2007年1月7日(日)「しんぶん赤旗」

「希望の国」はだれのもの

御手洗ビジョン

財界が描く日本の「姿」


 日本経団連(会長・御手洗冨士夫キヤノン会長)は一日、向こう十年の日本の方向性を示した「希望の国、日本」(「御手洗ビジョン」)を発表しました。「ビジョン」が示す日本の将来像とは…。(金子豊弘)

消費税10% 法人減税5兆円

 「ビジョン」は「政府が果たすべき役割を大胆に見直し、最小限のものに定義し直す」といいます。

 税制「改正」もその一つ。大企業の税負担は軽くし国民には重い負担を、というのが「見直し」の中身です。「ビジョン」は、「法人税の実効税率を30%程度の水準に。二〇一一年度までに消費税率を2%程度引上げ」といいます。企業には減税しろ、その財源は消費税で賄え、とあけすけです。消費税については、一二年度以降、「消費税率に換算して3%程度の増税」が必要との認識を示しています。つまり、消費税は二段階で引き上げ税率を10%にする庶民大増税計画です。増税額は約十三兆円に達します。

 一方、現行の法人実効税率約40%を30%程度にすれば、トヨタ自動車一社で一千億円、キヤノンは四百億円、全体では五兆円近い大減税です。

 格差社会の弊害に対して「ビジョン」は「必要最小限のセーフティネット(安全網)」で、といいます。安全網が“最小限であればあるほどけっこう”と言わんばかりです。しかも、「その提供を公的制度にのみ委ねる必要はない」とします。暮らしを支える政府の役割の徹底した縮小です。

 一方、一握りの大企業が恩恵を受けるイノベーション(革新)のための大型国家プロジェクトの推進を要求。対外経済援助も、「民間経済活動の活発化」を重視せよ、といいます。

規制緩和で労働者使い捨て

 「ビジョン」は、道州制を一五年度をめどに導入することを提起しました。近年、アジア諸国の台頭により地方が直接海外と連携する動きが出ているものの、都道府県の行政機関が「推進力や機動力に欠け(ている)」といいます。「各地は、地域間競争のみならず国際競争にもさらされる」と道州制導入の必要性を強調します。道州制によって大企業の体つきにあわせた「広域的な経済圏」を形成させることでグローバル(地球規模)に活動する多国籍企業にもっと「魅力」ある地域をつくれ、というものです。

 いまでも、都道府県は大企業を呼び込むために巨額の税金をつぎ込んでいます。グローバル化を背景に、今度はその規模を広域化させ、いっそう自治体財政を多国籍企業の食い物にすることを狙っています。

 労働問題について「ビジョン」は「労働関係諸制度を総点検していく必要がある」と提起します。政府による「行き過ぎた規制・介入」がないか、「労働者保護」の制度が企業の都合にあった「円滑な労働移動の足かせとなっていないか」などといい、労働分野の「規制は最小限」にすることが「待ったなしの課題」と言い切ります。

 いま、働いても貧困から抜け出せないワーキングプアが社会問題になっています。派遣・請負、不払い残業、低賃金・不安定労働によって貧困と格差が拡大しました。これは、大企業がコスト削減のため、正社員を非正規・不安定労働に大規模に置き換えたこと、そして政府が財界の要望にそって労働分野での規制緩和を行ったことが元凶です。

 いっそうの規制緩和を求める「ビジョン」によって引き起こされる現実は、大企業はボロもうけ、労働者はボロぞうきんのような使い捨て、というものです。

 人間の尊厳さえ奪う貧困と格差をさらに拡大させることにしかなりません。

「戦争する国」へ9条変える

 イノベーションを強調する「御手洗ビジョン」。「憲法などの変革」も「広義のイノベーション」に位置付けます。戦力不保持をうたった憲法九条二項を見直し、自衛隊の保持を明確化することを求めます。さらに、自衛隊が「主体的な国際貢献」を行えることを明示し、集団的自衛権の行使ができることを明示せよ、と求めています。

 これは、アメリカの先制攻撃の戦争に参戦するために、自衛隊を「戦争のできる軍隊」にし、日本を「戦争をする国」につくりかえることにほかなりません。

 いま、世界では憲法九条が国際社会の平和秩序をつくっていく上での指針になっています。「ビジョン」は「世界から尊敬され親しみを持たれる国」を目指すとしていますが、逆に世界からますます孤立する国になっていくでしょう。

 また、「ビジョン」は愛国心教育を重視します。「国旗・国歌を大切に思う気持ちを育む」として、教育現場のみならず、官公庁や企業、スポーツイベントなどで日常的に国旗を掲げ、国歌を斉唱することまで求めています。


政党の政策を監視

企業献金で利益誘導

 日本経団連は、政党の政策評価をもとに企業献金を行う方式をとっています。この“通信簿”方式による献金促進策は、大企業・財界本位の政策の実行を求める利益誘導そのものです。

 「ビジョン」は「真摯(しんし)に政策の企画・立案・実施に取り組む政党を支援するため、政党の政策評価を実施」と改めて強調。政党の政策の企画立案から実施にまで監視の目を光らせることを明らかにしています。さらに、経団連のシンクタンクである二十一世紀政策研究所を、「政党における政策人材や政治任用者などを育成・輩出する場としても充実させる」として今後、人材育成にも力を入れることを表明しています。


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