2006年12月14日(木)「しんぶん赤旗」

タイヤ脱落欠陥隠し

虚偽報告あったと認定

国交相の報告要求は認めず 三菱ふそう元会長ら無罪

横浜簡裁


 三菱自動車製大型車のタイヤ脱落の欠陥隠しをめぐる三つの刑事事件で、リコール(回収・無償修理)を回避するため国に虚偽報告したとして道路運送車両法違反の罪に問われた三菱ふそうトラック・バス元会長宇佐美隆被告(66)ら元役員三人と、法人としての三菱自動車への判決が十三日、横浜簡易裁判所でありました。


 小島裕史裁判官は、タイヤ脱落を招いたハブという部品の不具合について、同社によるデータの改ざん・隠ぺいを事実認定しましたが、法にもとづく「(国土交通大臣からの)報告要求が存在したとは証拠上認めがたい」として、全員を無罪(求刑罰金二十万円)としました。

 三つの刑事事件で初の判決で、横浜簡易裁判所が虚偽報告を事実認定したことで、同社の安全軽視の企業体質があらためて指弾されました。判決が指摘した国土交通大臣の名による報告を求めた文書の不存在は、同省の行政指導のあり方も問うものになりました。

 事件の発端は、二〇〇二年一月の横浜市で発生した同社(〇三年一月に三菱ふそうトラック・バスを分社)製大型車のハブ破損・タイヤ脱落による母子死傷事故。判決は、過去に同様のハブ破損が約四十件発生しており、そのうち九件の不具合で、データ隠ぺいと改ざんをおこなっていたことを認定。整備不良とする被告らの主張も「『想定の範囲を超えた』整備不良や過酷使用を疑わせるデータは存在しなかった」と退けました。

 判決を受け、横浜地検は「控訴する方向で上級庁と協議したい」とコメントしました。


 三菱欠陥裁判 三菱自動車工業と三菱ふそうトラック・バスの欠陥隠しでは、三事件で八被告と一法人が起訴されました。横浜簡裁で審理された虚偽報告事件のほかに、横浜市瀬谷区で母子を死傷させた業務上過失致死傷事件と、山口県周南市でトラック運転手が事故死した業務上過失致死事件の二つの公判が横浜地裁で行われています。

 二○○二年一月に発生した横浜市の事故は、車軸部品ハブの欠陥が原因とされ、元三菱自部長の村川洋被告ら二人が起訴されました。同年十月に起きたクラッチ系統部品の欠陥による山口県の事故でも、元同社社長河添克彦被告や元ふそう会長宇佐美隆被告ら四人が起訴されました。


解説

人命軽視 国の甘さも浮き彫りに

 リコール(回収・無償修理)すべき欠陥車を放置したまま、事故が起きると「整備不良」と責任転嫁し、国民の生命を危険にさらす――。横浜簡裁判決で三菱自動車の無責任な体質があらためて浮き彫りになりました。

 裁判の争点は二つでした。(1)国交省による報告要求があったのか(2)三菱側が故意に虚偽報告したのか―でした。判決は前者について、「国土交通大臣からの正式な報告要求の証拠はなかった」としました。しかし、後者については、明確に三菱の報告内容に事実の隠ぺいを含む虚偽があったことは認めました。

 同社をめぐっては、二〇〇〇年に三十年にも及ぶリコール隠しが内部告発で発覚。虚偽報告をしていた時期は、宇佐美被告らが株主代表訴訟に訴えられていたときでもあります。

 横浜タイヤ脱落事故は当初「前例のない事故」と報じられましたが、本紙の追及で過去の同種事故が次つぎに判明。一九九九年のJRバスのタイヤ脱落事故でも欠陥が隠ぺいされました。この時点で適切な対応がされていれば横浜の事故で犠牲になった岡本紫穂さんのかけがえのない命を失うことはなかったのです。

 国土交通省の対応も問題です。

 〇二年五月の衆院国土交通委員会で、日本共産党の瀬古由起子議員(当時)が質問。

 当時の洞駿自動車交通局長は答弁で「(二〇〇〇年のリコール隠しで)すでに社会的なペナルティーを受け、リコールを隠したら企業存立を危うくし経済的にも引き合わないとの認識が浸透してきている」と三菱がリコール隠しをくりかえさないはずだと、擁護していました。

 しかし、実態はまったく違いました。国交省側が、ハブの欠陥が相次いだにもかかわらず、法律にもとづく点検個所にしなかったのも、「規制緩和の時代に規制強化はできない」(国交省自動車交通局)という国の方針があったからと説明しています。

 欠陥車に限らずパロマ製ガス湯沸かし器の事故など人命にかかわる製品の安全問題では、監督官庁が、企業側に厳しく対応することが求められています。(遠藤寿人)


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