2006年12月20日(水)「しんぶん赤旗」

財界のための「希望の国」か

日本経団連の経労委報告

雇用・労働“無法地帯に”


 日本経団連の〇七年版経営労働対策委員会(経労委)報告は、空前のボロもうけをあげても賃上げに反対するとともに、不安定雇用の拡大と労働法制の改悪を打ち出しました。むき出しの資本の論理に貫かれており、企業の社会的責任が改めて問われます。(深山直人)


史上最高益も賃上げを拒否

 大企業がバブル期を上回る史上最高の利益を謳歌(おうか)しているにもかかわらず、国民のなかには貧困と格差が広がり、家計消費が伸びないなど景気の先行きにも不安が広がっています。

 日本経済を健全な発展軌道に乗せていくため、賃上げや安定雇用によって労働者・国民の家計を豊かにし、社会保障の切り捨てや庶民増税など国民負担増路線を改めることが求められます。

 ところが、経労委報告は、「生産性の向上の如何(いかん)にかかわらず、賃金水準を底上げするベースアップはありえない」と表明。「歴史的低水準」と指摘される労働分配率(付加価値に占める人件費の割合)の引き上げにも、「賃金や雇用の安定性を損ね、企業経営に大きな影響を及ぼす」と拒否しています。

 ここには、今年、大企業労組も含めて「春闘復活」といわれるほど労働者のたたかいが広がったことへの危機感が読み取れます。

 かつて財界は“賃上げは生産性の枠内で”といって賃金を抑え込んできましたが、生産性にかかわらず賃上げなしというのは、そのデタラメぶりを改めて示すものです。

 「経営者には自社のためのみならず、公のために働き、社会への貢献を果たす『公徳心』が求められる」というのなら、ボロもうけを社会に還元することが求められます。

雇用破壊がさらに進む

 雇用をめぐっても、社会的責任が問われています。青年では二人に一人が不安定雇用に置かれるなど低賃金の非正規雇用が拡大し、大きな社会問題になっています。

 製造業への派遣解禁など政府の後押しを受けて正規雇用を派遣やパートなど不安定雇用に置き換えてきたからです。

 不安定雇用の拡大に歯止めをかけて安定雇用を増やすとともに、正社員との均等待遇など待遇改善が求められています。

 ところが、経労委報告は、「どのような雇用形態で採用し、活用するかは経営戦略の重要事項であり、雇用形態の転換を法的に強制することは適当でない」と強調。競争力強化のために「新しい働き方」が必要だとして不安定雇用の拡大や、残業代ゼロの「ホワイトカラーエグゼンプション」(労働時間規制の適用除外制度)導入など労働時間規制の撤廃を打ち出しています。

 エグゼンプション導入では「企業の労使自治にゆだねるべき」だとしていっさいの要件設定にも反対しています。

 労働法制は、労働者を保護するために罰則付きの強行法規で使用者の横暴を規制するものです。それを撤廃せよというのは“無法地帯で自由にさせろ”という身勝手な論理でしかありません。

 それもそのはず、御手洗経団連会長が、「偽装請負」で自身のキヤノンが摘発を受けると、「法律が悪い」といって開き直っているからです。

破たん直面行き詰まる

 見逃せないのは、こうした財界戦略がすでに深刻な行き詰まりと破たんに直面していることです。

 社会問題となった格差の拡大について「格差問題にたいする考え方」という項目をわざわざ設けたのもその表れです。

 結論は「公正な競争の結果としての経済的な格差が生じるのは当然」と開き直るものですが、行き詰まりは隠せません。

 「規制改革が格差を拡大させているという意見もある」として「規制改革とは競争条件を公正・公平な形に整えること」と弁明するのも、これまでになかったことです。

 耐震偽装事件やライブドア事件などに見られるように、規制緩和が弱肉強食・ルール破りの不公正競争を助長し、国民の安全や安心が壊されることが、誰の目にも明らかになったからです。

 財界あげて推進してきた成果主義賃金についても各企業で破たんが相次ぎ、「公正で納得性の高い制度の整備が急務」といわざるをえません。

 長時間労働などが原因のメンタルヘルス不全について「従業員の心身の健康の維持は健全な企業経営の遂行の欠くべからざる課題」と初めて言及したのも、深刻な事態に直面しているからです。

 しかし、「本人の自己管理」と「上司の役割」に任せるだけで、長時間労働の短縮や労働者の人間関係を破壊する成果主義の見直しなど大本にはふれられません。

 報告は「われわれは日本を『希望の国』にしたいと考える」といいますが、浮かび上がってくるのは財界にとっての「希望の国」でしかありません。行き詰まりと破たんに直面しながらも、横暴勝手な道をすすむなら、国民との矛盾はますます深まらざるをえません。


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