてのマンション住民の不安にこたえ、国と地方自治体が連携して、耐震診断・耐震補強に対する公的支援を強めることが重要です。

 (日本共産党政策委員・マンション管理士 榛田敦行)

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